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4.突然の出来事に 『その肆』 英雄と魔法使いの衝突

燈華の視点となります。

楽しんで頂ければ幸です。


・流哉⇒世界に残された数少ない魔法使い

・燈華⇒魔法へ至る為の修行中の身、自身が滅多にない幸運を得ていると自覚している

・紡⇒世界に残された数少ない魔法使い

・セレイネ⇒流哉の従者、宝物庫内の住人、魔導図書館レア・ステイリアの司書


引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。

まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。

 レクスウェルの一撃を防ぎ続ける白い鍵。その鍵が流哉(りゅうや)から魔力を尋常ならざる速度で吸っている。

 何かしらの魔導器だというのは分かるけど、どういったモノかは分からない。ただ、普通の魔術師であれば卒倒する程の量の魔力を吸い続けている代わりに英雄の一撃を防ぐほどの出力の物だ。きっと凄いものに違いない。


「まさか『魔天(まてん)(かぎ)』を持ち出すとは思いませんでした」


 セレイネが言う『魔天の鍵』というのはあの白い鍵の名前だろう。(けが)れを知らぬ純白のソレは、流哉の魔力を際限なく吸い続け、疲れの証拠である汗を額に滲ませている彼とは対照的に獰猛(どうもう)な笑みを浮かべ切り付けているレクスウェルの斬撃を受ける度に、鍵は輝きを増していく。


「主よ、いつまで(しの)ぐことに注力するつもりだ?

 主の愛剣を今日こそ抜かせるつもりだったのに、今日もその鍵で防ぎきるつもりなら、ソレは甘い考えだと言わざるを得ない」


 レクスウェルの斬撃を繰り出す速度が上がっていく。振り下ろされる返しは倍に、そこから振り下ろされる一撃は更に倍に増えていく。

 単純に一撃を繰り出す速度が上昇している。既に燈華の目に追える速度ではなく、鍵が受けとめた時に発する火花で何とか認識している程度。

 受けとめ続けている鍵にも変化が出始め、何度か受けとめる度にひび割れが広がっている。そう遠くない現実として鍵の粉砕が燈華の認識している未来図であり、その先に流哉がどうなるのかなど想像は容易い。


「このままじゃリュウちゃんが」

「その心配は必要ありませんよ。アレは苦戦しているのではなく、ただ単純に覚醒させるのに手間取っているだけみたいですから。

 前回使った時に余程強力な封印をかけたのでしょうね」


 燈華の目には苦戦しているようにしか見えない流哉の姿はセレイネが言うにはレクスウェルの一撃を防ぎ続けている魔導器を発動させる為に手間取っているだけだというのだ。

 そんな訳が……あるのだろうか。


「散々好き放題切り付けて来やがって……ココからは反撃させてもらうぞ」


 流哉がそう言葉を発した瞬間、アリーナから離れている観客席の最上階に居る燈華でさえ防御姿勢を取るほどの威圧を感じた。

 凪いでいたはずの湖面が急に荒れ狂うという表現がしっかり来るのかは分からないけれど、鍵にのみ向かっていたはずの流哉の魔力は荒れ狂う津波のように放出されている。

 常人であれば良くて昏倒、悪ければ死ぬほどの魔力量を吸われているハズなのに、一体どのくらいの量の魔力を保有し生成しているというのだろうか。


「レクス、この茶番に少しだけ付き合ってやる」


 流哉は左腕を突き出し、左眼の魔眼すら開眼し、身に纏う魔力は魔力量の多いと言われる燈華の最大出力など比べ物にならない程で、魔法使いの本気というモノを初めて見るのかもしれない。


「光の力で縛られし鍵よ、汝の枷を我が名において解き放つ」


 流哉の言葉に反応するように純白の鍵の全身にひび割れが走る。

 ひび割れから漏れ出すのは漆黒の光と表現するしかないモノ、闇が光のようにひび割れを通して鍵の中から漏れ出しているのだ。


「原初の罪をここに、魔天の鍵よ、真の姿、真の力を示せ」


 純白の鍵の表面は砕け散り、その中身が姿を現す。

 純白とは正反対の闇を固めたような漆黒。流哉の等身大にまで巨大化し、何かのモチーフらしきものが出現し、地面に突き刺さっている部分は槍のように鋭そうだ。

 見た目だけであれば杖や薙刀のように見えなくもないけれど、よく見ればモチーフ込みで全体は槍と表現できそうな形だ。

 見た目の禍々しさに相応しい能力を持っているだろうというのは燈華たちの所にまで届くプレッシャーで十分に分かる。

 半人前の燈華ですら十分に脅威と捉えるだけの圧力を感じるのだ。魔法使いである紡はどうなのだろうと視線を向けると、そこには自身の魔法の副産物である本を取り出し、ページを開いていることから、彼女にとって真剣に対峙しなければならない脅威として認識されている。


