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14.燈華の覚悟『その壱』少女たちの邂逅、老人の残影

燈華の視点になります。

楽しんで頂けたら幸いです。


誤字の修正を行いました(2023/12/15)

大幅に加筆と修正を行いました(2025/03/28)

 神代流哉かみしろりゅうやが、二階へと続く階段をゆっくりと上っていく。

 その背中を、冬城燈華は静かに見送った。


「……さて」


 燈華は小さく呟き、視線を神代雪美かみしろゆきみへと移す。


「あら、燈華とうかちゃん。久しぶりね」


 雪美の口元には、いつものように穏やかな笑みが浮かんでいる。

 しかし、その瞳の奥には、燈華の心を試すような、鋭い光が宿っていた。


「ご無沙汰しております、雪美さん。

 私の連れが、ご迷惑をおかけしていませんか?」


 燈華は丁寧に頭を下げ、雪美に問いかけた。

 その声音は、礼儀正しく、しかし、どこか警戒心をにじませていた。


秋姫あきちゃんは分かったけど、二人の外国人さんも、燈華ちゃんのお友達?

 みんな良い子ね。おとなしく待っているわ」


 雪美は、客間で待つアレクサンドラとクリスティアナに視線を向け、微笑んだ。

 その表情は、母親が子供たちを見守るような、優しいものだった。


「そうですか。なら、良かったです。

 私たちも、ここで待たせていただいても?」


 燈華は安堵の息をつき、雪美に問いかけた。


「どうぞ。流哉りゅうやもすぐに行くと思うから」


 雪美は快く頷き、燈華を客間へと促した。


「ありがとうございます。つむぎ、先に行っていて。

 あの子達もいるから、場所は分かるわよね」


 燈華は、無言で佇む西園寺紡さいおんじつむぎに声をかけた。

 紡は、その琥珀こはく色の瞳を燈華に向け、小さく頷くと、優雅な足取りで客間へと歩き始めた。


(……紡)


 燈華は、紡の背中を見つめながら、その内面に潜む異質さを感じ取っていた。


(あの姿からは、とても魔法使いだなんて、見破れる者はいないはず)


 紡の纏う雰囲気は、年相応の少女そのもの。しかし、その内には、深淵を覗き込むような、底知れぬ闇が広がっている。


(この年相応の反応をする少女が、連盟を悩ませる人物の一人だなんて……)


 燈華は、紡の二面性に、深い警戒心を抱いていた。


「不思議な空気の子ね。

 深い知識の森に誘われるようで、縄張りに侵入したら、即敵とみなして排除する狩人。

 あの子が『童話の魔法使い』なのかしら?」


 雪美は、紡の背中を見つめながら、その異質さを言葉にした。


「そうです。よく分かりましたね。

 紡は、魔法使いってバレないよう、普段は魔力をセーブしているのに」


 燈華は、雪美の洞察力に感嘆かんたんの息をついた。


「私を誰だと思っているの?

 私は流哉の母親であると同時に魔術師よ。

 魔法使いを身内に持つ者として、気づけないわけがないわ」


 雪美は、自らの魔術師としての矜持きょうじを語った。


「そうですか」


 燈華は、雪美の言葉に納得しつつも、その奥に潜む警戒心を拭えなかった。


「あの雪美さん、話は変わるのですけど……今日って、流哉の御爺さんはいますか?」


 燈華は、雪美の顔色をうかがうように、恐る恐る問いかけた。


(……神代厳重朗かみしろげんじゅうろう


 燈華は、流哉の祖父の名を心の中で呟き、苦い表情を浮かべた。

 魔法使いの伴侶であったにも関わらず、魔法という奇跡を蔑むような愚か者と祖父母は言っていた。

 魔法使いの系譜に対する恨みが強いのか、魔法使いの孫というだけで、幼少期に流哉と共にいる時に蔑まれた記憶が、今でも燈華の脳裏に焼けついている。


(あの傲慢な性格の上、魔法使いや魔術師といった部類を毛嫌いする老人を、好き好んで相手にする者は少ない)


