表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/339

6.いつもとは違ういつも通りの朝『その壱』うるさい人

燈華の視点です。

少しづつ燈華たちの日常に入っていきます。


加筆と修正、サブタイトル付けを行いました(2025/1/2)

 燈華のカップを置く音で朝食の時間は終わりを告げる。


「ごちそうさま。ヒメ、学校は午後からで大丈夫? それとも今日は休む?」

「午後からなら大丈夫。今日の放課後は会議だったよね? 休んでいられないよ」

「了解。とりあえず連絡してくるね」


 眠気も取れたのか、秋姫(あき)はいつもの調子に戻っていた。

 遅刻するという連絡をするべく黒電話の受話器を取り、私立宇深之輪(うみのわ)高校の電話番号のダイヤルを回していく。

 暫くの呼び出し音の後に電話に出たのが学校で一番人気のない教師。燈華にとっては最も嫌いな教師。

 一瞬眉を寄せるが、取り繕ったような笑みを顔に張り付け、言葉の端々にトゲを残し、二言、三言、適当な言い訳を並べ、受話器を置き、溜息(ためいき)をこぼす。


「ゴメンね。私の分までお小言貰ったでしょう」

「いいのよ、別に。ヒメはほとんど寝ていないでしょう? 

 お小言だけなら良かったんだけど、面倒なのが電話に出てね、そのせいで疲れただけだから」


 秋姫を見つめる。

 少しの時間で済ませる予定だった連絡が思いのほか長かったらしい。

 テーブルの上には新しく紅茶が用意されていた。


「眼鏡、取ってきたんだ」

「うん。流石に見えにくいのは不便だから」


 いつも通りの姿の秋姫を見ながら、秋姫が淹れてくれた紅茶を一飲みする。

 ホッと息を吐く。


「もしかして歴史の笹山(ささやま)先生?」

「ええ、電話番でもないくせにしゃしゃり出て来て……面倒なのよね、あの人」


 安堵(あんど)で吐き出した息が、秋姫に疲れからついた溜息と勘違いさせてしまったみたいだ。

 訂正するのも面倒だし、笹山に対して疲れたのは本当のこと。


「しかし、何であの人の視線は(よこしま)なのかしら。この前既婚者だというのに新山(にいやま)先生に声かけていたのを一年の子達が見たと言っていたし……」

「嘘でしょう。一度問題になって止めさせたのに。()りてないようね」


 秋姫からの報告は知らなかったことだ。

 しかし、知らなかったでは済まされない。

 その上知ってしまった以上は対処しなければならない。

 余計な仕事が増えたと思うけれど、今度こそは徹底的にと考え込む。


「それはそうと、燈華(とうか)ちゃん。出来たよ、貴女(あなた)の為の羅針盤」


 秋姫は真新しい懐中時計を差し出してきた。

 先程までの怒りは消え、恐らく真新しい懐中時計に目を輝かせて眺めていると思う。

 見つめ終えるとそのままの瞳で秋姫を見つめた。

 席を立とうとする秋姫めがけ、抱きつく。


「ありがとう、秋姫(あき)!」

「やめなさいって! あぶないから! とかちゃんお願いだから話しを聞いて!

 眼鏡、眼鏡が壊れちゃうからー!」

 