 攻勢であったはずのレクスウェルは十分な距離を取り警戒しており、流哉が攻める側になったという事を、攻守が逆転したことを物語っていた。

 流哉が一歩踏み出したかと思えば、レクスウェルはその場で動く。

 燈華の瞳に映ったのは、流哉の付き出した魔天の鍵とセレイネが呼んだモノが変化した漆黒の槍のような何かを自身の剣で防いでいるレクスウェルの姿。

 その身が持つ膂力で持って流哉を弾くレクスウェルは即座に剣で切りかかる先には吹き飛ばされたはずの流哉の姿が。

 燈華の目には何が起きているのかを認識できない。流哉の魔力の痕跡をかろうじて追うことで流哉がとんでもない速度で攻撃を繰り出しているという事実だけを認識する。


「あの槍の能力なの……何がどうなっているの?」


 見えているのかは分からないけど、いつになく真剣な表情の紡に尋ねる。


「私にも見えていないわ。ただ強化した眼で魔力の動きを追っているのだけど、それだけで脳が悲鳴を上げそうよ。

 少なくとも、人の身でどうにかできる動きではないわ」


 紡にすら見えていない景色が見えているのであろう人物に視線を向ける。


「主の動きが見えないのは仕方のない事です。人の身で追える反射速度ではありませんから。

 魔法使いの能力は遠目に似たような能力なのでしょうか。もしそうであるのなら、主の動きは未来永劫見えませんよ」


 セレイネは燈華たちの方を一瞥もすることなく答える。視線はアリーナに向いたままだが、質問には応えてくれるという事で良いのだろう。


「あの動きの正体と、流哉さんのアレについて教えて貰えますか?」


 珍しく紡が誰かに頼まれることなく尋ねている。燈華の聞きたかったことも概ね同じであり、わざわざ追加で聞くことも今はない。


「まずは貴女方が槍と言っていた『魔天の鍵』について説明しましょう。

 主が今武器として使っているアレが先程まで白い鍵の形をしていた物の本来の姿になります。現代の方がどのように認識をしているかは知りませんが、アレは冥府に通じる門を呼び出し、その扉を開け閉めする為の鍵です。

 主の、今のように武器として使うのは正しい使い方ではありません。アレの本質は開け閉めする為の道具である鍵です。

 それから、主の動きの正体でしたか。アレは魔力を用いた移動術ですね」


 魔力を用いた身体強化は燈華ですら行う程の初歩的な魔術だ。魔力を用いれば一般的には非力な部類に入る燈華ですら猛獣を相手にする事すら容易になる。

 しかし、あのような瞬間移動など不可能だ。


「ああ、無論ですが貴女方の考える魔力での身体強化による移動術とは次元が異なります。

 我々が息をするように行う身体の補助術を現代の者たちは身体強化と呼んでいるというのは主から聞いております。主が行っている身体操作とはその遥か先、一歩間違えば身体が崩壊しかねない所謂『奥義』と呼ばれる行為です。

 一から十まで説明する気はありませんので、かいつまんで説明をすると……主が行っているのは自身を加速させることで時の流れの操作に及んでいるという所でしょうか。

 全てを見通すギフトを得るか、我々のように身体操作を行えるようになることで彼らの決闘を十全に見ることができるでしょう。

 貴女方の中で、最も可能性があるとすれば……貴女が魔眼を支配できた時でしょうか」


 セレイネが言う身体操作というのが燈華たちの行う身体強化の魔術の先にあるという事は理解したが、アレクサンドラが魔眼を所持している事と最も可能性が高いというのはどういう事なのだろうか。


「その少女が魔眼を持っていることなど別段説明されなくとも分かることです。魔眼というのは神から贈られるギフトですから、私たちのように神と近かった者にとっては見分けるのは簡単なことです。

 そして、総じて魔眼を開眼させる者に共通するのは見る力に秀でた才能を持っていることが多く、知り得ている事例から統計的に考えるのであれば、そちらの方が貴女方の中で最初に見る領域へと到達するでしょう」


 セレイネはアレクサンドラを一瞥するとそれ以上何かを言うことなくアリーナへと視線を戻した。

 紡は必要な事は知れたと言わんばかりの様子で、燈華自身もこれ以上なにかを尋ねる程の下地がないことを自覚している。

 アリーナに視線を戻し、二人の決闘の行く末を見守る。


 アリーナには二人がぶつかり合う度に生じる火花と土煙。何ヶ所かで同時に火花が散っているようにも見えるけれど、きっと錯覚ではなく実際に火花が生じる程の衝突が起きている。

 時折見せる拮抗(きっこう)した状態、剣と鍵がぶつかり合っている時にだけ二人の姿を確認できる。獰猛な獣のような笑みを浮かべた想い人と、同じような表情を浮かべた一人の戦士の姿だ。

 想い人の意外過ぎる一面を見たが、その姿に忌避感を抱くことはなかった。

 ただ、その表情を独り占めにするレクスウェルに対してどうしようもない嫉妬心を抱いた。

 何故、あの場所に居るのは燈華ではないのか。何故、燈華は流哉と同じ土俵に立てないのか。何故、何故、何故と醜い嫉妬心が魂を焦がしていく。


 その醜い嫉妬心を打ち消すかのように流哉の言葉が響く。


「そろそろ決着を付けよう。

 オレの愛剣を今回抜くことはないが、特別に取って置きを、オレの魔法を見せてやる。

 手を抜くことはしないから……覚悟を決めろ」


 流哉は手に持つ武器を元の状態である白い鍵へ戻す。

 荒れ狂う嵐のような魔力が再び凪ぐ。再び起こる嵐の前触れかのように。


今回の話し、お楽しみいただけましたでしょうか。

流哉が使い捨てるかのように盾にした後に少しだけ使ってしまった『魔天の鍵』は『宝物庫への客人』の章、『大学からの帰り道でその拾』にて登場して以来です。

本来の使い方をこの主人公がする時に再び出す付けたんだなぁ

現在、過去に投稿した話しに小題を付けようかと検討をしています。

唐突にサブタイトルの所に小タイトルが付きましたら、付けたんだなぁ位に思って頂ければと思います。


お読み頂き、ありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」等、思って頂けましたら、ブクマ・評価頂けると大変励みになります。

評価は下の方にあります、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』へと押して頂ければできますので、どうぞよろしくお願い致します。

今後ともよろしくお願いします。

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