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9. 流哉の魔法『その玖』魔法使いは条件を提示する

流哉の視点となります。

楽しんで頂ければ幸です。


・流哉⇒世界に残された数少ない魔法使い

・立花楓⇒宇深之輪大学で民俗学を教える教授、紛争地で活動をしていた魔術師くずれの傭兵

・新山由紀子⇒宇深之輪高校の教師


活動報告の方で告知しておりました年末年始にかけての連続投稿ですが諸事情により中断致しました。

一日も早い復興を願いまして。


引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。

まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。

 立花楓(たちばなかえで)の独白が続く。

 途中で口を挟まず、今の宇深之輪(うみのわ)で何が起きているのかを探る為に。


「中東から帰国した僕は直ぐに由紀子(ゆきこ)くんと会う約束を取り付けた。彼女に会って僕はとてもショックを受けたよ。

 大学で教え子として会っていた時の明るさは見る影も無くなっていた。マインドコントロールを受けているとさえ思ったくらいに」


 中東で対峙した少年兵の中にはマインドコントロールを受けている者もいた。そのような情景を見た直後に豹変(ひょうへん)した教え子を見たのであればそう感じてもおかしくは無いのかもしれない。


「会話を進める中で、宇深之輪高校の内部で起きている問題に気付いた。

 由紀子くんを教えていた先輩教師が本性を見せ始めた事、セクハラが酷くなった事、上に掛け合ったけど揉み消されたこと。

 相談を受けたけど、僕では何もしてあげられなかった」


 最近どこかで聞いたような話しだなとは思ったが、口を挟むことはしない。

 新山由紀子(にいやまゆきこ)には悪いが、宇深之輪という地を脅かす問題だと言うには少々弱い。腐敗し切った支配者階級が居るのであれば、その首を挿げ替えることで組織を健全化させる。

 セクハラ教師に灸を据えるのは組織の長の仕事、流哉のすべきことではない。


 宇深之輪という町で少なくない影響力を持つ神代(かみしろ)の家に連なる者として、その場の感情で動くことは許されない。人という枠組みから外れた神秘の一角を担うモノとして、人のルールに進んで関わる訳にはいかない。

 神秘に関わらない人達に神秘という禁断の果実を与える訳にはいかない。


「僕に出来ることは少なかった。彼女の心を救ったのは、寄り添い支えるパートナーの存在だった。

 新しい命にも恵まれて、ようやく幸せを掴める時が来たという時に、君が再び僕の目の前に現れた。僕は心の中で(ささや)く悪魔に耳を貸してしまった。

 彼女が職を離れる決意をしたタイミングと、君を陥れる企てを他の教授が立てていた。

 好都合だと思った。君にも恩を売れる機会になる、好都合だと僕は思ってしまった」


 立花(たちばな)の罪の告白を聞く。それを聞いたところで流哉の心は微塵(みじん)も動きはしないが、聞いても聞かなくても判断に影響のない話しは語り手が話したいのであれば話させている。


