第10話 最高の仲間
わたしたちには変わりなく接する涼が希とは一言も言葉を交わさない。
そんな日が何日か続いた。
希は1人で悩んで、すごく辛かったと思う。
「希、大丈夫?」
「うん。わたしね、決めたの。」
「ん?」
「涼くんがどうしてあんな態度をとるのか全然わからないし、どうしたらいいのかもわからない。でもね、わたしはすごく涼くんが好きなの。いつかは話してくれるかもしれないし、また前みたいに戻れるかもしれない、戻れないかもしれないけど・・・。でも、わたしは涼くんを好きでいるの。だから、もう泣かない。辛いよ。辛くてたまにへこむけど、涼くんが前にね、わたしの笑顔が好きって言ってくれたから、涼くんの前で笑うんだ。」
「希・・・。」
すごいよ。
希はすごい。
すごくかっこいい。
「そっか。希が決めたんだったらわたしは見守る。でも本当に辛くなったらわたしに寄りかかってきてもいいんだよ。」
「うん、ありがとう。」
笑う希の顔は好きな人を思うことが幸せなことなんだよって語ってるかのような優しい笑顔。
『頑張って!!』心の中で希に呟く。
ここでの生活も残り2週間を切った日の夜。
久しぶりにみんなで飲みに行くことになった。
今日はお店を閉めて修さんも一緒。
このメンバーでいると本当に楽しい。
最高の仲間がいて、大好きな人がいるこの場所がわたしにとってすごく居心地がいい。
一応気を利かせて希を涼を近くに座らせる。
希はみんなに話しかけるように涼にも話をかけている。
目を合わせようとはしないが涼はうなずいたり短いけど言葉を返す。
その姿に安心したのか自然と笑顔が出る。
「よかった。」
呟くわたしの声が聞こえたのか修さんがわたしを見て微笑む。
「ここでの生活も残りわずかだな。」
「あぁ。」
連さんの言葉にヒロさんが頷く。
現実に引き戻された感じ。
そう、もうすぐここでの生活も終わるんだよね。
まだそれが受け止められなくて実感もわかない。
「地元帰ったら花見やろうぜ!!」
連さんの突然の思いつき。
花見。
私たちの地元は意外と近い。
みんな関東だし、会おうと思えば会えない距離じゃない。
「じゃ、決まり!!」
話をまとめたのはいつもは大人しい修さん。
ここで終わりじゃないんだ。
地元に帰ってもわたしたちは仲間。
そう思ったら悲しい気持ちも吹き飛んだ。
2時間ほどしてわたしたちはお店に戻ることにした。
すると急に道路脇にある木に登る涼。
・・・・。
「どうしちゃったの?」
隣に居たヒロさんに言うと何を思ったか涼が登った木の隣の木に登りはじめたヒロさん。
「飲みすぎたんじゃない?」
笑いながら2人を見つめる修さん。
希も大笑い。
ヒロさんのキャラがどんどん壊れていく・・・。
でもどんなヒロさんでもわたしは好き。
わたしも一緒になって大笑いする。
一方で連さんは道端の雪の山にダイブした。
「優奈ちんも。」
それを見ていた涼がわたしの背中を思いっきり押す。
ドスっという音と共に雪の中に全身を埋もめる。
「っつ・・・・つめたーい!」
ヒロさんに押された修さんと希も次々に雪まみれに。
まったく・・・。
この3人って、ホントにバカ。
「最高!!」
涼が大声で叫ぶ。
そこを通る通行人が笑ってるのが聞こえる。
「最高!!」
隣で希が叫ぶ。
少しビックリしたけど、こうゆうのもいいなって思えた。
青春してる感じ?
すごく幸せな時間。
こんな時間がずっと続けばいいのに・・・。
「優奈、ありがとう。」
「ん?」
ヒロさんが小さな声で言ったのを聞き逃さなかった。
ありがとうって・・・。
「おやすみ〜。」
意味のわからないままヒロさんは何も言わず、連さんと涼と一緒に帰っていった。
『ありがとう。』
わたしの好きなやさしい声が耳に残る。
と同時に切なさがわいてきた。
― 離れたくない。―
なぜかその時そう思った。