Ex.二月十四日 深夜零時 西園寺邸 流哉の部屋
今回も誰の視点という訳ではありません。
バレンタインデーの特別な話し、楽しんで頂けたら幸いです。
また、話しの内容に今後のネタバレが含まれております。
知ってしまったことで、この作品が楽しめなくなるということはありません。
クリスの表記をクリスティアナへ変更いたしました(2023/6/27)
加筆を行いました(2025/02/14)
引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。
まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。
真冬の深夜。借りた部屋の外、それも下の階に集まって何かをしている気配がする。
「あいつら、夜中に集まってコソコソと何をしているんだ?」
神代流哉は西園寺紡から借り受けた部屋、そこに置かれた書斎机で、魔法連盟からの報告書に目を通している。
室内にいるにも関わらず、燈華たちがキッチンに集合していることは知っていた。
それは今よりも一時間以上も前、二月十三日の深夜十一時まで遡る。
「それじゃあ、オレはそろそろ部屋に戻るよ。
連盟からの報告書とか、目を通しておかないといけないモノが多いから」
「私たちはもう少しお茶会しているからー」
五人の少女たちはダイニングのテーブルに集まり、紅茶を飲んでいる。
飲んでいるものが紅茶なのは家主である紡の趣向で、お菓子の類はなく、ただティーカップとソーサーが置かれ、中央には紅茶の入ったポットが鎮座しているだけ。
主催者である家主は今もすまし顔で紅茶の入ったカップを傾けている。
「お前たち明日は……って、休みだったか」
呆れた表情の流哉は小言を言うのかと思われたが、すぐさまに明日は少女たちの通う学校が休みであったことを思い出す。
少女たちが遅くまで起きていようと、夜にお茶会を開いていようと、自由であり文句を言われる筋合いではないということだ。
「そうだよー。リュウちゃんは?」
少女たちの一人、冬城燈華がカップをソーサーに置き声をかけてくる。
「オレは元から休みの予定だ。
明日は大学の方に顔を出さなきゃならないから、休みにしてある。
高校の教師たちが休みかどうかは知らんが」
流哉は大学の講師と高校の臨時講師を掛け持ちしており、高校は燈華の通う学校と同じところだ。
高校そのものは休みだが、教師の仕事はそういう時にもあるもの。
しかし、臨時の講師としての仕事はあくまでも大学からの貸し出し。
本業としては大学の講師の方である。
もっとも、その大学の講師という肩書きも、現代社会へ溶け込む為の選択でしかない。
「そっか……大変だね」
燈華は同情のような、哀れみのような、なんとも言えない表情を浮かべている。
「そういう訳だから、オレはもう少し仕事をしてからそのまま寝るけど、燈華たちも用がなければ夜更かしせずに早く寝ろよ」
「はーい」
「それじゃあ、おやすみ」
まだまだ話し足りないとばかりに燈華たちは会話を再開している。
あの年代の少女達というのは、身体のどこにあれだけのパワーをため込んでいるのか……
若者の特権というやつなのだろう。
流哉は部屋に戻るなりパソコンの電源を入れて放置すると、サイドボードの上に無造作に置かれている分厚い封筒から中身の束を取り出し、内容に目を通し始める。
流哉は連盟からの報告を書類で受け取っている数少ない人である。
紡に言わせると、『面倒を好む変人』ということらしい。
最初の数枚こそは真剣に目を通している様子だったが、十枚目を過ぎた辺りからは流し見と、パラパラとめくる速度が徐々に上がっていく。
百枚目を過ぎた頃、時間にして一時間が過ぎた頃、報告書の束はまだ半分以上残っているが、流哉は読むのを止める。
紙束は再びサイドボードの上に置かれ、流哉はソファーにもたれかかり眉間を抑えている。
「やっぱり、紡のように連盟からの報告の受け取り方法を変えた方がいいか?」
流哉は普段、『百枚程度の書類に目を通すのは特段苦ではない』と言っているが、ソレは重要な報告に限った話しである。
連盟から報告として送られてくるモノの中には、重要な情報と、そうでない情報とが入り混じっている。
重要な報告の中にゴシップ記事の報告までが入り混じっているのでは書類の精査だけで多くの時間を浪費する。
「だけどな……変えたのを紡に知られたら、みすみす揶揄われるネタを与えるようなものだしな」
一言、二言ぼやくと流哉は紙束を抱えて部屋の中にある扉の一つ、年月の経過を感じさせる木の扉の前に立つ。
その扉には鍵の穴がなく、鍵がかかっていないように見える。
流哉は鍵の束を取り出し、その中からを黄金に輝く鍵を取り出す。
鍵穴の存在しなかった扉にも変化が現れる。ダークウッドの木製の扉だったものは光り輝く黄金の扉へと変わり、存在しなかった鍵の穴が出現する。
流哉は鍵を差し込み捻ると、扉は開くのではなくパズルが解けるように徐々に外れていく。
通路のように口を開き、その中へと入って行く。
主が居なくなった部屋の中ではパソコンの画面が光っているだけで、それ以外の生活感と言えるものが何一つなくなっていた。
主が入って行った部屋の扉を含め、幾つもある扉がただ一つを残して消える。
唯一残った扉は、紡の館の二階、その廊下へと繋がっている。
場所は変わって一階のキッチンでは、
「さて、チョコの湯銭は終わった訳だけど……ここからは各自の作業ってことで」
燈華たちは大きなボウル一杯にチョコレートを溶かしていた。
既に時間がかかるモノを制作する大津秋姫は自身の作業を終えており、簡単なモノと言いていたアレクサンドラとクリスティアナの組と燈華がこれから製作に入るようだ。
秋姫は既に片付けまでを終わらせている。
「燈華ちゃん、手伝いが欲しかったら声かけてね。
器具の用意とか他の材料の用意なら手伝えると思うから。
じゃあ、アレックス、私はクリスの補助に入るね」
「アキ、よろしくお願いします。
クリス、私とアキでフォローしますから、頑張って作りましょうね」
「アレックス、ヒメ、よろしくね」
その様子を見ていた燈華は、秋姫に『私の方は大丈夫』とジェスチャーで返事をしていた。
燈華は三人の様子から視線を外し、自身の製作するモノへと集中するべく、耳にイヤホンを装着し、音楽プレイヤーの再生ボタンを押す。
四人のチョコレート製作の様子を見守るこの館の主の紡は、相変わらず紅茶を飲みながら、奇しくも流哉と同じ内容の連盟からの報告に目を通していた。
バレンタインエピソードの続き、楽しんで頂けたでしょうか。
流哉は燈華たちが何をしているのかには気づいておりません。
今週一杯は既に終わっていますが、バレンタインのエピソードを書きたいと思います。
お読み頂きありがとうございます。
「面白かった」「続きが気になる」等、思って頂けましたら、ブクマ・評価頂けると励みになります。
誤字報告も受け付けております。
今後ともよろしくお願いします。




