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15.燈華の覚悟『その弐』月衛山の客人たち

燈華の視点になります。

楽しんで頂けたら幸いです。


クリスの表記をクリスティアナに変更いたしました(2023/6/27)

引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。

まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。


タイトル付け、大幅な加筆と修正を行いました(2025/03/29)


 神代かみしろ邸の客間に足を踏み入れた瞬間、冬城燈華は、そこが異質な空間と化していることを悟った。


「……さて」


 燈華は小さく呟き、客間にいる面々を見渡す。

 そこには、西園寺紡さいおんじつむぎを筆頭に、大津秋姫おおつあき、アレクサンドラ、クリスティアナの姿があった。


燈華とうかちゃん、あの説明じゃ分かり難いよ……私が知っていたから良かったけど」


 秋姫が、呆れたように燈華に告げる。


「ゴメンね、ヒメ」


 燈華は素直に謝罪の言葉を口にする。


「いいよ、怒っている訳じゃないから」


 秋姫は、その言葉とは裏腹に、どこか棘のある視線を燈華に向ける。


「みんなもゴメンね。分かり難かったよね」


 燈華は、アレクサンドラとクリスティアナにも謝罪の言葉を述べる。


「バスは山の麓までで、軽い山登りをするならすると教えて欲しかったです」


 アレクサンドラが、静かに不満を口にする。


「次からは先に言うようにするよ……本当にゴメンね」


 燈華は、改めて謝罪の言葉を述べ、頭を下げた。


 ……失敗。


 燈華は、今回の失態を心の中で反芻はんすうする。


 たぶん、この町に元々住んでいた秋姫だけは知っていた。

 その結果、二人の留学生の不満を一身に受けていた秋姫には、後で謝っておこう。


 燈華は、今回の責任を痛感し、反省の念を抱く。


「アレックスとクリスもゴメンね。山道をいきなり歩かせちゃって」


 燈華は、改めてアレクサンドラとクリスティアナに謝罪の言葉を述べる。


「イイヨ、私は楽しかったから」


 クリスティアナは、意外にも楽しかったと告げる。


「クリス……」


 燈華は、クリスティアナの言葉に戸惑いを隠せない。


「私も気にしてないよ、トウカ。次から気を付けてくれるならそれでいいわ」


 アレクサンドラは、燈華をなだめるように告げる。


「アレックス……」


 燈華の心に、アレクサンドラの優しさがよくみる。

 燈華は、アレクサンドラの優しさに改めて感謝の念を抱く。


「私もアレックスも気にしてないから、トウカもこの件はこれでおしまい」


 クリスティアナは、今回の件を水に流すように告げる。


「分かった、今回の事は私の糧にする」


 燈華は、今回の失敗を糧に、成長することを誓う。


 クリスティアナは初めてくる月衛山という場所に興味を持ち、アレクサンドラは急な山歩きに関して思うところがあったというところだろう。


 燈華は、二人の心情をおもんばかる。


 駅では神代流哉かみしろりゅうやを見つけたという喜びと、逃がさないという焦りがあった。

 それを踏まえても、説明するだけの配慮はできたはず。


 今回の事は燈華の失敗として刻み込み、次への糧にする。

 何もしないのでは、その先に成長はない。


 燈華は、自らの未熟さを痛感し、反省の念を新たにする。


「それで、流哉りゅうやさんには会えたの?」


 秋姫が、話を本題に戻すように問いかける。


「ヒメ……うん。つむぎに足止めをしてもらったおかげで、何とか捕まえることが出来たよ」


 燈華は、紡に感謝の念を込めつつ、流哉との再会を果たしたことを報告する。


「私との約束、忘れてないよね?」


 秋姫が、念を押すように問いかける。


「ちゃんと覚えているよ。

 だから魔導器を持ってきてくれるように頼んだし……」


 燈華は、約束通り、流哉に魔導器を持ってくるように頼んだことを告げる。


「そっかー、頼んでくれたんだー。

 魔法使いの秘蔵の魔導器、楽しみだなー」


 秋姫は、期待に胸を膨らませる。


「あ、ヒメがトリップした……」


 燈華は、秋姫の様子に呆れたように呟く。


 まぁ、放っておいても大丈夫でしょう。

 実物が来れば嫌でも正気に戻るんだから。


 燈華は、秋姫の奇行を放置することにした。


「ところで、肝心の流哉リュウヤさんはいつ来るの?」


 紡が、静かに問いかける。


 先ほど『呼びに行く』と言って二階へ上がって行ったままの神代雪美かみしろゆきみが、客間に入ってくる気配はない。


 燈華は、雪美がまだ戻ってこないことをいぶかしむ。


 紡は紅茶を一口飲み、ティーカップをいつもの調子でソーサーに置く。

 ただ一人だけ、紅茶を飲んでいる。


「どこから出したの?」


 燈華は、紡が紅茶を飲んでいることに気づき、問いかける。


「客間に通されてソファーに座った時に出してくれたのよ?

