2.彼女との一日 4『その弐』 魔法使いの目に映る魔法連盟
流哉の視点となります。
楽しんで頂ければ幸です。
連盟の名称を魔法へと統一いたしました。
お読み頂いた皆様には疑問を抱かせてしまい、申し訳ありません。
引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。
まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。
2023/11/28
サブタイトルの表記を修正しました。
燈華に教える為とはいえ、魔法連盟のことを話すのはやはり気が進まない。
流哉自身は連盟に所属してはいるが、ソレは祖母を思ってのことだ。個人的な意思だけであれば既に見限って世間から離れたところで生活をしていただろう。
連盟に居て、面倒なことばかり押し付けられた事もあったし、血筋以外に取り柄のない貴族連中の嫌がらせを受けたこともあった。思い返せば居て良かったことよりも不利益の方が圧倒的に多い。
ただ、まだ居ても良いと思えるわずかな理由に数少ない友人たちの存在がある。
「リュウちゃん、質問があります」
燈華の言葉に思考を止める。
「なんだ?
連盟の説明なんて、まだメリットについて話したくらいだぞ」
「リュウちゃんや紡から見て、魔法連盟ってどう映っているの?
私は直接行ったことも見たこともないし、祖父母から聞いたこともないから、魔法使いの二人が連盟という場所をどう捉えているのかをそれぞれ聞いてみたい」
燈華の言葉に少し考え込む。
気に入らないことをそのまま話すことは簡単だが、連盟という場所がどう映っているのかと問われれば即答は難しい。
連盟において魔法使いという立場から話すのでもなく、神代流哉という個人がどう思うのかを話すのでもなく、魔法使い『神代流哉』は連盟という場所をその瞳にどう映しているのかを問われている。
「オレは……」
「私から話しを始めて良いかしら?」
考えがまとまらないままに話を始めようとするのを紡の言葉が制止する。彼女がどう考えての行動なのかは分からないが、その真意を確かめる時間と術はない。
話までの時間が出来たことを今は素直に喜ぶべきだろう。
「じゃあ、紡からお願いしてもいい?」
「ああ。紡、頼めるか?」
紡が話すことに決まるが、立ち上がるワケでもなく、ソファーに座ったままの姿勢は変えずにカップを傾けている。
「話してあげるのは構わないけど、私はこのまま話すから」
優雅にカップを傾け、茶菓子に手を伸ばしている。ぐうたらと揶揄することは出来るが、その様は紡に驚くほどに合っていた。
「他の魔法使いがどう思っているのかは分からないけれど、私は連盟という場所を悪く思っていないわ。
神秘の秘匿という点に関してだけは私としても賛同している。そうしなければ今の時代は維持するのも受け継いでいくのも難しいですもの。
多くの古書や魔導書を納めている図書館くらいしか私が気に入った場所は無かったけれど、非凡な魔術師達にとっては十分な場所だと断言してあげる。
私の魔法を試す場として丁度いいというのもあるのだけど、それ以上に私の魔法の性質的に合うというのが一番の理由ね。自身の才能を過大評価している魔術師なんていうのはね、私の魔法の実験材料に丁度いいのよ」
ダメ出しが並ぶのかと思っていたら想定よりも酷い言い様だ。要するに自分の魔法を試し打ちする的が沢山あって貴重な古書類を多く貯蔵している場所として評価しているに過ぎない。
ある程度は付き合いのある燈華たちですら絶句という様子だ。
流哉自身も血筋以外に取り柄のない連中や魔術師こそが至高だという主義者たちをボロクソに言うことはあるが、実験材料にしているとまでは言わない。
いや、言わないのではない。そう言うまでの興味や感情が流哉自身にはないのだ。
「じゃ、じゃあ……次はリュウちゃん、お願い」
もう何を言って良いのか分からないといった様子で助けを求めるように燈華が話しを振って来た。
一呼吸分の間をおいて、口を開く。
「そうだな……神秘を秘匿し後世へ繋げていくという思想はオレも支持している。魔法も含めてだが神秘というのは些細なことで失われてしまうし、連盟の設立に関わる事項を少しは知っているからな。
ただ、認めるのはその一点のみだ。今の連盟に神秘の継承者を自称する資格はない。
魔法という神秘は星から与えられる奇跡だ。人が生み出した魔術とはそもそも次元が違う。
魔術こそが至高だと、神秘の最奥だと宣言する連中に何の価値もない。血筋だけに縋りつき、研鑽を詰まず、搾取することを当然だと言う連中を擁護する組織など維持する必要性をオレは見出せない」
連盟設立時の理念だけは支持している。
