3. 魔法使い、遺跡へ行く『その参』大空洞のスカルドラゴン
流哉の視点となります。
楽しんで頂ければ幸です。
・流哉⇒世界に残された数少ない魔法使い、ある目的の為にジョルトのパーティーに加わった
・ジョルト⇒世界に残された数少ない魔法使い、流哉を自身のパーティーへ加え遺跡へ挑む
・アイリーン⇒ジョルトのパーティーに所属する女性
抜け字がありましたので、修正を行いました(2024/10/28)
ジョルトの寄り道を終え、現在は『竜墓ドライグ』の第三階層。
第二階層の広大な迷路から様子を変え、巨大な空洞が幾つも点在し、それらを繋ぐ通路で構成された階層になる。
第三階層をある探索者はアリの巣のようだと例えた。面白い表現ではあるが、この第三階層は探索者たちと特別な力を持たない魔術師たちの潜る事が出来る限界とされている。
その最たる理由が目の前に君臨する。
「スカル……ドラゴン」
「幸先が良いとは言えないな。やっぱリュウヤの運は良くねぇわ」
「オレのせいにするなよ。そもそもスカルドラゴン程度に慌てる必要があるとも思えないな」
アイリーンだけは表情を青くしている。目の前にいる全てが骨で構成されている、いや骨だけになった竜の化け物がスカルドラゴン。
意思を持たず徘徊する骨の化物だが、骨だけになったとはいえ竜種の特性は備えており、基本的に魔術が通じ難く、その骨は堅牢で、竜を名乗るだけの巨躯である。
既に意思すらなく、本能のままに徘徊するなれの果て。誇り高い竜種としてはその存在を許すことは出来ない。
流哉の腰に付けている鍵の一つが激しく反応する。諦めに近い感情と、見過ごしてジョルトたちに押し付けるという選択が出来なくなったことへ溜息を吐き出す。
「ジョルト、コイツはオレが始末する。手出しは不要だ」
「珍しいな、リュウヤがやる気なのは」
「やる気は無いよ。契約だから動く、それだけだ」
ジョルトに鍵の束から一本の藍に近い鈍く輝く青色の鍵を見せる。驚いた様子だが、直ぐに納得したと言わんばかりの笑顔に変わる。
この鍵を見せるだけでジョルトは直ぐに悟ってくれる。
「さあ来い、誇りを失った哀れな骸よ」
七十五式の刀身を付け替え、最も長い状態である太刀を構える。
竜の骨を断つほどの強度も鋭さも子の魔導器にはないが、やり様などいくらでもある。
スカルドラゴンは竜種と同様に素早く一撃も重い。故にこの怪物を退けるだけの力を持つかどうかがギルドでの一つの指標となっている。
退けられないのであれば、存在を確認したらその空洞を避けて通れば一応逃げ帰ることは出来るが、それもスカルドラゴンに探知されなければという前提条件が付く。
魔術だけでも剣術だけでも届かないのであれば、その二つを合わせればいい。剣そのものに魔術を纏わせる技法を用いれば、何の変哲もない鉄の剣であっても魔剣の真似事くらいは出来る。
何の特性も持たない鋼の剣故に合わせる魔術に注意を払う必要はあるが、刀堂から散々話しを聞いているので、流哉にとっては問題ですらない。
「いちいち効きの悪い魔術を纏わせないといけないのは面倒だが、この程度の相手にわざわざ得物を変えるって方が面倒だ」
刀堂の創り出した『変換刀七十五式』は、刀身の部分を変え続けることによって刃を研ぐ必要も無く、刀身が折れても戦闘の継続を可能とする。その代わり刀身は使い捨てを前提としていて、特別な材質の物では無く、極々普通の刀剣と変わらない。
火の魔術を纏わせれば刀身が溶け出し、水の魔術では刀身が錆びてしまう。言い換えれば刀身に影響のある魔術を使わなければ幾らでも代えの効く刃を以て、敵対するモノを切り伏せることが出来る。
太刀と呼ばれる物に等しい長さの刀身に風の魔術を纏わせる。刃の表面にだけ薄く鋭く、しかしあらゆる難敵を退けるだけの強風を刃へ宿す。
スカルドラゴンの攻撃など、特別な対策は必要ない。鋭い攻撃も、早い動きも、見抜く瞳と避けるだけの動きさえできればいい。
流哉の瞳にはスカルドラゴンの動きはスローモーションのように映り、一秒に満たない速さでは捉えることは出来ない。