 この家のバトラーは優秀ね」


 紡は、紅茶を出してくれたバトラーを称賛する。


神代かみしろの家に執事が居るなんて聞いたことないわ……」


 燈華は、神代邸に執事がいることに驚きを隠せない。


「どの家にでもいるモノじゃない?」


 紡は、当然のように問い返す。


「普通は居ないよ……魔術師の家なら尚の事、使用人なんて雇う訳ないでしょう」


 燈華は、魔術師の家に使用人がいることの異常さを説く。


 コトワザに『人の口には戸が立てられない』があるように、人は秘密を誰かと共有しないではいられない生き物だ。

 秘密を抱え、ソレが切り札であり弱点にもなり得る。

 神秘に携わる者として、秘密がバレないようにするのは共通の認識だ。

 他人を雇い入れるというのは、神秘に携わるモノにとってリスクでしかない。


 燈華は、魔術師が使用人を雇わない理由を説明する。


「イギリスの家では居たのだけど?」


 紡は、イギリスの家では使用人がいたことを告げる。


「使い魔は私の家にも居たけど、使用人は居ないわ。

 人間を使い魔として使うのは……利益よりも損失の方が大きいっていうのが冬城とうじょう家の考え方ね」


 燈華は、生家である冬城家の考え方を説明する。


「そういうモノなのね。

 たまに話し相手になる人形っていうのは割と便利なのだけど……要らなくなったら使い潰せばいい訳だし」


 紡は、人形を使い潰すことを躊躇ちゅうちょしない。


「そこまで非常にはなれないよ……神隠しとかで誤魔化しが効く時代ならどうにかなったと思うけど」


 燈華は、紡の言葉に反論する。


「トウカ、それは現代であってもあまり変わらないわ。

 未だに失踪という事で処理される事はあるし、捜索願を出されなければ人は探されない。

 消えても分からない人ってドコの国にも一定数は居るモノよ」


 紡は、現代でも人が容易に消えることを指摘する。


「裏の世界に関わるようになって実感したけど、私達って色々と踏み外しているよね」


 燈華は、自らの行いを自嘲じちょうする。


「この業界にまともな人格者なんて居ないわよ……私も、貴女も含めてね」


 紡は、燈華の言葉に同意する。


 今この場にいる燈華たちは揃って人格破綻者だ。

 それぞれに抱えている事情はあるし、場合によっては非合法な手段も取る。

 魔術師と魔法使い、錬金術師と異なる立場の燈華たち。

 立場は違えど、奇跡をおこす神秘というモノに惹かれた。

 裏の世界に関わったからには、これからも業を重ねて行くんだと思う。


 燈華は、自らの業を自覚する。


「悩むのは若い人の特権。今は焦らずゆっくりと答えを出せばいいよ」


 客間の入り口から、神代流我かみしろりゅうががその姿を現す。


 最強の魔法使いとうたわれた神代月夜かみしろつくよの息子にして、現在、生存している魔法使いの中で最強と恐れられている神代流哉の父親。

 魔法使いの家系に生まれた普通の人。

 神代家の表の顔である『ジンダイ』の代表。


 燈華は、神代流我の人物像を思い浮かべる。


流我りゅうがおじ様……この前はありがとうございました」


 燈華は、流我に礼を述べる。


「お礼はいいよ、燈華とうかちゃん。僕はやるべき事をやっただけだし、お礼を言われるようなことは何もしてないよ」


 流我は、燈華の礼を辞退する。


「分かりました。それでもお礼だけは受け取ってください。

 ユキちゃんにもお礼を伝えて欲しいと頼まれていますので」


 燈華は、新山由紀子にいやまゆきこからの伝言を伝える。


「今回は僕が折れる事にしよう。

 一度決めたら変えないっていう頑固なところは紫電しでんさんとそっくりだ」


 流我は、燈華の頑固さを冬城紫電とうじょうしでんに似ていると評した。


 燈華は、流我の言葉に、わずかに眉を動かす。


 お爺様。


 燈華は、流我の口にした祖父の名前に、微かな喜びの感情を抱く。


 お爺様は、一代で魔法に至った。

