1. 連盟の本拠地で『その壱』 思惑が渦巻く連盟
流哉の視点となります。
楽しんで頂ければ幸です。
・流哉⇒世界に残された数少ない魔法使い
・フォン⇒連盟の代表の一人、魔術師
・重実⇒連盟の代表の一人
・レザリウス⇒連盟の代表の一人、流哉とは遠い親戚
・マリア⇒連盟の代表の一、クリスティアナの保護者
・シェニッツァー⇒連盟の代表の一人、最高位の錬金術師
・紫電⇒燈華の祖父、世界に残された数少ない魔法使い
・雪乃⇒燈華の祖母、世界に残された数少ない魔法使い
引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。
まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。
古ぼけた石材の積み重なった埃臭い一室。天井の隅の方には蜘蛛が巣を張っており、放置してからどの程度の時間が経ったのか、そして約束が守られていないことを認識した。
「どいつもこいつも……屑しかいないのか」
怒りに任せて腕を振る。魔力と簡単な動作で魔術を発動させ、部屋の中に渦巻く魔力を伴う暴風で汚れを吹き飛ばす。
煤汚れや埃、蜘蛛の巣などが消え去った後に部屋の本当の姿が顕わになる。石材で出来た壁には飛び散った黒い染みと未だに消えぬ怨念の残響。
全てが流哉自身ではなく、自身に流れる血そのものに向けられている。
連盟の本拠地の一部、所属する者の中でごく一部の限られた者にしか知られていない秘密の場所。先代の神代家当主である『月の魔法使い』から『世界の魔法使い』が引き継いだ神代家が抱え続けなければならない業。
神代月夜が連盟の設立に手を貸さなければならない原因、葬った魔法使い達の魂が眠る墓所。
神秘を秘匿する為に、未来の魔術師の為にと言うのは連盟の弁であり、同胞を葬った祖母の理由はたった一つ。自身の進む道に邪魔だったからだ。
それでも、同胞の恨みや嘆きを弔う場所として、連盟の核となる場所として、この地下牢のような場所を築いた。
管理をしなければならないのは祖母の後を継いだ流哉なのだが、連盟から追い出したのは他ならぬ連盟の代表の座に居座る連中だ。それならば代わりに管理するのが義務というモノではないのか。
「その文句もついで言ってやろう」
ロンドンという地の地下深くに居を構える連盟の本拠地の更に地下に分類される一室から上に向かって続く階段を上がっていく。
誰か一人でも降りて来てすれ違わないだろうかという期待などしてはいなかったが、誰か一人でも降りて来るのであれば約束を違えてはいなかったと思い直してやっても良かったが、その必要は無いらしい。
「扉が開かない」
連盟の本拠地、地下に走る通路に通じる扉に手をかけて押しても引いても動かない。魔力を単調な波長に変えて、ソナーのように使い扉の向こうを透かす。
「ふざけるなよ」
透かした扉の向こう側にあったのは連盟の本拠地の中でも地下通路に使われているものと同じ石材。イギリスという地において、血の流れる戦いの地に建っていた城に使われた石材で、長い歴史と積もり積もった呪いが込められている。
呪いで以て呪いを封じるというやり方は、結界術として魔術の起訴の部分だ。基礎だけに魔術を学んだ者なら誰でもできるが、強固な封印として機能させるには魔術の深奥を覗くだけの研鑽の積み重ねが必要となる。
魔法使いの怨念なんてものを封じるだけの結界を構築した犯人を捜さなければならない。自身のしでかした罪に等しい罰を与えなければ、中途半端に封じられた怨念が暴走するかもしれない。
「たかが石材程度で封じた気になっているのは……ガウルンに連なる連中の仕業か?
石は砂に、砂は塵に、魔力は虚空に。全ては塵に等しい」
封鎖していた石材に魔術を行使する。ありとあらゆる全ての事象を塵に変える魔術。
入り口の扉ごと塵に変えてしまったのは流哉のミスだが、それの修繕費は連盟につけておくとしよう。
「さて、こんなことをしでかした奴の面を拝みに行くとしようか」
流哉を連盟の本拠地に呼び出した者たちが待つ部屋へと歩みを進めた。
地下の通路を進むと一際目立つ扉の前に立つ。豪華絢爛な富を象徴するかのような重厚な作りの扉。
相変わらずこの扉は趣味が悪い。成金趣味丸出しというか、権力を持つという本当の意味がまるで分かっていない。
触るのも嫌悪する扉には依然来た時よりも増えている純金製の装飾。何かしらの魔術的な意図は一切ないただの飾り。
扉を更に重くしてくれた余計な異物だ。
「呼び出しただけあって今日は全員居るかと思えば、ガウルン家の落ちこぼれはどうした?」
流哉を迎えたのは五人。
連盟の実質的な代表であり所属する魔術師達全ての代表でもあるフォン・クロイツ。
連盟内で実質的な副代表である葛城重実。
流哉とは遠縁にあたる魔術師の名門であるステイン家の現当主レザリウス・ステイン。
連盟の代表の中では唯一の女性であり、若かりし頃には祖母と決闘をくり広げたという傑物マリア・クロノハート。
連盟に所属する全ての錬金術師たちの代表であり、『神代の幻想』の修復と『最も神秘に近い幻想』の製作に近代以降で唯一成功した功績を以て『最高匠』の称号と爵位を与えられた最高位の錬金術師シェニッツァー・バームロイム。
普段であれば流哉の用はこの場に居るメンバーだけで事足りるのだが、文句を言う相手がいないのは困る。
「それは私たちが居るからだよ、流哉くん」
流哉の後ろ、扉から新たに入って来たのは二人の老人。
「紫電さんと雪乃さん」
