4. 連盟の本拠地で『その肆』 嵐の去った後で
フォンの視点となります。
珍しい視点ですので楽しんで頂ければ幸です。
・フォン⇒連盟の代表の一人、魔術師
・ロバート⇒連盟の代表の一人、流哉とは相容れぬ仲
引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。
まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。
神代流哉。神代月夜の孫にして神代の名と『最強の魔法使い』の称号を継いだ正真正銘の怪物だ。
魔法使いが共有する傲慢さと、それを認めさせるだけの実力を持っている。この星から魔法という最奥の神秘を与えられた文字通り選ばれし一握りというやつだ。
フォンとしては敵対だけは避けたい相手なのだが……
「ロバート。以前から何度も君には警告してきたが、どうやらそれは無駄だったらしい。
今回の不始末、君一人の責任だけでは取れない程に重大な事に発展している」
「ココまでの事をされて、何故魔法使いの言いなりになるのですか!
連盟とは魔術師の為の組織でしょう。ソレを魔法使いに好き勝手されて何も言い返せないなど、アナタ方は恥を知れ!」
ここまで無知であるとは、ガウルンの血筋も堕ちたものだ。我々と共に月夜と協力し、この場所の礎を築いた男の末裔がコレとは何とも惨めな事だろうか。
「今回の一件は全面的に君の独断と暴走が招いた結果だ。尻拭いをさせられている我々がキミに思うことが無いとでも?
魔法使いと敵対してまで守る価値は君そのものにはない。連盟を立ち上げた発起人の一人の血筋という一点だけが、君を守る為に我々が動く価値だ。
流哉が交渉の余地なしと判断していれば、そもそも葛城の魔法が発動する前に君は死んでいたよ。今、この場に居るのは流哉の手心があっての結果だ。
流哉ではないが、ロバート、君の勘違いを一つ訂正しよう。魔法連盟は、魔法使いの協力を以て神秘を維持し、後世に繋ぐ為の組織だ。
魔術師が魔法使いに勝つための場でも無ければ、君が自由にできる場でもない。
ガウルンの血筋は先代の失敗の責任を取らされて消えるところを流哉に頼み込んで譲歩を引き出せた結果だ。
ロバート、ガウルンの家に次は無いのだよ」
厳しい言葉で己の現実を見つめ直さなければ、流哉の手によって一つの神秘が世界から消える。魔術師にとっては小さくない損失となり、それだけは回避しなければならない。
「楓=アークライト。そこに居るクウェルも連れて出て来なさい」
流哉とのやり取りを扉の外で覗いており、流哉の魔術の発動に際し連盟の代表達が外へ避難するのに合わせて階段の陰に隠れた者たちにフォンは声をかける。
「隠れきれるとは思っていなかったけど、すぐにバレましたね」
「仕方ないさ。魔術師である以上、魔力を完全に隠しきるなど不可能だからね。
痕跡を完全に消し、隠れきれるのは魔法使いかフォン老ほどに魔術に精通しなければ無理な技だろう」
葛城の下についているフリーの魔術師、楓=アークライト。彼女は通常の魔術を行使できぬ代わりに魔法使いが編み出した魔術を以て連盟内において立場を確立した者。
低階級の魔術師で終える運命を、魔法使いとの縁を得ることで己の運命を切り開いた。
連盟にすら属さないフリーの魔術師、クウェル。彼女は戦場を渡り歩き、金銭によってのみ動く異端の魔術師。
魔術師にあるまじき方法と現代の武器を用い、一代で魔術師としての地位を確立させた本物の鬼才だ。
「無駄話はそこまでじゃ。クウェルよ、流哉のこの魔術に君の魔術は通じるか?」
クウェルはおどけていた様子から一変し、流哉が魔術をかけた部屋を除きこむ。
「保証は出来かねるが、やれるだけはやってみよう。成功した時は報酬をはずんでもらうけどね」
もし、可能とするのであれば幾らでも報酬をはずもう。たかが金銭でどうこう出来るのであるならば、それほど簡単な手はあるまい。
「相棒を持ってきていないことが悔やまれるが、無いものは仕方ない。
こんなオモチャでドコまでできるかは分からないけど」
クウェルそう言った後にジャケットのボタンを外し、フォルスターから一丁の拳銃を取り出し、未だに戦争の音が途絶えない部屋に向かって構える。フォンたち魔術師が毛嫌いし、魔術に劣るオモチャだと蔑んだ近代の兵器。
未だにクウェルはそのことを根に持っているらしい。
クウェルは拳銃を構え、しばしの沈黙が過ぎた時だった。
引き金にかけていた指を引き、乾いた音が地下通路に響く。射出された弾丸は部屋の中に吸い込まれ、金属に当たる音を数回響かせ、また沈黙が訪れた。
漂う硝煙が晴れた時、いつものように不敵な笑みを浮かべているクウェルの姿はなく、喜びも悔しさもないという表情。
「分かっていた事だけど、やはり無理だったか。流石は魔法使い、流哉は魔術も格別した実力の持ち主だ。
相棒があったとしても、恐らく私では無理だね。私の術との相性が最悪だ。
二つの核が重なる時を狙ってみたが、別の所から射線に入り込んできた何かによって阻まれていた。何発撃ち込んだとしても、その都度に障壁を用意されて失敗に終わるだろう。
この仕事を私に依頼するのなら、流哉に協力を求める必要がある。無数の妨害を越えての狙撃を成功させるに堪えうる弾丸を連盟で製作できるのなら話しは変わるけどね」
