1.プロローグ 仕込みは上々
流哉の視点となります。
楽しんで頂ければ幸です。
今話から新章に入ります。
・流哉⇒世界に残された数少ない魔法使い
引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。
まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。
宝物庫から出て来るとどっと疲れが押し寄せてきた。
二柱の王との話しの内容は主にレクスウェルとの決闘に関しての賛辞だった。ただ話しに付き合うだけなら等と甘く考えていたことを後悔せずにはいられない。
「アイツ等の話しは長い……」
宝物庫の中、外とは異なる時間の流れであっても多くの時間を消費したはずだ。
長話に付き合わされたにしては時間の消費が極端に少ないのは、二人に招かれて行ったこの世の何処とも違う場所だからこそ大した時間がかからずに宝物庫の外へ戻って来られたのだと思う。
「まぁ、ご褒美を貰えたから悪い話しじゃなかったが……」
話しに付き合ってくれた礼だと言い、二柱の王が渡してくれたのは植物の繊維で編み上げられた一枚のパピルスと砕けた鱗の破片。
机の上に置いてある小物入れに二つの贈り物をしまう。中と外を隔絶する祖母の愛用していた小物入れなら、神話時代の遺物すらも超えるとんでもない気配を放つ贈り物でも隠しておけるという確信があるからだ。
「問題はもう一つ」
宝物庫へ接続し、しまい込んであった物を取り出す。
連盟の印が押された羊皮紙。連盟からの正式な流哉への依頼書。
それと、厳重に布が巻かれたモノ。巻かれた布を越してなお感じる強力な呪いの気配。
「呪われた物を欲しがるとは……救いようがないね」
流哉も好き好んで呪われたモノを収集することは……ない事も無い。
大抵の呪われた物であっても、流哉は自身で扱い切れるモノ、抑えきることができるモノになるので特別気にしたりしたことは無いが、ソレを回収して欲しいと依頼される場合は別だ。
連盟がわざわざ魔法使いに依頼を持ってくるのは、魔術師では手に負えられない場合と、危険を伴いあわよくば呪われて死んでしまえば良いという場合がほとんどだ。
面倒だが達成しなければ世間に影響が出てしまう様な仕事で、魔術師では帰還が叶わないが魔法使いならば達成できる場合なんて言うのもある。
流哉が頼まれた呪われた遺物の回収も、特別な理由がなければ蹴っていた仕事だ。
埋葬されていた遺跡そのものは随分前に発見し、連盟での調査も終えていたが、宿っていた呪いが強すぎて仕方なく放置していた代物だった。この度その遺跡の埋まっている地上部分で再開発が始まることが決まり、地質の調査を行うことが決まったらしい。
地質の調査を行い、地下に建造物があると分かってしまうと掘り起こされる。そうなれば呪われた遺物が出土品として世間の目に触れてしまう。
呪いが振りまかれる程度なら自業自得だと見捨てるのだが、そうなった際にそれを回収しなければならないのは発見前に回収するよりも非常に面倒なことになる。
「偽物を作って挿げ替えるなんて言うのは魔法使いがするべき仕事じゃない。無視して放置しても良いが、子供のお使いを押し付けられるのは御免だね」
依頼書が流哉の元に届いたのは、地質調査が行われることが決まったという連絡と同時だった。調査が行われる前日に遺跡へ赴き、遺物の封印と侵入経路の封鎖、立ち入った痕跡の始末まで押し付けられたのは高額の別料金を請求すると心に決めている。
「それにしても……元の持ち主はどんな人物だ?
