2.彼女との一日 3『その弐』 魔導器って何?
流哉の視点となります。
楽しんで頂ければ幸です。
・流哉⇒世界に残された数少ない魔法使い、魔導器の知識はシュニッツァーからの受け売り
・燈華⇒魔法へ至る為の修行中の身、魔導器は詳しく知らない
・秋姫⇒共同生活をしている唯一の錬金術師、流哉の魔導器を観察中
引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。
まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へ気軽にお知らせください。
シェニッツァーの表記が間違っていましたので訂正いたしました(22/9/7)
それた話しを戻すには十分な間が出来た。
魔導器の話しへしっかりと路線を戻そう。
「さて、大きく分ければという話しの続きだ。
燈華、魔導器にはどんなものがあるのか、分かる限りで良いから説明してみろ」
全てを知っているのであればこれ以上教えることは無いが、大抵の魔術師は自身で使う物くらいしか把握していないなんてことは珍しくない。
燈華が好んで使っているモノが分かればそのまま彼女の戦闘スタイルの把握に繋がる。
「私が知っているモノか……あまり知らなくても怒らないでね?
一つは使用者の目的に応じて探知するモノ。羅針盤とかがその代表だと思う。
次にリュウちゃんが見せてくれた剣とかが代表の兵器としての役割を果たすモノ。コレに関してはリュウちゃんの剣くらいしか私は見たことが無いからソレを代表にしておくね。
それから自身の身を護る為のモノ。護符とかアクセサリーの形をしている事が多いよね。
後は……どう分類されるのかは分からないけれど、紡が持っている本や、リュウちゃんの持っている『時の旅人』やアラクネが織ったという布とかが私が知っている限りの魔導器だよ」
知らないなりにしっかりと把握している所はしているらしい。
正直、専門的に扱う予定が無いのなら、探知系と防御系、攻撃に利用できるものだけ押さえておけば問題ない。
中途半端な知識なら修正すればいいだけと思っていたが、その必要もなさそうで拍子抜けしそうだ。
それだけ、丁寧に教えられたということの証明に他ならないのだが、ならば何も教えなくて良いという訳ではない。
「それだけ知っていれば問題はないな。オレが変に教えるよりも今まで通りの勉強の方法で良い。
そうなると……オレは、どうするか」
悩むそぶりをしながら燈華たちの反応を窺う。
燈華は変わらず信頼しきっている視線を向けていて、紡は企みに気付いたと言いたげな表情、アレクサンドラとクリスティアナの両名は成り行きを静観することにしたようだ。
唯一、秋姫が向けて来る『そんな程度じゃないですよね』という圧力だけが流哉の口を重くする。
下手なことを言えないが、流哉に専門家のような知識はない。
「連盟で学んだことはどうかしら?」
「そうだな……連盟でオレが学んだことを教えるとしよう」
紡の助け舟に乗る形で内容を決めた。
少なくとも、連盟で学ぶ知識に関しては秋姫が知り得る事ではないし、燈華の勉強としても丁度いい。
「連盟で魔導器の事を教わる機会はそう多くない。
そもそも教わろうという者が少ない上、錬金術師たちへ教えるとなれば、教壇に立つのは連盟の重鎮の一人である『シェニッツァー・バームロイム卿』以外にありえない。
要するに、講義として開かれることが多くないということだ」
錬金術師たちは講義の無い日は工房にて自己の腕を磨くべく研鑽の日々を送る。魔術師はそんな不定期なモノにそもそも参加しないという方が大多数だ。
シェニッツァー本人が忙しいということもあるが、それゆえに魔導器の講義は軽く見られがちだ。
「オレがシェニッツァーから教わったことをそのまま伝えるとしよう」
こう言った時にもっとも期待に満ちた視線を向けて来たのは秋姫だった。
「魔導器の歴史とは、すなわち錬金術の歴史である。
神々の影響力が薄れ、人の時代が始まった頃に生まれた技術で、黄金を生み出す技法や多くの薬学の走りにもなった。
科学の時代となった現代では科学の基礎になったと言われているが、我々裏の住人にとっては太古の歴史でも記録でもなく、今現在ですら進行している学問である」
シェニッツァーの口調を真似て、教室で聞いたことをそのまま伝える。
「錬金術とは科学と魔導の狭間をゆく芸術である。
魔術のみが奇跡であると盲目に信じている連中が理解できるなどと期待はしていないが、魔導器は魔導の神髄に通じているのだ。
魔導器を正しく理解し従えることは魔導の神髄を覗き見ることに等しい」
この部分を聞き、錬金術師たちが盛り上がっていたことを今でも思い出せる。
神秘を扱うモノ、奇跡の執行人、魔導の神髄を極めたモノなどと呼ばれる魔法使いが居る中でここまで強烈な言葉を使っている事に驚いたからだ。
流哉自身が静観することで魔法使いには静観するということを強いた。
もっとも、最新の同胞の魔法が魔導器によるものであることを認識しているからこそ、流哉は静観することを決めたのだ。
