第93話 キスと教会と朝食と
「それで、僕は、フォルトゥナ様の使徒になるわけですが、何か行動に制限はあるんですか?」
「あら、そんなものは無いわよ。そうだ、1つ【能力】をあげましょう。【飛翔】はどうかしら?【能力】を発動すると、飛べるようになるわ。それにプラスして、鳥のような羽を背中から生えさせるのはどうかしら。地球の使徒の一種の天使というのがいるのだけど、それも羽があるのがいるみたいなのよねえ。」
「うーん、背中に羽ですか、邪魔そうですね。」
「ま、確かにね。とりあえず、空を飛ぶだけの【飛翔】の【能力】のみあげとくわ。羽については順次、更新するということで保留にしましょう。」
「はい、わかりました。」
フォルトゥナ様が僕の頭に触れる。光が僕を包みすぐ消える。
「よし、これで終了。明日の、日付が変わっているから今日ね。今日の朝の礼拝の時に、貴方が、私の使徒になったことを、全ての教会に伝えるわ。」
「わかりました。」
「それじゃ、ガイウス元気でね。」
フォルトゥナ様が近づいて、口へのキスをしてくる。
「将来の伴侶なんだから、このくらいはね。ちなみに、初めてのキスよ。」
笑顔で仰られたその言葉とともに、僕は神様たちの空間から元の世界に戻されたのだった。
家のベッドの上にいる状態に戻っていた。僕は起き上がり、窓を開ける。日が昇ってきている。二度寝をする気にもなれなかったので、1階のリビングに向かう。母さんとばあちゃんが朝食の準備をしている。
「母さん、ばあちゃん。おはよう」
「あら、早いわね。おはよう。ガイウス。」
「ガイウス。おはよう。まだ、ご飯は出来とらんよ。」
「お腹が空いて起きたんじゃないよ。フォルトゥナ様からお告げがあってね。」
2人とも僕の言葉に手を止める。
「大したことじゃ無いよ。世界中の教会に、僕が“フォルトゥナ様の使徒”だと云うことを伝えるということだったよ。」
「母さんには大したことに聞こえるけど・・・。」
「ヘルタさん。私もさ。」
「まあ、気にしないで。ちょっと、教会の方が騒がしくなるくらいだから。」
僕はそう言って、席に着く。しかし、今日の朝食は随分と手の込んだものになりそうだ。そのことを聞くと、
「クリスティアーネ様がいらっしゃるからね。腕によりをかけたわ。それに、ガイウスのお土産の中に、いいお肉とか香辛料もあったしね。」
笑いながら手を休めずに母さんが答える。ばあちゃんも隣で頷いている。確かにクリスはアルムガルト辺境伯家の娘だけど、数日の冒険者生活で、庶民の暮らしに慣れるなど順応が高い子だと思っている。まあ、アルムガルト辺境伯家の家風もあるんだろうけどね。
さて、朝食まではもう少し時間があるから教会に行こう。先にフォルトゥナ様から、“僕を使徒にした”とお告げがあると伝えておこう。せめて、村の中だけは平穏でいたいからね。母さんとばあちゃんに「少し教会に行ってくるよ。」と伝え、教会に向かう。
教会は、村のほぼ中心に位置していて、宿兼村長宅の次に大きい。鍾塔もあるから、パッと見は教会の方が大きく見えるんだけどね。一応、孤児院みたいなものはあるけど、お世話になっている子は、2週間前はいなかった。多分、今もいない。
その代わり、そこでは、読み書き計算を教えてくれている。授業料はお布施だったり、農畜産物の現物だったり、様々で“食”という面では、村で一番贅沢な場所かも。そのおかげで、村民と神官さんとの関係は良好だ。
「おはようございます。」礼拝堂の扉を開けて言うと、奥から神官さんが出てきた。
「おはようございます。ゲーニウス辺境伯様。」
畏まって言うので、
「神官様、いつも通り“ガイウス”呼びでお願いします。」
と頼む。神官さんは困った顔をしながらも、頷き、
「では、改めて。おはようございます。ガイウス君。2週間ぶりですね。」
「はい。」
「それで、今朝は何の用で?朝食の時間よりも早いではないですか。」
あっ、しまった。神官さんの朝食の時間にお邪魔しちゃったかな?その考えが顔に出たのか、
「ああ、私はまだ、朝食を摂っていませんよ。妻が準備中です。」
「それなら、よかったです。実は今朝方、フォルトゥナ様とお会いしまして、各国の教会に今日の朝の礼拝の時にお告げをするそうです。驚くといけないので、先にお伝えしとこうと思って。」
「ガイウス君。十分に驚いていますよ。各国の教会、全てですか?いやはや、凄いですね。私には想像がつきません。」
「僕もですよ。それで一応、使徒の証として、空を飛べるようになりました。」
「ほう、見させてもらっても?」
「いいですよ。室内ですから、少し浮くだけですけど。」
そう言って、礼拝堂の天井ギリギリまで飛び上がり、室内を高度を変えて3周した。終わって、着地すると、神官さんは驚いて口をあんぐりと開けていた。それでも、すぐに正気に戻り、
「素晴らしいモノを見せて頂けました。ありがとうございます。ガイウス君。」
「いえいえ、神官様にはお世話になりましたので。」
「ハハ、君ほど、要領よく教えたことを覚えてくれた子供はいませんでしたよ。フォルトゥナ様が君を選んだのも、理由があるのでしょう。」
「はい、確かに、選んだ理由を教えてくれました。それは・・・。」
「おっと、ガイウス君。それ以上は言わなくて結構ですよ。フォルトゥナ様との会話の内容は、胸の内にしまっておきなさい。教会内にも派閥がありますからね。そういう人たちに変に言質を与えるといけませんから。ああ、ちなみに私は、そういうのが嫌で、中央から、こういう長閑なところに赴任したんですけどね。」
神官さんは笑いながら教えてくれた。うん、今後は気をつけよう。フォルトゥナ様の像に一礼してから「それでは、失礼しました。」と言い、僕は教会をあとにした。
家に帰ると、リビングテーブルの上には、ご馳走と言ってもいいくらいの数々の料理がのっていた。トマスとヘレナは席に着き、目を輝かせて料理を見ている。「おかえり、ガイウス。」と母さんが言って、席に着くよう促した。
クリスも席に着き、ばあちゃんと話しをしている。僕が席に着くと、父さんが「それでは、いただこう。」と言って、みんなでフォルトゥナ様にお祈りしてから朝食を摂った。昨日の夜も思ったけど、やっぱり実家の味って安心するよね。
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