「竜の皇帝の怒りをかった。お前にこの先はない」
既に意思などないスカルドラゴンに言葉など不要だが、これは竜の皇帝への義理立てだ。
風を纏わせた刃でスカルドラゴンの首に亀裂を入れる。刃こぼれした刀身を切り離し、新しい刀身へ交換する。
新しい刀身へ纏わすのは雷の魔術。一撃、たった一撃保てばいい。
首に走った亀裂へ寸分の狂いもなく刃を向け、スカルドラゴンに触れる寸前に刀身が焼き焦げない限界まで雷の魔術を込める。
刀身へ留めきれなかった電流がスカルドラゴンへ流れ出し、電流の迸りによって空洞を照らす。他の怪物を引き寄せる可能性もあるが、この階層で出くわす中で最も脅威なのはスカルドラゴンであり、それ以外に手を焼くことはまずない。
それに、さっきからこちらの様子を窺っている虫けらを呼び寄せるのには丁度いい。
「本当に……一人でスカルドラゴンを倒しちゃいました」
アイリーンのこぼす一言は本心から来るものだったのだろう。信じられないモノを見たという表情をしている。
炭化したスカルドラゴンの身体は霞のように消えていき、その場に残されたのは大ぶりの牙が一本。スカルドラゴンの牙はまぁまぁの当たりの部類になる。
竜の亡霊といっても竜である事に変わりはなく、その牙一本で莫大な金額が動く。純粋な竜の牙に比べれば価値は落ちるが、遺跡の上層部で活動する探索者たちにとっては喉から手が出るほどに欲しいものだろう。
「リュウヤにとっては物足りない相手だったか?」
「この程度の相手に手を焼くほど腕は落ちちゃいねぇよ。手札は幾らでもあるが、わざわざ持ち替える方が面倒だからな。
今回の落ちはまずまずってところか。牙よりは爪か骨そのものの方が良かったが」
「牙だって丸ごと残る方が珍しいんだ。十分な成果だって」
ジョルトが言うように牙の欠片や破片ではなく根本まで揃って残る方が珍しくはあるが、スカルドラゴンの牙を流哉は必要としていない。
「まぁ、その内ナイフにでも加工してみるか。どうせ埃をかぶるだけになるだろうが」
「それだったら、その牙を僕たちに譲ってはくれませんか?」
ジョルトが何かを言う前に複数の足音と共に声がかけられた。
声の主は少し離れた岩の影から出て来たのは四人組の男女。協会の人間だと一目で分かる恰好をしているのが二人、もう一人はたいそうな見た目の杖を持っている魔術師、もう一人は恰好から判別は付かないが、恐らくは魔術師でも協会の執行者でもないだろう。
目に映る範囲での脅威となりえる要素は無く、どう評価しても実力は中の下、この階層で散策するのが限界だろう。協会の人間だと分かる恰好をしている内、初老の男性が執行者だという事くらいは判断できるが、実力はそう高くないだろう。
「何故、見ず知らずに他人に恵んでやらなきゃならないんだ?
遺跡の中で入手した物は発見者にその権利がある。そのくらいのルールは分かっているよな」
ジョルトと僅かに視線を交わし、警戒を最大限引き上げる。流哉とジョルトの二人きりであれば警戒する必要すらないが、アイリーンという弱点を抱えている状態でそういう訳にはいかないだろう。
「貴方はソレを不要としているのでしょう?
我々に譲ってくれてもいいじゃありませんか」
「対面しているオレ達が手傷を追わせて撤退した後の漁夫の利を狙っていたのは分かっている。自身で倒すことが出来ないのであれば、無謀な欲は出さないことだ」
電撃で焼き焦げて使い物にならなくなった刀身を切り離し、新しい刀身へ付け替える。巨大な獲物を狩る為の太刀ではなく、対人近接戦に適応させた打刀へ。
攻撃してくる様子は無く、スカルドラゴン程度を相手に他者の功績を掠め取るという選択をするような連中だ。わざわざ警戒する必要は無いが、念には念を入れるべきだろう。
「別に美味しいところを狙っていた訳じゃないですよ。スカルドラゴンを見つけた時にはそちらが先に戦闘に入っていたので邪魔にならないようにしていただけです。
それで、貴方方はソレを必要としていないのですよね?