話しの内容自体も魔術至上主義者たちへの皮肉が主であったと言うことも理由としては大きい。
「シェニッツァーの言うことには特に反論はない。最新の魔法は魔導器に由来するモノだったし、オレ自身も魔導器をよく使うから理解しているつもりだ。
魔導器とどう付き合っていくのかは、魔導の神髄を極めるにあたって十分なヒントを与えてくれるはずだ」
魔術師として大成するにも魔法使いを目指すにも、魔導器という神秘を避けては通れない。そして、錬金術師は大きく関わってしまうということを秋姫には教えなければならない。
「そして、シェニッツァーから錬金術師を志すモノへの言葉を、秋姫には伝えなければならない。
教室で『己の作品が、今後関わる全てに影響を与えると心に刻み込め』と言っていた。この言葉を今、若き錬金術師へ贈らせてもらう。
秋姫もシェニッツァーから直接言われた方が嬉しいだろうけど」
錬金術師たちにとってシェニッツァーは生ける伝説だ。遺跡からの出土品である『神代の幻想』を初めて修復に成功した人物にして、現在修復を行える唯一の人である。
錬金術師が生み出すもので最高位の『最も神秘に近い幻想』の作り手にして、連盟のみならず協会からも製作依頼をされる『至高の模造品』を安定して創り出す人で、流哉が尊敬と敬意を抱く数少ない人である。
「シェニッツァーの言葉をしっかりと理解できるのは秋姫だけだろうし、言葉だけで燈華たちはつまらないだろう。
もう少し話しをした後で、実物を見ながら解説に変えるから、しばらく付き合うように」
特定の一人、燈華の方を見ながら机の上の資料をめくる。
既に燈華の興味は魔導器そのものに移ってしまっているし、実物を見ながら話した方が理解しやすいということに関してだけは流哉も同意している。
「言葉を尽くして、飾り立てればいくらでも別の物として認識できるが、オレはハッキリと言い切る。
魔導器はドコまで行っても道具でしかない。
どのような奇跡を内包していても、結局は使い手次第でしかない。道具の方が使い手を選ぶなんてこともあるが、ソレはレアケースと言っていい。
自身の力で従わせ、使いこなしてスタートライン。使いこなせないような三流以下は相手にする価値すらない。
オレを含めて魔法使いは自分の時間を無駄にされることを良しとしない。
燈華、こうして教えているのも価値があると認めているからだ。その価値が無いと判断したらこの勉強も終わりにする。
見限られたくなかったら……しっかりついて来い」
燈華には期待をしている。だからこそ、厳しいことも言う。
それはこの場にいる紡以外には共通して言えることだ。
魔法使いである流哉と紡、既に完成しているものに成長はない。
「まぁ、魔導器そのものに関しては実物を見ながら教える。
今、覚えておくべきことは二つ。魔導器は道具であるということ、どれだけ優れた道具であっても使い手次第であるということだ」
律義にメモを取っているが、コレはメモを取る以前の……いわば心構えの問題だ。
強力な魔導器は扱いが難しく、それ故に十全に扱うことが出来れば破格の性能を誇る。だからこそ行使する前に心構えをしっかりしていなければならない。
特に、遺跡からのみ出土する『神代の幻想』と現在は最高匠であるシェニッツァーのみが作り出す『最も神秘に近い幻想』のランクに位置付けられた魔導器を偶然でも起動させてしまうとそこから調子に乗って半端者に堕落するなんてことも珍しくない。
強力な力と言うのは、ソレを扱うための資格がいると流哉は考えている。
心が弱いものが使えば、多かれ少なかれ周りに被害をもたらす。その尻拭いをするのは魔法使い達を代表とする強者たちで、流哉自身も遺跡内で起こった事件や魔導器の暴走事件などと挙げればきりが無いほどに手を貸して来た。
もし、燈華たちが魔導器を暴走させたとあれば、その始末は師である流哉がしなければならない。そんな面倒事は抱えたくないのだ。先に手間であってもしっかりと基礎から教えておくことが後々の面倒事を減らすということを知っているからなおさらだ。
「さて、ただ話すだけはここまでにして、ココからは実物を見て、説明していくとしよう」
自身の机の上に用意しておいた魔導器を指さし、視線を誘導する。
宝物庫の中から持ち出してきた自前の魔導器で、ドワーフの連中は見向きもしないものだが……『至高の模造品』も混ざっている。
初見で秋姫以外が見抜けるかは疑問だが、実物を交えて教えた方が理解しやすいのは間違いない。
今回の話し、お楽しみいただけましたでしょうか。
流哉は秋姫の眼力に負けたので連盟での思い出話で逃げの一手です。
流哉にとってシュニッツァーは連盟内において数少ない尊敬に値する人です。
流哉が所有する貴重な魔導器の整備等は外ではシュニッツァーにしか頼みません。
次回は引き続き魔導器に関してを予定しております。
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