第54話 包囲網強化
「さぁ、ガイウス殿。この【風魔法】の障壁で囲まれた密室で、美女3人と何をしていたのかを。このクリスティアーネに教えてくださいな。」
長く美しい銀髪をなびかせながら、黒い笑顔のクリスティアーネ様が、腕組みをしながら迫って来る。助けを求めるために、アンスガーさんに視線を向ける。あっ!!逸らされた!?
どうする。どうする。クリスティアーネ様の怒りが鎮まらなければ、アルムガルト辺境伯家の人たちが敵にまわる。いや、敵にまわる分には問題ない。このままだと、クリスティアーネ様に嫌われてしまう。それは、嫌だ。あ、僕って案外、独占欲が強いのかも。
そう考えていると、思わぬ助っ人が、
「クリスティアーネ様、まずは、お席にお座りください。庶民が使う椅子ですので、座り心地は保証できませんけど。そして、ゆっくりと話し合いましょう。ね。」
ユリアさんが、僕とクリスティアーネ様の間に割って入って言った。クリスティアーネ様は、しばらくユリアさんを睨みつけていたが、「わかりました。」と言い、席についた。
「ギルドマスター。貴方も話し合いに参加しますか?」
ユリアさんが尋ねると、
「いや、私がいるのは無粋というものだろうから、エールでも飲んで1階の食堂で待っていますよ。」
アンスガーさんがそう言って部屋を出ようとするところで、僕を手招いた。彼は僕の肩に手をおいて、「頑張りたまえ。」と言って、1階に下りていった。結局、僕を助けてくれなかった。ちょっと恨みますよ。アンスガーさん。ちなみに、壊れた扉は、アンゲラさんと御付きの騎士たちが回収していた。あとで弁償しないとね。
一連の片付けが終わり「護衛の方はどうします?」ユリアさんが尋ねると、「我々は部屋の前で待機させていただきます。」と言って、廊下に整列した。ユリアさんは首肯し、壊れた扉の代わりに【風魔法】で、先ほどと同じ音の漏れない障壁を作り出す。
さて、室内では僕が座るのであろう椅子を3人が半円状に囲むようにして座って待っていた。ユリアさんも加わり4人になったけど。僕は深呼吸を一度して席に向かう。4人の視線が刺さる。そして、席につく。
僕が席につくと同時に、クリスティアーネ様が、
「それで、この密室と化した空間で何をしていたのかを、教えていただけますか?」
と笑みを浮かべながら聞いてきた。僕が話そうとするとユリアさんが目で制してきた。
「それは、私の方から簡単に説明させていただきます。クリスティアーネ様が入室されるまで、私たち3人はガイウス君に対して、愛の告白をしていました。」
「ユリア殿たちは、私とガイウス殿が仮とはいえ婚約していることをお知りのはずです。なぜ、このタイミングだったのですか?」
「それは、アルムガルト邸にて、お2人の婚約発表を聞いた瞬間に嫉妬をしてしまい、そこで、私たちはガイウス君に対する自分の気持ちを自覚したのです。好きという気持ちを。特に私なんかは年甲斐も無く。」
「そのことを、ガイウス殿に告白していたということですね。」
「はい。その通りです。ですので、ガイウス君は責められる立場にありません。責められるべきは私たちです。」
クリスティアーネ様とユリアさんのやり取りが終わり、静寂が場を支配する。誰一人として言葉を発しない。しかし、空気が少し柔らかくなったような気がする。そんな空気の中クリスティアーネ様が、口を開く。
「私は、ガイウス殿が授爵され、結婚となった場合には正室としてありたいと思っています。アルムガルト辺境伯家では、側室を持たない当主が多いのですが、ガイウス殿が新たに家を立ち上げるとしたら、新興の貴族となりますので側室も必要でしょう。私は皆さまが、ガイウス殿の側室になることを止めはしません。とくに、ユリア殿は、当代限りではありますが騎士爵をお持ちですし。ローザさんとエミーリアさんについては、今後の活躍に期待。というところでしょうか。最後はガイウス殿の気持ち次第と思いますし。」
最初の棘のある言い方よりも、だいぶ優し気な口調で、そう言いきったクリスティアーネ様は、僕の方を見た。
「クリスティアーネ様には、裏切られたと思われるかもしれませんが、僕は、彼女たちの気持ちを蔑ろにすることはできません。ですので、3年後、僕が成人し授爵するまで、3人のお気持ちが変わらなければ、側室にしたいと思います。」
僕は、クリスティアーネ様の真っすぐ見て言った。そうすると、クリスティアーネ様は優しい笑みを浮かべ、
「ガイウス殿はお優しい。自分に向けられた気持ちに、最大限、報いようとしている。ふふ、やはり、私の目に間違いは無かったようで安心しました。」
「もし、僕が3人の告白を断っていたらどう思っていましたか?」
「ふむ、それは意地悪な質問ですね。私は最初に歓喜し、その後、落ち込んだことでしょう。私の思考の矮小さに。」
「それでも、僕は、クリスティアーネ様、貴方を愛しますよ。」
そう言って、軽くクリスティアーネ様を抱き寄せる。仮の婚約とはいえ、このくらいならいいだろう。廊下の騎士たちも騒いでいる様子はないようだし。何より、クリスティアーネ様が、頬を赤く染めながらも今日一番の笑顔を見せてくれた。僕にはそれだけで十分だ。
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