だったら譲ってくれても良いではないですか」
面倒な相手に絡まれたと思った。流哉とジョルトを相手に避けるという選択をしないあたり、余程経験の浅い新米探索者たちのパーティーか、切羽詰まった事情のある連中か、許可を得ずに潜っている侵入者のどれかだろう。
経験の浅い探索者たちであれば無視して、目前に見えている第四階層への入り口を兼ねている神殿へと進むだけ。切羽詰まっているのなら理由を言うはずだが、その様子はない。
問題なのは侵入者であった場合で、この場で取り押さえなければならなくなる。
侵入者というのは珍しくはない。生存して遺跡から何かを持ち出さなければ別にどうでもよく、死体になっていてくれれば言う事なしだ。
正直、管理が出来ていないギルドのこと等どうでもいいのだが、遺跡の中で手に入れた奇跡を外の世界へ持ち出し、神秘の流出に繋がることは見過ごすわけにはいかない。
「欲しいのなら他の空洞でスカルドラゴンを探して倒せばいい。その言い分だと倒せると言っているとこちらは判断する。
確かに、オレはスカルドラゴンの牙を必要としていない。だが、タダでくれてやるほど御人好しでもない」
流哉の言葉に反応する様子はない。現状、目の前の探索者パーティーが侵入者かどうかは分からず、流哉も隣で先ほどから黙っているジョルトも勇者を名乗る一行を探すという面倒な依頼を受けている。
こんなところでスカルドラゴンすら狩れずに他者の功績を奪うような弱者が勇者を名乗っているなどと流哉は考えていない。
竜墓ドライグ、第三の階層において安全地帯となっているのが、第二階層と繋がる階段を取り込んで建設された神殿と、第四階層へ繋がる階段の上に建てられた神殿。
第三階層の入り口と出口の両方に建設された神殿の内部のみが、この階層における安全地帯だ。そのどちらでも勇者を名乗る一行どころか探索者のパーティーと出会っておらず、ようやく出くわしたのが漁夫の利を狙う小悪党。
件の勇者とやらは想定以上の力を持っていて、第四階層以降に居ると考えるのが自然だろう。
「ジョルト、この階層に用はない。さっさと次の階層に行こう」
「そうだな。目的の階層はまだ先だし、こんな所で足踏みしている暇もないからな」
相も変わらず動く様子の無い探索者パーティーの横をすり抜け、目の前の神殿へと進む。
「そうですか。それでは、我々勇者にそのドロップアイテムを供出しなさい」
神殿まであと一歩という時に、探索者は名乗りを上げた。
このまま何も聞かなかったことにして、第四階層へ進んでしまいたい。しかし、ソレをジョルトだけならまだしも生真面目そうなアイリーンが許すとは思えない。
「そうか、お前たちが協会の許しもなしに勇者を名乗る馬鹿どもか」
協会の正式な任命を受けずに『勇者』を名乗るのは重大な罪に問われる。
神という傲慢な存在からの祝福を受けるか、気まぐれな精霊の祝福を受けた者のなかで、協会の最高意思決定権を有する『七人の聖人』の総意を以て任命されるのが『勇者』という特別な立場だ。
目の前にいる者の中に協会の関係者であろうと推測できるのが二人。勇者を名乗る青年と初老くらいの男性、そのどちらからも感じ取る力やプレッシャーは今まで会った執行者の連中に及ばない。
執行者のクリストフに満たない実力しかないような者が、『勇者』の任命を受けている訳がない。
「勇者様をそのように言うものではない」
初老の男が咎めるが、コイツは協会の人間でありながら協会の理念に反している。執行者がこの地に押し寄せて来る理由としては十分だ。
祖母の手によって安定させたこの地を荒らす要因となるのなら、それを排除するのは孫である流哉の役割だろう。
「正式な勇者の任命が行われたという話しは聞いていないな。知り合いの執行者からもそのような話しを聞いた覚えは無いし、お前たちは勇者を名乗るというのがどれ程の罪か分かっているのか?」
「僕の実力を理解できない聖人たちが未熟なだけさ。僕は勇者となるべくしてこの世に生まれたのだから」
コレは……アレだ。妄想が行き着いたしまったという奴だ。