協会の連中から脅し取った聖骸布で包んでいるというのに、呪いが漏れ出している」
聖人の遺体を包んだ布、聖骸布と呼ばれるソレは特異なものを封じる特性を持っている。
呪いや怨念なんてものは漏れなく包まれただけで機能しなくなるほどの由緒正しい聖遺物って代物のハズなのだが……
「聖人の力にすら浸食してくるとは余程だぞ。コレを抑え込むには神に由来する遺物でもって封じるしかない。
神に頼ってまで欲しいものじゃないが、コレを欲している連盟の奴が扱い切れるとは到底思えない」
連盟の連中にくれてやるには勿体無いが、不必要に呪いを振りまかれても困る。その後始末を押し付けられる可能性を考えれば素直に渡さないのが最善の選択だが、
「回収に失敗したとか、渡すのが惜しくなって嘘の申告をしたなんて噂が立つのも、それはそれで調子づく奴が出て来そうで癪に障る」
弱者が何を言おうと一々気には留めないが、ソレをどう解釈したのか調子に乗るヤツが一定数いる。調子に乗るだけなら良いが、そいつらは必ずといって無謀な挑戦をしてくる。
一人一人に実力差を分からせるなんて面倒なことをしなければならない事態になるのは自身の経験談である。
「少々勿体無い気もするが、雑魚が調子に乗るよりは何倍もマシだ」
抱えなければならないくらいの大きさの鍵付きの木箱を追加で取り出す。いわゆる宝箱と呼ばれる物だが、経過した年月が古いだけで流哉にとっては特別なモノではない。
箱の中に聖骸布で包んだ遺物を納め、鍵をかける。外にまで滲みだす呪いの気配に溜息を吐きつつ、こんな物を求める奴には救いが無いと切り捨てる。
「オレを利用した気になっている連盟のバカどもには良い薬になるだろう。
まぁ、それよりも大失態をする方が確定している未来だろうけどな」
呪いを封じ込める方法として、より強い存在の力で押さえつけるというのもある。別系統の神の力で抑え込むのも、そのものが持つ力が呪いよりも強いから成り立つ。
それは、呪いに対して呪いを以て封じ込めるということにも通じる。
「古の呪いだろうが、凡人の呪いだろうが、誰が呪われようが、心底どうでもいい。
それでも、オレを見下すのを……許容してやるわけにはいかない。ソレがたとえ太古の昔に発動しているものであったとしても、だ」
木箱を中心に魔法陣を展開する。余剰魔力を回し、魔力の強度を高めていく。
高めた魔力を以て一つの術式を行使する。記憶領域に書き込んである術式を転写し、そのままに魔力を流す。
魔力が形を成し、陣を作り上げていく。
「普通の呪いじゃ力負けするかもしれないが、この術式なら大丈夫だというオレの判断は正しかったな」
術をかけることが失敗するなど万が一でもあり得ないが、聖骸布を汚染する程の呪いを封じ込められるかどうかは賭けだった。
用いた術式の名は『パンドラの祝福箱』。ギリシャ神話に語られるパンドラの箱を原点とする呪いの魔術。
魔術としての難易度は低い。蓋つきの容器を用意し、そこに呪いと希望に当たるモノを封じ込めれば完成する。
中に込める呪いと希望とするモノや用意する器に応じて術の難易度は上がっていくが、魔術を学び始めた学生たちですら余興として用いるくらいには知られているものだ。
「わざわざ一対一でぶつけてやる必要はないと思って、複数で一つになる呪いを込めたのは正解だったな。パンドラの箱の術式との相性も良いし、良い実験になった。
悲しむべきは、この呪いをオレの意思で発動できないことだけだ」
仕込みは上々、結果を確認できないのは残念だが連盟からの依頼を完璧な仕上げでなしたと言っても過言ではない。
依頼の達成品を渡す場に連盟における錬金術師たちの代表、『最高匠』シェニッツァー・バームロイムが居れば箱の中に依頼品が入っていることを証明してくれる。
その際にパンドラの箱である事を説明しなければならないのが、わざわざ手品のネタ晴らしをさせられるようで苛立ちを覚える。
「まぁ、いちゃもんを付けられるよりは何倍もマシか。
それに、予想可能な未来をわざわざ未来視をしてまで確認する必要は無い」
開けるな、と釘を刺されれば開けたくなるのが人の性だ。
言いつけを破って箱を開封した時までの責任を取る気は更々ないし、責任を取る必要も、責任を押し付けられる謂れはない。
準備を終えたことを確認し、必要なものを宝物庫の中にしまいこむ。
少々時間を取られたものの、まだ待ち合わせの時間には十分間に合う。
多少遅れたとしても、呼び出したのは連盟の方だ。待たせておけばいい。
流哉は幾つかある扉の一つを開く。扉の向こうは古ぼけた部屋の一角だった。
今回の話し、お楽しみいただけましたでしょうか。
新章第一話でございます。
流哉が連盟に持ち込む何かの準備をするという話しでした。
彼が箱に込めた呪いと希望の正体は近いうちに分かる予定です。
連盟の人たちが出て来るのは最初の頃以降でだいぶ久しぶりかと思います。
次話以降で出て来ますので、よろしければ最初の方も読み返して頂ければ幸です。
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