第97話 ジギスムント・クンツ男爵
ローザさんとエミーリアさんの先導で、オツスローフの町の教会を目指して歩く。2人にとっては里帰りみたいなものだからね。オツスローフはインシピットよりも北に位置するから、少しだけ気温が低い。獲れる農産物も違うんだろうなあ。そこも、しっかりと把握しないとね。
町に入って約20分後、教会についた。正面から入る。ローザさんとエミーリアさんは奥に繋がる通路まで行き、
「アキーム先生、帰ってきたよー。ローザとエミーリアだよー。」
と、ローザさんがアキーム先生という方を呼んでいる間、僕は、フォルトゥナ様の像に祈りを捧げる。すると、握っていた手の平に文字が浮かび上がった。
“飛ぶときは白い羽が背中に生えるようにしたわ。アイツがうるさくてね。ごめんなさいね。 フォルトゥナより”
ありゃ、やっぱり生えるようになっちゃったか。まあいいや。それよりもアキーム先生だ。彼はドスドスと足音を響かせてやって来た。額から顎にかけて大きな傷跡があり、体躯もアントンさん並みだ。武僧かな?
「おお、ローザにエミーリア、久しぶりですね。どうですか、冒険者稼業は?危ない目には遭っているでしょうが、命にかかわる怪我などはしていないようですね。安心しました。それと、貴女方が定期的に送ってくださる、お金ですけど、この2週間は急に金額が増えましたね。まさか、体を売ったりしているのではないでしょうね?」
「やだなあ、先生。そんなことするはずないじゃない。今ね。私とエミーリアは“シュタールヴィレ”っていうパーティに在籍していて、大きな依頼や狩りをこなしたのよ。それで、あのフォルトゥナ様の像の前にいる男の子がリーダーのガイウス・ゲーニウス辺境伯様、女の子がクリスティアーネ・アルムガルト様、エルフの女性が準1級で騎士のユリア・レマー様、大剣背負った先生並みの大男が準3級のアントンさんよ。みんな、この強面の人がこの教会の神官長アキーム先生よ。」
紹介をされた僕たちは、それぞれの礼をする。アキーム神官長も同様に礼をしてくる。そして、キラキラとした目で聞いてくる。
「失礼ですが、ガイウス・ゲーニウス辺境伯様とは、先日、フォルトゥナ様よりお告げのあった使徒のガイウス・ゲーニウス辺境伯様でしょうか。」
「はい、そうです。証拠をお見せしましょうか?」
「なにかあるのですか?」
「ええ、空を飛ぶことができます。皆さん少し離れてください。・・・ほら、こんなふうに翼を戴きました。」
「おお!?素晴らしい。ガイウス様が、このナーノモン領をゲーニウス領としてお治めになるとお聞きまして、いつかお会いできるだろうと思っていましたが、まさか、こんなに早くお会いできるとは・・・。フォルトゥナ様とガイウス様に感謝を。」
跪いて祈りを始める。その声を聞いて奥から他の神官さんや巫女さんが出てきて、同じく跪いて祈りを始める。どうしたもんかと思っていると、馬の嘶きが表から聞こえた。それと同時に、
「神官長!!アキーム神官長はいらっしゃるか!!」
と立派な体躯の男性が入ってきた。軍服を着ているので軍人さんかな?あ、左胸の勲章をつけるとこに貴族章の略章がついている。貴族様だ。
「おお、ジギスムント様。一体どうされました?」
「うむ、実は新しく領主になられる、ガイウス・ゲーニウス辺境伯様が、この町にお越しになられたようでな。その際に門の衛兵にここの孤児院が目的地だと仰られたそうなのだ。」
「運が良いですね、ジギスムント様。ええ、まさしく貴方の目の前で純白の翼を広げてらっしゃるのが、ガイウス・ゲーニウス辺境伯様です。」
「どうも、初めまして。ジギスムント・クンツ男爵。僕が、いえ、私がガイウス・ゲーニウスです。先日、陛下より辺境伯の位とこの旧ナーノモン領を賜りました。また、私の隣にいらっしゃるのは、ダヴィド・アルムガルト辺境伯殿の御令孫、クリスティアーネ・アルムガルト嬢です。」
ジギスムントさんはすぐに片膝を着き、
「これは、失礼いたしました。私はオツスローフ方面軍司令官を拝命しておりますジギスムント・クンツと申します。男爵位を賜わっております。」
「よろしくお願いします。お顔を上げ、お立ちください。」
「はっ、ありがとうございます。しかし、なぜこちらの孤児院に?代官屋敷などの役所関係は“ニルレブ”の町にありますが。」
僕は翼をしまい、ジギスムントさんと向き合い、
「深い理由は無いのです。私は冒険者もしておりまして、5級冒険者ですが、“シュタールヴィレ”というパーティのリーダーをしております。そして、あちら、アキーム神官長殿の側にいる、2人の女性の冒険者もパーティメンバーでして、彼女たちの育ったこの町の孤児院を訪れた次第です。また、彼女たちの住んでいたヌローホ村がスタンピードで全滅した際に避難していた子供たちを保護したのがジギスムント殿と伺いましたので、貴殿に会うのも今回の目的の1つですね。」
「私に会うのがですか?ところで、申し訳ありませんが、あの2人はローザとエミーリアでしょうか?」
「ええ、そうです。」
「なんとまあ、立派になったことやら。15歳になり冒険者となってからは全く会えませんでしたから。ああ、話しの腰を折ってしまい申し訳ありませんでした。なぜ、私と会うのが目的だったのでしょうか?」
「ローザ殿とエミーリア殿から、スタンピードが起きたときの事を聞きました。子供たちを保護しただけでなく、孤児院にも支援をしていたと聞きました。当時はまだ部隊長でしかなかったジギスムント殿が、なぜそのようなことをしたのか気になりまして、お話をお聞かせ願えたらと思いまして。」
ジギスムントさんは“なんだ、そんなことか”という表情になり、
「国は民によって成り立っております。故に、立場のある貴族である私が、国の宝である子供たちを救うのは当然の責務であり、その後も面倒を見るのは貴族として当然でありましょう。民なくして我々、貴族は立ち行かないのですから。民を守護するは、貴族の定め、責務であります。」
「ああ、その言葉を聞きたかったのです。どうですか、私がこちらに正式に着任してからも、ゲーニウス領で働きませんか。」
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