 燈華にとって、厳重朗は、相容れない存在だった。


「いるけど、大丈夫よ。

 困ったことに、さっき流哉の部屋にまた入ろうとしたのよね……その時、部屋の防御結界に引っかかったみたいでね。

 今は自室から、とても出られる状態ではないわ。

 それよりも、あの子にそれを説明するかと思うと……考えたくもない」


 雪美は、厳重朗の自業自得な状況を語り、ため息をついた。


「参考までに聞きたいのですけど、どんな防御結界だったんですか?」


 燈華は、流哉の部屋に張られた防御結界に、興味を抱いた。


「今回は火だったわね。

 私の氷結魔術で火ごと凍らせたまでは良かったんだけどね……代わりに重度の凍傷負わしちゃったのよ。

 まあ、癒しの御符を巻いておいたから、明日には治るでしょう」


 雪美は、苦笑いを浮かべながら、その時の状況を説明した。


(……火)


 燈華は、流哉の防御結界が火属性であったことに、わずかな違和感を覚えた。


(何度も繰り返しているのだろうか。

 そうだとしたら、どういった意図があるのかが気になる)


 燈華は、厳重朗の行動に、深い疑念を抱いていた。


(私は今まで『邪魔をするモノ、敵対するモノに容赦をするな』と教わってきた。

 魔法使いである流哉が、手心を加えることはないだろう)


 燈華は、流哉の冷徹さを信じつつも、その行動の裏にある真意を測りかねていた。


「失礼だと思いますけど、安心しました。

 今回の、私とリュウちゃんの話し合いに関りをもって欲しくない……今回の話しに、覚悟なき者を関らせはしない」


 燈華は、厳重朗が今回の話し合いに関わることを、強く拒絶した。


「大丈夫よ、部屋の入り口はしっかりと凍らせてあるから」


 雪美は、燈華を安心させるように、微笑みかけた。


「それなら、私も警戒しなくて済みそうですね」


 燈華は、安堵の息をつき、雪美に微笑み返した。


「じゃあ、私は流哉を呼びに行くわ。

 燈華ちゃんも客間で待っていてくれる?

 それとも、私と一緒に来るのかな?」


 雪美は、燈華をからかうように、問いかけた。


(……これはイタズラ、よね?)


 燈華は、雪美の意図を瞬時に理解し、顔を赤らめた。


「いえ、客間の方で待っています。連れを待たせたままですし、今リュウちゃんに会うと、赤くなった顔を見せることになりますから」


 燈華は、雪美の誘いを丁重に断った。


「あら、残念。私のイタズラには乗ってこないか……じゃあ、客間で待っていてくれる?」


 雪美は、肩をすくめ、燈華に微笑みかけた。


「分かりました」


 燈華は、雪美に一礼し、客間へと向かった。

 その背中を、雪美は楽しげな笑みを浮かべながら見送った。


 客間へと向かう途中、燈華は、流哉に頼んだ魔導器のことを思い出した。

 それは今回の神代邸訪問を決めた時に、大津秋姫おおつあきからリクエストのあったこと。

 魔法使いの所有する魔導器を見てみたいという秋姫の願いに応える為であった。


(具体的に指定しなかったことに気づいちゃったけど……今更どうしようもないか。

 せめて、色んな道具を持ってきてくれますように)


 燈華は、自らの迂闊うかつさを悔やみつつも、流哉に期待を寄せた。


(そうでないと、私が秋姫あきに小言を言われちゃうもの。

 大見えきって自慢しただけに、持ってきたモノがそこら辺で見かけるモノだったら……その時は私がお願いし直せばいい話しか)


 燈華は、最悪の事態を想定しつつも、楽観的な思考を巡らせた。


(色々考えても仕方ない。なるようになるだけよ)


 燈華は、思考を切り替え、客間へと続く扉を開けた。


 扉の向こうには、アレクサンドラとクリスティアナの姿があった。

 アレクサンドラとクリスティアナ。

 二人の魔術師は魔法連盟から紡の元へ送られて来た客人。

 初めて会ったその日に意気投合した、燈華の大切な友人たち。

 今回の話し合いの為に、協力を申し出てくれた大切な協力者だ。

今回の話し、どうでしたか。

流哉が二階へ上がって行った直後で起きていた話しになります。

燈華は良くも悪くも純粋な少女です。

どう成長していくのか、見守って頂ければ幸です。


暫くは燈華達の話しを書く予定ですが、流哉もなるべく早く合流させたい所存。

楽しみや期待に応えられるよう頑張ります。


※三上堂司からのお願い※


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

読者の皆様へ筆者からのお願いがございます。

本作を読んで、「面白かった」「続きが気になる」等、少しでも思って頂けましたら、

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これから物語を書き続けていく上でのモチベーションに繋がります。

今後ともよろしくお願いします。

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