そもそも立ち上げ人の一人が自身の師であるのだから否定することは出来ない。自身の神秘に関わる全ては師である祖母から授けられたものであり、彼女を否定することは流哉自身の全てを否定することに繋がってしまう。
魔法使いの立場だけから言えば、『格下が何をしようともどうでもいい』というのが本心だ。紡のように魔術師を実験材料としようが、己の魔法を試す場としての活用をしようが、流哉も他の魔法使い達と同様に自身の利益を阻害しないのであれば関わる気もない。
そして、流哉自身の気持ちを打ち明けるのであれば……分からないというのが率直なところだ。増えすぎた余分なモノを刈取りあるべき姿へ戻すべきと言うのだろうか、それとも連盟という場所を終わらせるという判断を下すのだろうか。
流哉自身の気持ちは自身の理解から、最も遠いところにある。
「二人の考えを聞かせてくれてありがとう。二人のように私も私だけの答えを見つけられるように頑張ってみるよ」
流哉自身の話しも、紡の話しも、燈華の為になったとは言えない。
少しだけ、連盟における魔法使いの話しを補足という形でして、さっさと次へ進めよう。
「オレや紡のような考えがどう燈華に影響を与えるのかは分からないが、自身の眼で見て、体験して、初めて分かることもある。
最後に、オレたち魔法使いが連盟でどんなことをしているかを話したら次に進むぞ」
燈華は再びメモをとる用意をし、紡は余計な事を言うなという視線で見つめてくる。
話すのは流哉自身とほんの僅かな周りの友人たちまでの範囲にしておこう。今日が終わった後で燈華から紡が深く追及をされたとしてもそれは保証しない。
「連盟にいる魔法使いの全てが何かをしている訳じゃないことを先に言っておく。
オレの話しになるが、連盟との間に複数の契約を結び、それに基づいて活動をしている。面倒なモノだと教師の真似事をして魔術師達に魔道の理論を教えていたこともあった。
他にも個人的な契約を結んだ錬金術師達や魔術師達から指名依頼を受けることもあれば、連盟の代表たちからの依頼を引き受けるってこともあった。
まぁ、オレの友人たちから聞いた限りの話しになるが、魔法使いは指名依頼を受けるってことが連盟で行う主なことだ」
いちいち矢面に立たされるより、たまに依頼を引き受けることで過干渉を避けることがもっとも賢い連盟での渡り方だ。
「指名依頼と言っても、引き受けるかどうかは指名された側が選べるし、提示された対価が不足していると感じるなら引き受ける必要は無い。
連盟の代表達からの指名依頼以外は強制力がないから、ホドホドな距離での付き合いにしておけばオレのように面倒事を抱え込むってことは無いだろう」
自虐を込めて言った皮肉だが、伝わったのは紡にだけだろう。
カップを傾けて余裕そうに浮かべる笑みが実に腹立たしい。
「貴方ほど目立てば余計なしがらみも抱えるのは納得ね」
「目立っていたということだけを言えば紡もさほど変わらないだろう」
余計な事を言うなという視線で睨まれたが、余裕を浮かべた笑みを消した。
互いに余計な事を言わないようにという釘はさせただろうが、報復をされない内に話しを終えよう。
「魔法使いを目指すと言った以上は指名依頼という面倒を避けられないが、常に厳しい姿勢を見せていれば質の低い依頼は来なくなる。自分自身の為にも甘い考えや甘い姿勢は捨て、隙を見せないようにすることは最低限必要だ。
オレの場合は祖母からの繋がりで断てない縁だったが、連盟の代表連中とは極力関りを持たないことだ……燈華の場合はオレと同じ道を辿りそうだな」
燈華の祖父母は既に連盟の代表の内数名と付き合いがある。流哉と同じく既に縁が結ばれてしまっているという状況だ。
憐れみを込めた視線で燈華を見つめる。
「その時はリュウちゃんに助けてもらうね」
巻き込まないで欲しい。ただ、その一言を言うことは出来ない。
燈華の面倒を見ると他ならぬ流哉自身が言ったことだ。自身の言ったことを早々翻すことは出来ない。
「……そうならないことを願っている」
教え子を無理やり抱えさせられたことはあったが、弟子を持つのは燈華が初めてだ。
師とは教え導くのと同時に壁であり、雛鳥が巣立つまでは守らなくてはならない。
祖母が感じた苦労の一端を感じつつ、ホワイトボードに次に話すべきことを書き込んでいく。
今回の話し、お楽しみいただけましたでしょうか。
流哉と紡が魔法連盟についてどう考えているかの話しでした。
今回の話しと関係のある話として、神代月夜の話しが
・帰国する魔法使い『それぞれの思惑その壱』
・彼女との一日 1『EXEP 奇跡の対価は』
に少しですが書いてあります。
興味がありましたら是非読み返して頂けますと幸いです。
次回は魔法連盟が魔法の名前を持つ理由に関して触れる予定です。
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