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1. 倫敦の魔法使い『その壱』待ち人、来る

流哉の視点となります。

楽しんで頂ければ幸です。


・流哉⇒世界に残された数少ない魔法使い

・????⇒世界に残された数少ない魔法使い

・????⇒連盟にいる唯一の神父


引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。

まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。

 イギリスの首都ロンドンの地下に拠点を構える魔法連盟の本拠地。その中心部に位置する連盟本部の周りには幾つかの店がある。

 魔導器を扱う店、触媒や薬剤を取り扱う店、錬金術師たちの工房、そして飲食店。


 魔術師達も人であり、普通の人達の間で話題となっている嗜好品(しこうひん)を態度に出さなくても気にしており、需要があるところには商売が生まれるものだ。

 少し時代遅れな内装の店内には多くの魔術師達がそれぞれの時間を過ごしているハズの時間帯だ。

 ただ一人、神代流哉の、魔法使いの周りを除けば。


 ジロジロと珍しい動物を見るような視線を向けられるのは好きではないので、店の一番奥に位置するテーブル席で本を片手に注文したカプチーノを口に含む。

 エスプレッソの深い苦み、豊かに泡立てられたミルク、それらが口の中で一つになる。確かにコーヒーをそのまま飲むのとは違うと感じる。


「ジョルトはコレが好きだと言っていたな」

「そうだろ。ただ苦いだけでなく深いコクを感じるだろう」


 流哉の前の椅子に腰かけ、店員に『オレにもカプチーノ一つ』と言って朗らかな笑みを浮かべている金髪の色男がジョルト・ガレオン。数少ない友人の一人で、数少ない同胞(魔法使い)の一人だ。


「遅かったな」

「本部へ立ち寄ったら足止めされた。リュウヤと会うってことは誰かが言わなくても知っていたんだろうな。

 この時期に、オレとリュウヤが連盟の本拠地に居ることの理由は連盟のそれなりの立場にいる奴等なら知っている」


 流哉は渡英してから数ヶ月前まで連盟の本拠地に居た。契約に縛られて居場所を好き勝手に動かせない状態であったともいえる。

 ジョルトは流哉と異なりフラっと現れては去っていくような奴だった。初めて会ったのは遺跡の中で鉢合わせ、その後遺跡へ共に潜るようになった時でさえ特定の場所にいることはなかった。

 魔法に至った現在(いま)となっては、より居場所が掴めなくなったと連盟の代表に名を連ねている葛城(かつらぎ)がボヤいていた。


「友人の墓参りくらいゆっくりさせて欲しいもんだね」

「直接墓の方に乗り込んでこないだけマシだろう。そもそも、オレくらいにしか連絡先を教えていないお前が悪い」


 流哉自身、応じるとは一言も言っていないが、ある程度の人には連絡方法を開示してある。

 魔法使いへの連絡方法を知ると言うだけでその人物の価値は跳ね上がり、手を出しにくいモノへと変わる。当人が相応の力を持っている場合もあるが、それ以上に魔法使いが懇意(こんい)にしている人物への手出しがどういう結果を招くかという事を知らないほど愚かではないということだ。


「それはそうだけどさー面倒事を押し付けられるのは納得できねぇ」

「押し付けられたのなら一々付き合う必要は無い。勝手に言っている連中の戯言(ざれごと)なんて言うのは聞き流しておけばいい。

 オレ達を縛るようなルールは存在しない」


 連盟の中で、魔法使いを従えるなんて言う夢物語を語る連中は居る。重鎮の席に着くような者の中にも出てしまった責任は連盟に取らせている最中だが、それと同時に魔法使いは何にも付き従うことはないと徹底させる。

 次の機会など与える気はない。


「フォンとカツラギくらいには連絡手段を伝えるよ。

 あの二人ならオレが言う事を聞かないなんてことは分かり切っているだろうし」

「その方が良いだろうな。連盟による度に足止めされるよりは遥かにマシだろう」


 ジョルトのもとへ注文したカプチーノが届く。流哉はゆっくり飲んでいたがジョルトは割と景気よく飲み干していく。

 サッと頼んで、サッと飲んで、サッと立ち去るのがマナーだとジョルトは言う。

 イタリアのバーであればそういう振る舞いを求められるのだろうが、ここはイギリスであり、場所が変われば求められる立ち振る舞いというものも変わってくる。

まぁ、今回はジョルトを待つ側なので何も言わないが。


「待たせたな。もう出られるぜ」


 少し目を離した間にジョルトはカプチーノを飲み干していた。

 フロアに居るウエイターを招き、バインダーに紙幣を何枚か挟んで渡す。


「釣りは結構」


 ジョルトの分も一緒に会計を済ませて店を出る。

 友人の墓参りへ向かう前に幾つか寄る場所がある。動くのなら早めの方が良い。


「手分けした方が早いだろう。オレは何を買いに行けばいい?」

「それなら酒とアイツが好きだったものを買ってきてくれ」

「任された」


 ジョルトと別れて幾つかの出店を回る。墓に備える為の花と、簡単に掃除ができる道具を用意して待ち合わせた霊園へ向かう。

 連盟の敷地内、本拠地から程よく離れた場所に連盟の共同墓地がある。

 魔術に関わる者達は総じて表の世界では居場所がないことが多く、死者を引き取ることなどマレだ。そもそも肝心の遺体がないなんてことですらザラにある。

 そういった者をせめて形だけでも弔う場所として霊園がある。


「面倒だけど、来たからには顔を出さないと文句を言われそうだな。

 当人は居ない可能性の方が高いけど、立寄らなかったってことを何故か把握しているんだよな」


 魔法連盟の敷地内において一際異彩を放つ場所、敵対組織である協会の本分とも呼べる場所である礼拝堂(れいはいどう)