凡庸(ぼんよう)な魔術師ですらオレを利用しようとは思わないだろう。

 どのような画策をしても無意味になると誰かしらに聞くか、魔法使いの怒りを買って滅ぶ様を見ているからだ。

 オレを動かしたいのなら情で訴えかけるのは無意味だ」


 意味のないことは知っていたと言いたげな表情をしている。

 立花の言葉に意味はなく、ただ一方的に罪の告白をしただけ。

 ここまで聞いてきたが、有益な情報は得られそうにない。罪を告白する側は良いかもしれないが、流哉はソレを聞いたところで対応を変える気など無い。


「そろそろ話しを聞くのは終わりで良いか?」


 流哉は宇深之輪の町に大きな問題が起きているのではないかと思い、情報を集める為に話しを聞いてきた。

 由紀子が抱えている問題がセクハラの一件のみであるならば、流哉に出来ることは何も無い。


「いや、本題はここからなんだ。

 由紀子くんの受けていたセクハラ問題は最近になって解決したらしい」


 ますますどこかで聞いたような話しになって来た。


流哉(りゅうや)くんは知っていると思いますが、流我(りゅうが)さんが動いてくれまして。

 連絡を取ってくれたのは燈華(とうか)秋姫(あき)だったけど、三人のおかげで私は救われたの」


 通りでどこかで聞いたような話しだと思った。流我(父親)から聞いた教育委員長だか誰かの息子が引き起こした不祥事(ふしょうじ)のことだったようだ。

 そのことに関しては父親に任せているし、無事に処理が済んだと聞いた。問題のある人物には罰が下され、代わりの人物が補填されたという話しまでは耳に入っている。


「その話しは聞いている。問題のある人物は学校を離れたはずだが?」

「その通りです。代わりの人員として昨年まで宇深之輪高校で教鞭を取っていた方に戻ってきてもらうことになりました」


 そうであれば特に問題はないのではないか。問題の人物は居なくなり、一時だけ職を離れたとしても代わりの人員を臨時で押さえれば良いだけの話しだ。

 わざわざ流哉に頼まなくてもいいことであるはずだ。


「問題のある教師の代わりに戻ってきて貰った人が、僕が以前から由紀子くんの代わりに教職に復帰して貰えないかと内々で話しを進めていたんだ。

 今すぐにでも臨時の教師が必要となってしまったと宇深之輪高校の校長からここの学長へ人員を用意してもらえないかという打診がきて、その処理を僕は押し付けられた。

 君が来たことで大学内の教授たちがアレコレと画策していた時期と重なった」


 なんだか風向きが変わった気がする。由紀子(ゆきこ)の代わりに務めてくれる人員を探していたとは言っていたのは確かだ。


「君に取引を持ち掛けた時は全てが上手くいくはずだった。現に君は僕との取引に応じてくれていたし、教授たちの企みを阻止することも出来ていた。

 だから、僕は押さえていた人員をその問題を起こした人員の代わりにするように情報を提供してしまった。

 連盟の代表が魔法使いを罠にかけるとは夢にも思わなかった」


 ロバート一人の暴走の結果として立花も振り回されたという事らしい。流哉としては勝手に数に数えられているだけに『ザマァみろ』と言いたいところだが……


「魔術師を束ねる組織である連盟は一枚岩ではない。魔術師なんてクセの強い連中を集めているのだから組織の内部は腹の探り合いだらけさ」


 一時とはいえ、流哉を日本に縛るようにと連盟の正式な声明が出された。

 首謀者に対して罰を下すことで流哉の鬱憤は晴らせるかもしれないが、振り回された方は『ハイそうですか』という訳にもいかないだろう。


「正直、君の事を利用した僕が言えたことでないのは分かっているけれど、困っている。

 今から新たに人員を引っ張って来るには時間的猶予(ゆうよ)がない。来年に間に合わせることは出来るが、今すぐに動かせる人は……この前問題を起こした教師だけだ」


 他者のこと等どうでもいいと切り捨てるところだが、連盟が関わってしまった以上はそういう訳にはいかない。

 連盟に属する全ての魔法使いの代表として、連盟の創設者の血族として、連盟という組織そのものが外部に疑問を持たれる訳にはいかない。

 流哉を利用とするのなら相応の代償を払わせることはあるが、ロバートの暴走を事前に止めることが出来なかった責任の一端は流哉にもある。

 一般人にも影響が出るようなことをしでかしたロバートに責任を取らせるとして、流哉は出来ることをしなければならない。

 まさか本当に藪蛇(やぶへび)をつつくことになるとはついてない。


「それを解決するには……オレの出す条件を必ず飲ませるように努力するしかないだろう」

「え……それって」


 沈み込むところまで沈んだ由紀子の表情に希望が芽生えている。


「あくまでも、オレが出す条件を全て飲むというのが最低限の条件だ」


 一応、用意していた契約書と条件を書いた紙を立花に渡す。


「ココに書いてある条件で一切妥協はしない。オレの時間を縛るという事に対して代償を払い切れない者たちへの契約条件が厳しくなるのは当然だ」


 立花と由紀子は渡した契約書と条件を書いた紙に目を通している。

 何度か顔色が悪くなる二人に対して先に釘を刺しておいたのは正解だった。


「この条件は……」

「飲めないというのならこの話しはなかった事にするしかない。

 オレを利用しようとしたからには譲歩は一切しない。後はこの条件を相手に飲ませるのはお前の頑張り次第だろう」


 立花は何度も条件の紙を読み返している。


「勤務するのは週に二日という条件だけでも変えてもらうことは無理だろうか?」

「条件は今と同じはずだ。言っただろう、オレも忙しいと。

 これからは連盟の方に行く頻度(ひんど)も増え、同胞たちからの依頼の期限も近いものが多い。

 元々、日本へは依頼で来ていただけで、予定していた期間は既に過ぎている。夏を過ぎたら戻る予定だったからソレに合わして依頼を調整していた。

 お前がオレに用があると言う魔法使いのもとを全て訪ねて許可を得て来るというのなら一考してやっても良いが?」


 絶対に無理だという条件を提示する。

 冬城(ふゆしろ)の魔法使い二人の依頼でロンドンを離れて日本に一時的に帰国していたに過ぎず、その依頼に合わせてスケジュールを調整していた。

 夏の頃には戻ると同胞たちには伝えていたし、その期限になっても戻らない流哉の事を聞く為だけに連盟には過去に無いほどに魔法使いが集まっていると流哉の所にまで連絡が来ている。

 連盟と日本を頻繁に行き来しなければならない理由の一つとして、同胞たちと話す為の時間が必要であるからだ。

 立花の要望を受け入れるというのであれば、同胞たちに更に待っていてくれと言わなければならない。そんな事を受け入れるような性格であったのなら、わざわざ戻って話す何てことはしなくて済む。


「それこそ無理難題が過ぎる。魔法使いに会いに行くなんて自殺行為でしかない。

 話しを聞いてくれるような相手でも、君を罠に嵌めたと説明した瞬間に首と胴体はお別れだ。

 まぁ、そもそも魔法使いが僕のような特徴の無い魔術師相手に会ってくれるとは思えないけれど」


 会うだけなら手がない訳でも無い。人知の枠外である魔法使いとはいえ、元は人間である。

 魔法使いが欲しているものさえ知っているのならば、ソレを餌にすれば会うだけなら叶う。その後の命の保証は一切しない代わりになるが。


今回の話し、お楽しみいただけましたでしょうか。

流哉が提示した条件は普通であれば到底受け入れられる内容ではありません。

立花は流哉の提示した無理難題を通し切らなければならなくなりました。


お読み頂き、ありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いします。


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