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1.彼女との一日 1 『その壱』 ようこそ、魔術の世界へ

流哉の視点となります。

楽しんで頂ければ幸です。


今回より、クリスの表記が『クリスティアナ』へ変更しています。

理由はいつも通り作者のお知らせページにて。

今まで投稿してきた話しに関しましても、表記を直してまいりますので、少々お待ちください。

 時刻は九時を少し過ぎた頃。部屋の外に大勢の気配を感じた。

 部屋の外で留まっているようで、誰もドアを叩く気配はない。

 何故だろうと思案する。

 一つは燈華(とうか)がこの前のことを思い出してテンパっていること。上半身の裸を見て顔を真っ赤にしていたのは記憶に新しい。

 もう一つは気配を察知して開けてくれるのを待っている。コレだとしたら、流哉が開けてくれるのを待つのが間違いだと気づくまでそのままだ。

 考えたくはないが、強制的に突破しようとしているか。その場合はこの扉が開くことは二度となくなるだけ。

 ノックの音が聞こえないという可能性は、流哉が音楽を爆音で書けていない限り有り得ない。扉を開通させていないと声や音も聞こえないと勘違いをしている奴もいるが、ノック音や話し声は普通に聞こえる。

 無論、呪言や音に魔力を乗せて届けるといった類のものは、扉を越えて侵入を果すことはない。


「何してるんだ?」


 気にはなるが準備をしている身としては助かっている。

 教材とかお茶を淹れる為のお湯等は準備できているが、途中まで手を付けていた書類仕事が終わっていない。

 幸いなことにあと少しというところまでは来ている。このまま一気に終わらせてしまいたい。


“コンコンコン”


 そう思っていたところにノック音。

 想定していた通りに上手く行くとは思っていなかったさ。

 羽ペンを所定の位置に戻し、鏡の前で身だしなみを整える。


 まぁ、大きな問題はないだろう。


 良くも悪くも無難な姿だと思う。

 扉のダイヤルを開通に合わせて、扉を開くと―――


「今日はお世話になります」


 燈華が代表して声をかけて来る。

 めかしこむという程ではないが、部屋着というにはいささか気合いが入っているというか。

 勉強をするだけだというのに、女の子は大変だと感心する。


「まぁ、入れよ」


 燈華達を招き入れる。

 扉を開通し、繋げたとしても、許可なく他者が部屋に入ることは出来ない。

 流哉の招き入れる一言があってようやく入室許可となる。

 燈華を先頭に、五人全員が流哉の部屋に入り、最後に居た(つむぎ)が扉を閉める。どうやら今日はいつものお付きはいないようだ。

 カップもティーポットもないが、茶葉だけは用意して来たらしい。


「リュウちゃんの部屋って何度見ても不思議だね」

「部屋の大きさが元の部屋よりも大きいですよね」

「魔法使いの部屋という感じは確かにします」

「マリアの部屋より広いヨ」


 紡以外は流哉の部屋の広さに感心しているが、どれだけ褒められてもこの部屋のことを詳しく説明してやる気はない。

 そもそも教えを求められても詳しく答えられるはずがない。自身で創り出したモノではなく、譲り受けたモノをアレコレと自分の手柄の如く説明するほど落ちぶれちゃいない。


「異次元にこの部屋という概念を場所として安定させている。

 流石ね、ただの魔術が大魔術すら越えて、既に魔法という域。コレは私もマネできないような芸術品ね」


 この場所の真価を見抜くのは紡だけ。

 祖母が創り出し、新たな魔法にすら数えられる名誉を放棄してまで秘匿した大魔術。

 流哉は祖母への敬意を込めて、『部屋を生み出した魔法』と呼んでいる。


「祖母から受け継いだ遺産の一つだ。

 オレの部屋を鑑賞するのは良いけれど、さっさと始めないと時間が無くなるぞ」


 紡以外は慌ててソファーのもとへ行き、紡は流哉の本棚を物色している。

 そこまで面白い本なんてないだろうに、興味が尽きれば勝手に合流するだろうし、放っておいて良さそうだ。


「さてと、始めるか」


 大学で教壇に立つようにホワイトボードの前に陣取る。

 必要があれば板書し、解説を求められれば補足していく。その程度にしか使わないが、その度に移動するのは面倒だからホワイトボードの近くに立つ。


「連盟で使っていた時のテキストを用意したから、コレを見ながら進めて行く。

 分からないことがあれば、その都度聞いてくれ」


 紡以外の全員に用意した連盟が発行している魔術の手引書。

 初歩も初歩のことが書いてあり、少しでも魔術を齧ったことがある連中からすれば幼児向けの絵本と同様の扱いをされるモノだが、中身の出来は非常に良く出来ている。

 魔法使いにとっても、基礎を積まずに突如魔法に至る突然変異みたいな連中には、『つべこべ言わずに頭に叩き込んどけ』と押し付けている。


「コレって……連盟の学校で買わされる入門書だよね、アレックス」

「ええ、私も持っています」


 アレクサンドラは自前の本を取りだして見せて来る。しっかりと使い込んでいて、見た限りで言えば正しい研鑽(けんさん)の積み方を通って来たと確認できる。

 これだけ夢を見続けて、師と仰いだ相手がド三流と来れば、流哉でも哀れだと感じる。この使い込まれた魔術教本は、『アレクサンドラ・コメスター』という少女の夢の名残だ。


「随分と……熱心に使い込んだんだな」

「ボロイって自覚していますので、気を使わないでください」


 ボロボロになるまで使い込んだものだと言いたかっただけだが、わざわざ否定して言い直すまでの事じゃない。

 時間は有限だ。


燈華(とうか)秋姫(あき)にはテキストをやる。

 アレックスとクリスも欲しければ持って行け」


 燈華(とうか)秋姫(あき)には一冊ずつ手渡し、残り二冊をアレクサンドラとクリスティアナに差し出す。二人は何も言わずに受け取ったが、同じものを二冊も持つことになるが本人たちが良いというのなら流哉が気にする事じゃない。