 常駐する宣教師など居ず、祈りを捧げに来る敬虔な信徒も居ない。

 それでもこの連盟の地に礼拝堂という場所があるのは一人の元神父の功績と言えるだろう。神に仕え、死者を(いた)み、死したものへの救済を行い、確かな実力を証明してきた結果と言えよう。


「今日も留守にしていると思っていたが、まさか居るとは驚きだ」


 礼拝堂内、祀り上げる神の像の下で祈りを捧げる男。年は中年の頃、身に纏う祭服を内側から押し上げる肉体は鍛えあげられていることを物語っている。


「魔法使いとは珍しい客人だ。このような場所にいったい何の用かな」


 ワザとらしいその言い回しと共に近づいて来る連盟唯一の神父。世界中に広がる宗教で祀られる神への信仰心は高く、何故連盟に居るのかが分からないような人物だ。


「別に用なんて無い。立ち寄らずに素通りすればお前がうるさいから立ち寄っただけに過ぎないよ」

「それは御足労をかけました。私自身、留守にする事が多いので、会える時には会っておこうと思ったので。

 御詫びにご友人の墓前で聖書の朗読でもいかがですかな?」


 神父がその手に持つ聖典は世間一般に広く広まっている物ではなく、裏の世界に関わる者として洗礼を受け、執行者として多大な功績をたたえられた者がその際に受ける洗礼の証として授かる物。

 特別な処理を施したインクで書き写された聖書の原本であり、その装丁(そうてい)には聖骸布(せいがいふ)が用いられた聖遺物に匹敵する物。敵対組織である連盟にあっていい代物ではない。


「本来であれば、死者にとってこれ以上にない祝福だろう。亡くなったオレの友人が仏教徒じゃなかったらの話しだが」

「そうですか。それは残念です」


 残念だという神父は少し肩をすくめるだけで心底そうは思っていないのだろう。

 流哉がそのような事を頼むわけがないとこの神父は分かり切っている。


「滅多に居合わせないお前がここでオレを待っていた。何か理由があると勘ぐってしまう。

 協会を追放されたとはいえ、多くの魔術師を葬った執行者のお前が、魔法使いであるオレを畏れる理由なんて見当もつかない。

 腹の探り合いなんて言うのはオレの主義じゃないし、回りくどいのは面倒だ。

 なぁ、カイゼルよ。オレに何か用があるのか?」


 流哉は真っすぐに神父カイゼルの目を見つめる。

 少しの沈黙の後、神父は観念したように溜息を吐き出した。


「本当に、貴方へ特別な用は無いんですよ。

 最近、ギルドからの依頼を受け遺跡へ遭難者を探しに行きました。私のもとへ要請が来た時点で五日の時間が経過していて、既に生きているのか死んでいるのかも分からないというのには十分な時間です。

 私が発見した時には既に亡くなっていて、その亡骸を回収した。いつも通りそれだけのハズだった。

 まだ若い修道士の亡骸に(すが)りついて泣くパーティーの子たちを見ていたら、私も自身がいつ帰らぬ身になってもおかしくないと思っただけで、会って顔を合わせられる内はその機会を大切にしようと考えを改めただけです」


 実に饒舌(じょうぜつ)だと思ったが、元いた場所の若者が死んだことで自身の生に対して疑問を抱く機会になったというだけの事らしい。

 遺跡に潜り続ける限り死のリスクは常に付きまとう。流哉自身も以前はその危険を感じながら遺跡の探索をしていた。

 魔法使いであっても命の保証はないのだから、より脆い魔術師達や協会の者達であればリスクはより顕著(けんちょ)なモノになるだろう。


「それは遺跡へ潜る者たちが共通で持つ認識だろう。

 今日笑いあっていた仲間が翌日には冷たくなっている。それが遺跡へ潜るという事を意味している。

 言っちゃ悪いが遺跡へ潜るという事を勘違いしている連中は長くはない。冒険だの夢だの何て言うものを掲げている連中はいつ帰らなくなってもおかしくない」


 流哉は自身の左耳にぶら下がるピアスに触れる。遺跡の中から持ち帰った遺物であり、今は亡き大切な友人との思い出の品でもある。

 青春と呼べるページを彩るのは、パーティーで遺跡へ毎日のように潜っていた一年に満たない日々だろう。

 振り返り、懐かしみ、思いを()せることはあっても、その思い出に囚われることはない。全ての思い出は確かに心の中にあり続けるのだから。


「さて、面も見せたことだし、オレはそろそろ行くよ」

「そうですか。また連盟に立ち寄った際には礼拝堂に顔を出してください。

 遺跡へ救助に行く事も、ガルマを尋ねて留守にする事もありますが、私はこの場所で祈りを捧げています」


 礼拝堂から出て、霊園へ続く道を進む。

 少々カイゼルと話し込んでしまったから、ジョルトを待たせていることだろう。

 花と掃除道具を持って霊園の入り口が見える場所まで行くと、入り口の門のところで待っている男が一人。

 流哉の姿を確認したのか手を振って声を上げている。


今回の話し、お楽しみいただけましたでしょうか。

連盟の敷地内に霊園があるのは、連盟の敷地内に遺跡への入り口がある為です。

カイゼルは連盟内の遺跡以外の遺跡でもギルドからの依頼があれば探索者の捜索に赴きます。

死した者を連れ帰り、弔い続けてきた結果、霊園の管理人のような役割を与えられています。

礼拝堂はカイゼルの功績を讃えて連盟と協会が共同で出資して建てました。

また礼拝堂には宗教を問わず神父の話しを聞きに来る者たちも居ます。


お読み頂き、ありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いします。

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