 感激のあまり秋姫に抱きつくが、急に抱きつかれた秋姫の方はバランスを保つに精一杯のようで、感謝の言葉は届いていない。

 感謝の気持ちが伝わるまで抱きつくと決め込み、秋姫を見ると、(つむぎ)へ救助要請を瞳で訴えかけている。

 当の紡へ視線を投げると明後日の方向を向いていた。どうやら関る気はないみたい。


「いつまで続くのかしら、これは?」


 紡は関わらないと決めたようで、一言こぼした後、本を取りだし読み始めている。

 燈華はもうしばらく秋姫に抱き着いていることにした。



 秋姫に小言を貰った燈華はそのまま昼食を作ることになった。

 秋姫はもう少しだけ眠ると言い少し前に自室へ戻っていった。

 髪を縛り、エプロンを着け、キッチンに立ち、包丁を振るう。

 手際よく切り分けた野菜と残っていた豚肉を油を入れて熱したフライパンへ投入、振るい、料理を仕上げて行く。

 テーブルへと料理を運ぶと、紡がお風呂から出てきたところだった。


「タイミング良いね。丁度お昼できたところだから早く髪を乾かしてきたら」

「大丈夫、直に乾くわ」

「女の子なんだからもう少し気を遣おうよ」

「私は魔法使いよ。髪を乾かすくらい造作もないわ」

「そんなことに魔力を使うのはやめようよ……」


 紡は濡れたままで「ムッ」と言った。

 これは小言をもらう前の兆候だと直ぐに気付いた。


燈華(トウカ)、魔力も魔法も自分の為に使うものよ」

「わかった、わかりました。私が口を出す事じゃなかったわ」

「私もムキになりすぎたわ。

 確かに髪を乾かすくらいの事、ドライヤーでやるべきことね。

 だけど、今日は魔力を使うわ。お昼が冷めてしまうから」


 軽く手を振ると紡の周囲に風が集まる。彼女の周りに集まった風が霧散した時には、先程まで濡れていた髪は乾いていた。


 ただ、頭に被っていたタオルを肩にかける姿は女の子のすることじゃないと思う。


「燈華、私宛に何か届いてなかった?」

「確か差出人の名前が書かれていないものなら届いていたと思うけど」

「それね。持ってきてくれる?」


 紡に封筒を渡す。

 その封を切り、中から白紙の紙だけを紡は取りだしていた。


「それは何?」

「ん? ああ、燈華は見るのが初めてだったわね」


 そう言うと紡は居間に備え付けられた本棚から一冊の本を取り出してくる。

 それは見た事がなく、紡が珍しく自分の本以外の、物語ではない書物に目を通している。


「これはね、こう使うの」


 紡がおもむろに本を開き、そこへ紙を近づける。

 紙に魔法陣が浮ぶとそれは開かれた本の中へと吸い込まれていく。

 紡は何もなかったようにそのまま本の中へと視線を落とす。

 気になったので隣に立ち、中身をのぞき込む。


「何を読んでいるの?」

「これ? 

 連盟からの連絡よ。定期的にこうやって届くから一応目を通しているの。

 それはそうと、今日のお昼は焼きそば?」

「そう、丁度冷蔵庫の中に焼きそばの材料が揃っていたから。

 連盟からの連絡って白紙の紙一枚で来るの?」


 キッチンから香ばしいソースの匂いがしてきており、目の前の紡は自身のお腹を見つめる。

 はあ、と息をつき、紡は本を閉じる。


「形なんて人それぞれよ。

 毎回手紙で受け取る人もいるし、報告書という形を取る人もいるわ。

 私の場合は書物に取り込むって形をとっているだけ」

「昔の記録は? その本の厚さだとせいぜいここ二、三年ってところでしょ」

「違うわ。これ一冊だけよ」

「どういうこと?」

「これも一応私が作った本よ。詳しく話すと長くなるし、またの機会でいい?」


 紡はテーブルに燈華が運んできた焼きそばを見つめながら言う。

 燈華が頷くと、紡は手を合わせ焼きそばに手をつける。

 仮眠をとっている秋姫を呼ぶ為に燈華は二階へと階段を上がり、秋姫の部屋の扉を叩く。


燈華の視点どうでしたか。

楽しんでいただけましたら幸いです。

日常と言っておきながら、こんな日常はありえないですね……


お読み頂き、ありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」等、思って頂けましたら、ブクマ・評価頂けると大変励みになります。

評価は下の方にあります、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』へと押して頂ければできますので、どうぞよろしくお願い致します。

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