おそらく勇者を名乗る青年は執行者の見習いか何かだったのだろう。初老の男に唆されたのか、それとも……いや、考えるのは止めよう。
あれこれ考えたとして、それに意味はない。目の前にいる連中の素性を調べ、ソレをギルドへ報告するだけ、目的を知れればなお良いというだけ。
「お前達がどのような理由や信念を持っていようがどうでもいい。協会の内情になど心底興味がないし、お前の生まれた理由に関してなど微塵も興味がない。
ただ、秩序を乱すというのなら話しは別だ。お前たち、他の探索者から魔導器を盗んでいるな」
自身を勇者だと語る青年が着けている指輪の魔導器はギルドマスターが言っていた盗まれたものの特徴と酷似しており、協会の関係者と思われる二人の後ろに隠れている女性の魔術師が持っている杖も、説明された盗品の特徴と非常に似ている。
流哉は、この勇者を名乗る一行が遺跡の中で盗みを働いているという事を確信した。
「そうだな。勇者だと名乗りさえしなければ見逃しても良かったが、勇者を名乗るっていうのなら話しは別だ。
他のシーカーから奪い取った魔導器、全て返してもらうぞ」
元々探索者でしかなく、そこから魔法使いへ至っただけあってジョルトは探索者たちが不利になるようなことに関しては容赦がない。
どのような絡繰りがあるのかは分からないが、魔法を超える神秘を扱えるとは思えない。どんな姑息な手段を用いて、魔導器を奪い取っているのかを警戒する必要はあるだろう。
「やれやれ、僕たちの崇高な理念を理解できないとは。勇者である僕の役に立てるのだからソレが何よりの報酬だよ。
それに、僕の聞き間違いでなければ、今『ジョルト』って言ったよな。それなら貴重な魔導器を沢山持っているんだろう?
魔法使いのジョルト・ガレオン」
そう青年が言うと同時にジョルトの足元の魔法陣が展開し、拘束される。
アイリーンと流哉には展開されなかった様子から、同時に展開できるものではないのか、あるいは特定の条件が必要なのか。
とにかく、魔法使いを拘束する魔術というのは警戒する必要がありそうだ。
「リュウヤ、気を付けろ!」
「バカ!」
不用意に名前を呼ぶなと言おうとした矢先、流哉の足元にも魔法陣が展開する。回避すべく、術式を起動させて行動に移そうとするが魔眼を通して見た未来の景色は変わらない。
この拘束する術式には条件がある代わりに発動すれば追尾する効果が含まれているのだろう。
「こんなところで魔法使いを二人も捕獲できるなんて、僕はツイている」
調子に乗らせるのは業腹だが、これで勇者を名乗る一行は油断するはずだ。
術をかけているのが後ろに居る女魔術師であり、受けて分かったが拘束術式そのものを解除するのは容易そうだ。
それならば、今は様子見に徹し、口が滑るのを待つのも一興。調子に乗りやすそうな青年の口は簡単にペラペラと話し始めるだろう。
今回の話し、お楽しみいただけましたでしょうか。
竜墓ドライグという場所において、第三階層から出現する全身が骨だけとなった竜の怪物、スカルドラゴンはギルドの中で基準となっています。
スカルドラゴンという脅威を超えるもしくは退けるだけの力を持つかどうかが第三階層へ進めるかどうか、竜墓ドライグという遺跡で探索者を生業としてやっていけるかどうかの基準となります。
基準としてはかなり厳しめであり、第三階層を主な探索場所としているというだけでその探索者パーティーは一流として扱われます。
勇者を名乗る青年は、協会にとって抹殺すべきターゲットです。
勇者という称号は、協会にとって容易に認定するほど安売りしていません。
次回は流哉VS自称勇者一行です。
楽しみにして頂ければ幸です。
お読み頂き、ありがとうございます。
読者の皆様へ筆者からのお願いがございます。
本作を読んで、「面白かった」「続きが気になる」等、少しでも思って頂けましたら、
・ブックマークへの追加
・評価をして頂けますと大変励みになります。
評価はページ下部にあります、『ポイントを入れて作者を応援しましょう』項目の
『☆☆☆☆☆』ボタンを『★★★★★』へと変えて頂ける大変励みになりますので、どうぞよろしくお願い致します。
今後ともよろしくお願いします。