クウェルの言う弾丸とは、希少素材を加工し作製する文字通りの特殊武器。近代兵器でなければ、連盟随一の鍛冶師であるシェニッツァーが成し得ただろうが、近代兵器での特殊武器の製造となれば連盟内で成し得る者はたった一人しかいない。
「そうか。君の腕でも無理か。
楓、君なら成し得ることは可能か?」
たった一つの魔術を納めたことにより、非凡の枠組みから大きく逸脱した突然変異の魔術師に声をかける。流哉の手によって大成した魔術師である以上、返答の内容は大いに予想できるが、無駄と分かっていても尋ねない訳にはいくまい。
「フォン老からの頼みですので引き受けたいところですが、たとえ葛城様からの依頼であっても御断りさせて頂きます」
楓の言葉は十分予想のできた範囲であった。葛城の派閥に属していると言っても、それは連盟からの席を置いて欲しいという頼みを彼女が聞き受けてくれた結果に過ぎず、流哉の損益となるようなことに協力してくれる訳がないのだ。
「何故だ。成し得るだけの力を持ち、我々からの依頼を断るなど、それでも誇り高き魔術師か!」
ロバートは未だに立ち上がるほどの回復はしていないものの、吠えるだけの力は回復したらしい。そのまま黙っていればいいものを、余計なことをしてくれた。
楓の行動は素早く、一瞬の内にロバートに詰め寄り、その首に刀の刃を当てている。ドコに隠し持っていたのか、それとも何かしらの魔導器で問題を解決するに至ったのかは分からないが、今後彼女はいかようにも検査を誤魔化して己の得物を持ち運べるということだ。
「口の利き方には気を付けろよ。流哉さんほど私の気は長くない。
何度、お前の首を刎ねてやろうと思ったことか。成し得ないからではなく、当人が見逃していたから私も見逃していただけだ。
私に不良品という烙印を捺した連盟に席を置いてやっているのは流哉さんからの頼みだからだ。そうでなければ忌々しい記憶しかないこんな場所にいつまでも居るわけがない。
まぁ、魔法使いの術式を使えると分かった瞬間のアナタ達の手の平返しの様は、見ていて楽しかったですけどね」
未来を見通す魔眼持ちや未来を高い確率で占う術を持つ者たちを除いて、おおよその魔術師では視覚することを許されない跳躍術式。名を『踏み抜き』。
流哉が編み出した術を楓自身が調整して模倣し、彼女のみが行使可能とされる固有術式だ。
普段の楓からは想像が出来ないほどに口調が悪いが、これが彼女の素である。普段の格式ばった口調は猫を被っているのであって、親交が深い者達からすれば今の彼女こそが飾らない本心であると断言する。
「今は刃を納めてくれないか。今後の事を話したい」
「流哉さんに免じて刃は納めるが、話し合いの余地はない。コレは連盟が魔法使いから怒りを買った結果でしょう?
少なくとも、魔法使いと魔法使いに縁のある者、私のように流哉個人に恩のある者たちからの協力は得られないと覚悟した方が良いです。
私は巻き込まれたくないというのが本心ではありますけど」
楓は『それでは』とだけ言うと刀を鞘に納め、上に続く階段を上がっていく。
「そこに関しては私も同意だね。幾らか吹っ掛けようと思っていたけど、流哉の敵に回ればどうなるか、等という簡単な計算ができない落ちぶれちゃいない。
諦めてこの場所を放棄するか、攻略できる人材を待つか、流哉に願い出るか、連盟に残された選択肢はこの三つくらいよ」
クウェルも楓の後に続いて階段を上っていく。分かり切っていた事とは言え、連盟の中でも最高の部類に居る戦力から協力は出来ないと拒否されるというのは、フォンが思っている以上に神代流哉という魔法使いの影響力が大きいということに他ならない。
ドコで選択を間違ったのだろうか。
「皆さま、あんな部外者どもに頼らなくても私が何とかしてみせようじゃないですか!」
未だに見当はずれの事を宣う阿呆。先祖の思慮深さを少しでも引き継いでいたら、先代の失敗から学んでくれていれば、血筋が途絶えても惜しいと思う程の歴史が無ければ。
後悔はいくらでも生まれて来るが、まだ修復が不可能なほど流哉と連盟の関係は悪化していない。そこに打開する策があるはずだと信じよう。
今は、前代未聞の不祥事を抱えたままでも連盟がしかと機能するという事を示す必要がある。
老骨であろうと何であろうと打てる手は全て打っていく他あるまい。
今回の話し、お楽しみいただけましたでしょうか。
フォンという人物は好々爺という感じではなく、腹の中には何かを抱えている策士タイプです。
神秘や魔術を守り、魔術師を結果的には守っているという人物です。
流哉の友人や知人というのは限られた少数ですが、各々が少なくない影響力や実力を持つ者になります。
楓は流哉によって自身の魔術を見出した者で、クウェルにとってはこれ以上ない金づるであり戦友という感じです。
楓やクウェルは後々登場させていく予定ですので、楽しみにして頂ければ幸です。
次回を楽しみにして頂ければ幸です。
お読み頂き、ありがとうございます。
「面白かった」「続きが気になる」等、思って頂けましたら、ブクマ・評価頂けると大変励みになります。
評価は下の方にあります、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』へと押して頂ければできますので、どうぞよろしくお願い致します。
今後ともよろしくお願いします。