「マナの濃度が高いと思えば、珍しく指輪もピアスもしていないのね」


 (つむぎ)が合流し、ソファーへ優雅に座る。その動作の一つ一つが、気品や冒しようのない美を感じさせ、男という異性を惹きつける古い術式。

 そこら辺の有象無象や魔術への抵抗力が低いモノならかかっていただろうが、生憎な事に流哉はそのような事に飢えてはいない。


「講義の一環だよ。

 さて、燈華。オレから感じる今の魔力をしっかり記憶しておけよ」


 燈華がしっかりと感じ取れるように近くでしっかりと見つめながら言う。

 若干ではあるが頬に赤みが差している。一種の暗示をかける為に見つめはしたが、失敗だったかもしれない。

 燈華じゃなくても紡以外が気付けば意味のあることになる。


「しっかりと見て、感じろ」


 右手の人差し指と中指、小指。左手の人差し指と薬指、小指。

 合計で六つの指輪をはめる。

 一つはめるごとに流哉から溢れ出る魔力の量が減っているのを感じ取れているだろうか。

 反応が芳しくないので、いつもは着けないピアスまで付けて、ようやく燈華の顔に変化が現れる。


「感じ取れたか? コレが魔力感知の初歩中の初歩だ」


 燈華の頭を二回ほどポンポンと手を置く。

 少し不満そうにしているが、半人前にしても勘付くのが遅い。


「指輪一つで普通の魔術師一人分以上の魔力を抑え込む。

 指輪を六個付け、自身に多重に封印の術式をかけてようやく一般的な魔術師程度の魔力に抑えられる。それくらいしなければ、オレから溢れ出る魔力に誰もが怯えてしまう。

 ピアスまで付ければそこら辺の一般人とほとんど変わらない程度まで抑えられる」


 嘘は言っていないが、真実を全て言ったわけでは無い。

 放っておいても直ぐに紡が口を挟むと思うが、面倒なことを吹聴する前に自ら説明するのが安全に済ます方法だろう。


「魔力の封印処理をする為だけの魔導器ではなく、この指輪も、ピアスも、全て何かしらの強力な能力を秘めている。

 強力な能力故に魔力を吸い取っているが、副次的に封印の効果をもたらしているだけに過ぎない」


 指輪やピアスの能力を全て丁寧に説明してやる気も、手に取らせて確認させる気もない。

 己の知見を深めて看破(かんぱ)するだけの眼を養うのも大切な事だと今から覚えさせていく。

 自らの口で語るよりも、紡が話し、ソレを聞いて覚えていくだろうというのも織り込んで。


「強力なんて一言で言い切るのは無理があるわね。

 指輪の一つをとっても、おそらく普通の魔術師は発動に足るだけの魔力を供給できずに昏倒するのが落ちってくらいの希少な魔導器よ。

 私でも分かるのが一つだけ、残りの五つも全部古代遺跡とかの出土品か発掘品だったはず」

「そんなに希少なモノなの?」


 紡は流哉の左手の薬指にはめてある指輪を指して口を開く。


「左手の薬指にある古めかしいけど見る人が見ればすぐに分かるアレ。

 古代の遺跡、それも未発見の遺跡から流哉さんともう一人の魔法使いが発見した召喚系統において最強の魔導器。

 神に等しい存在との契約を行うための鍵、『異世界門の鍵(ゲート・キー)』と呼ばれる規格外の魔導器、もはや神器と呼称しても大げさではない代物よ」


 何もない日で、部屋から出ない日は身に付けている事を妖精女王から命じられている契約の鍵。見せびらかす為だけに取りだすことは決してない大切なモノの一つ。


「外に出るときはこの指輪はしていない。余程の時だけか、今日みたいに外出しない時だけ身に付けているのが、『異世界門の鍵』と呼ばれるこの指輪だ。

 滅多に見ることが出来ないという点では非常に珍しいモノともいえる」


 まだまだ紡は話したそうにしていたが、今は燈華に教えていくための時間。

 後で詳しく聞かせろとせがまれるのは覚悟の上だ。


 流哉は入門用の魔術書を手に取って開く。

 燈華は既に切り替えたのか聞く姿勢で、紡も『仕方ないわね』と言いたげな様子で顔をコチラに向けている。

 さあ、授業を始めよう。だけど、その前に―――


「燈華。ようこそ、神秘の世界へ」


 流哉は新しい同胞となる冬城燈華を心から歓迎する。

 紡や秋姫、アレクサンドラやクリスティアナも燈華が本当の意味で魔術師として出発することを歓迎している様子。

 魔法使いへと至るかは分からないが、明るい人生を棒に振ってまでコチラの世界へと足を踏み入れた。

 さて、勉強の時間の始まりだ。


今回の話し、どうでしたか。


本格的に燈華への勉強が始まります。

少しずつでも燈華が成長していく様子を見守って頂ければ幸です。

また、クリスの表記が変更になり、ご迷惑をおかけします。

直していきますが、直しそびれてしまうこともあるかもしれません。

その時は指摘いただければ助かります。


お読み頂き、ありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」等、思って頂けましたら、ブクマ・評価頂けると大変励みになります。

評価は下の方にあります、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』へと押して頂ければできますので、どうぞよろしくお願い致します。

今後ともよろしくお願いします。

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