 最強の魔法使い、神代月夜へ、『ムカついた』というだけの理由で喧嘩をふっかけ、敗退したという話しを昔、祖父当人から聞いた。


 燈華にとって、祖父である紫電は、偉大で、大好きな存在だった。


「それで、今日は流哉に用があるのかな?」


 流我は、話しを本題に戻すように問いかける。


「はい。なんとか捕まえることが出来ました」


 燈華は、流哉と会えたことを報告する。

 流我は満足そうに頷くと、手に携えていた一冊の本を紡へと渡した。


 紡は少し驚いた表情をして、本の内容へと視線を落とす。


「流我おじ様……紡に渡した本は何ですか?」


 燈華は、紡に渡された本に興味を抱き、問いかける。


「少し前に彼女から探し出して欲しいと依頼されていた代物でね。

 イギリスで見つけたと連絡を貰って、現地の古本屋に頼んで取り寄せたモノだよ」


 流我は、紡からの依頼で探していた本であることを説明する。


 一通り目を通し終えたのか、紡は本を閉じる。

 顎に手を持って行き『いつもの仕草』をしている事から、自分の考えをまとめているようだ。


「確かに探索をお願いしたモノね。

 ありがとう、助かったわ」


 紡は、流我に感謝の言葉を述べる。


「仕事だからね、確実に成し遂げるよ。

 さて、ビジネスの話しをしようか、童話の魔女殿」


 流我は、紡にビジネスライクな口調で告げる。


「そうね、貴方は依頼を成し遂げた。私はその働きに応えなければならない。

 今度は私が願いを聞く番ね。

 さあ、聞かせて。私に叶えて欲しい願いを」


 紡は、流我の言葉に応じ、自らの役割を果たすことを宣言する。


 以前、気になったから直接聞いたことがあるが……あの決まり大切な文句には意味があると言っていた。


 燈華は、紡の言葉に、以前交わした会話を思い出す。


 魔法使いは他人からの頼みを滅多なことでは引き受けないそうだ。


 頼みを聞き、引き受けるのは自身からの頼みを達成した後らしい。

 大体が達成不可能なことを吹っ掛けるらしいけど、達成されたなら話しは別。

 対等な契約を結び、依頼を引き受ける。


 その際に紡は『さあ、聞かせて。私に叶えて欲しい願いを』と言う。


 紡の決まり文句は、相手以上に自身への枷をかける意味が強いらしい。

 達成された自身の依頼に対して、相手の願いを釣り合う範囲で叶える。


 それが契約を結ぶという事だと言っていた。


 燈華は、紡の言葉に込められた意味を理解する。


「じゃあ、話しを詰めようか」


 流我は、紡との話し合いを始める。

 紡と流我は客間の中の一角、セットされているテーブルに着いて話し合いを始めるようだ。

 邪魔をしないように燈華達はソファーに座って静かにしている事にした。


 燈華は、流哉に頼んだ魔導器のことを思い出す。


 早く持ってきてくれないかしら。


 燈華は、流哉の到着を待ちわびる。

今回の話し、どうでしたか。

秋姫、アレクサンドラ、クリスティアナは久しぶりの登場だったと思います。

物語の中心人物達がようやく揃いそうです。

『燈華の覚悟』のサブタイトルの内に全員揃うことを先にお約束しておきます。


※三上堂司からのお願い※


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

読者の皆様へ筆者からのお願いがございます。

本作を読んで、「面白かった」「続きが気になる」等、少しでも思って頂けましたら、

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以上の二点をして頂けますと大変励みになります。

評価はページ下部にあります、『ポイントを入れて作者を応援しましょう』項目の

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これから物語を書き続けていく上でのモチベーションに繋がります。

今後ともよろしくお願いします。


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