冬城燈華の祖父母にして当代だけで魔法に至り冬城の家に魔法をもたらした怪物。祖母の月夜とは友人であり好敵手であると言った間柄。
流哉が燈華の面倒を見る原因にして、間接的ではあるが流哉が連盟を去るきっかけになった二人。
「私達を利用して流哉くんを連盟から追い出した張本人会えると聞いてきたのだが、どうやらソレはガウルンの所の坊主だったらしい」
「私達を利用するという意味、知らぬ連盟じゃないでしょう」
紫電の溜め息、雪乃の問いかけに連盟の代表の座に座る五人は揃って溜息をつく。
「ええ、その通りです。流哉を追い出したという事を我々が知ったのは全ての書類が正式に通った後でした」
連盟の内部において唯一中立を公言するレザリウスがことの経緯を説明する。
どうやら発起人となったのはガウルンの息のかかった連盟所属の魔術師達と教員。それらの訴えの沙汰を下し、決定の判を押したのがロバート・ガウルンであったということらしい。
奇しくも、流哉に嫌がらせをしようとしていた大学の連中の思惑と重なり、想定よりも大きなダメージを与えたと知ったのは流哉の逆鱗に触れたことを魔法使いの『ジョルト・ガレオン』から聞いた時だったようで、撤回の連絡をしようにも大学からの問い合わせにロバートが正式な返答をした後で、後手に回ってしまったという事だ。
「そんなコメディアンのコントのようなことが起こりえるのか?」
「我々に気付かれないように内通者まで用意していた」
シェニッツァーが浮く盆に何枚かの書類を乗せて流哉の方に送って来た。
書類の内容を確認すると錬金術師や多くの魔術師が脅迫や利益によって引き抜かれていた事実が載っていた。
「それで?
知らなかったから許せとでも?」
この場にいる連盟の代表の座についている者たちが流哉の言うような姑息なことを考えているとは思っていない。もし、そのような連中であればこの場に居ることは無い。
故に、どのような対応をする気なのかを問う為に意地の悪い言い方をしている。
「無論そのような事を言うつもりは無い。だが、ロバートの処罰は我々に一任して欲しい。
このようなことを言えた義理ではないのは分かっているが、それでも頼む」
フォンが腰を曲げて頭を下げ、頼むと言うと他の代表の面々も同様に頭を下げる。
日本人である流哉に対して日本の流儀で頼みごとをしている。コレは相手の国のやり方に合わせることで最大限の敬意を表しているからだ。
フォン自身よりも遥かに年下の流哉に敬意を示す為に頭を下げている。組織のトップがすべきかどうかはこの際問わないが、この姿勢に対して流哉は相応の態度で返さなければならない。
「一度だけだ。今回の一度に限り、その頼みを聞いてやる」
納得はしていない。ロバートを許す気もない。
今回の、今回の一度に限り、処罰の判断を連盟の代表達に任せるとしよう。
「ありがとう」
「許す気はない。ただ、一度だけそちらの顔を立ててやる」
昔の流哉を知っている者たちからすれば丸くなったという印象を持つかもしれない。
自身でも驚いている。魔法使いかそれ以外かという区分しかしていなかったのに、今では魔法使い以外の区分に少しだけ変化が起きた。
友人がその立場に甘えず頼みごとをしてくると言うのであれば、ソレを聞いても良いと思うくらいには変化が起きている。
「さて、この場に居ないバカの事は放っておいて、わざわざ赤紙を使ってまでオレを呼びつけた用事はなんだ?」
「それは私達も伺いたいところだ」
「この場に留まっている私達まで呼びつけるとは穏やかじゃないわね」
冬城のご老体達の所にも呼び出し状が行っているというのは確かに穏やかではない。西園寺紡の所へ連盟からの呼び出し状が届いていないというのはこの眼で確認済みだ。
「呼び出しの内容は添付されていた説明文から察するに、オーギュストの教室で呪いが暴走したことに関してか?」
流哉の問いかけに異議がすぐに唱えられた。
「いや、我々の所には神代流哉が犯した犯罪についてだったが」
紫電が見えるように掲げた赤紙には確かに神代流哉の暴走についてと書かれている。
その内容を確認した連盟の代表達の表情を見ると苦虫を噛み潰した表情をしていた。
「冬城のお二人が何故ここに来たのか、ようやく納得がいったわい」
葛城のこぼした一言で流哉は一つの結論を導き出した。
流哉を裁くと赤紙を送り冬城の二人が居る場で糾弾し、その場の決議で味方につけようという魂胆だったのだろう。
その思惑通りに行くとは限らないのに。
「オレに赤紙を送って来たのはフォンたちで、紫電さんと雪乃さんに赤紙を送ったのはロバートの独断だった。そういう事だな?」
「どうやらその通りらしい。我々が送ったのは流哉に送ったものだけで冬城のお二人には送っておりません」
レザリウスの肯定する言葉の直後に後ろの扉が開かれた。
そこに立つのは渦中の人物であるロバート・ガウルン本人と、その後ろに続く複数人の有象無象。
流哉の記憶には無い人物達、十中八九ロバートに与する連中で金魚の糞どもだろう。
これ以上、機嫌を損ねるというのであれば、身の安全は保障しない。
今回の話し、お楽しみいただけましたでしょうか。
連盟の重鎮が久しぶりに出てきました。
連盟の代表とあって、魔術師であれば早々会う事の無い相手です。
魔法使いを相手にして交渉を行えるのは連盟内では代表達以外には荷が重いという感じです。
お読み頂き、ありがとうございます。
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