26.大学からの帰り道で 『その弐拾陸』 魔眼質疑 Ⅱ
流哉の視点となります。
楽しんで頂ければ幸です。
魔眼の話しの続きです。
更新、お待たせしました。
空になったカップにレルが新しいハーブティーを注ぐ。
注がれるのは由紀子に提供していたモノと同じ普通のハーブティー。
いつものようにコーヒーを出してくれと言えば、レルは迷わずにコーヒーを提供してくれる。
わざわざコーヒーが欲しいと頼むほど飲みたい訳でもないが、これ以上ハーブティーはいらない。
そろそろおかわりはいらないと言うべきだろう。
注がれたハーブティーを一口飲み、魔眼に通わせている魔力を切る。
「瞳の色が変わっていくわ」
「ああ、魔眼へ流していた魔力を切ったからね。
瞳の色に違和感を持たれないように変えている」
本来、魔眼というモノは本人の意思と関係なく発動し続けるモノ。
制御する方法を身に付けなければ、常に瞳を物理的に隠してようやくまともな生活が出来るような代物も存在する。
魔眼を物理的に塞ぐ為の封印布を用いる以外の方法が無かった頃からすれば、自身の魔力で制御する術を生み出した数世代前の先人には感謝の念が絶えない。
ソレが先祖の血筋でなければ素直に感謝出来るのだが……
「そんなことが出来るのね」
「まあ、魔眼を持って生まれてしまった連中は真っ先に覚える。
オレも幼少期に祖母から教わった。
当初は“おまじない”って言われたが、上手く騙されていたって事かな」
「流哉くんは幼い頃は素直だったのね」
「オレが生まれてから最も一緒にいたのは祖母だ。
あらゆることを教え導いてくれたのは祖母だったし、亡くなるまでの間じゃ父や母よりも同じ時間を過ごした相手になる。
最も懐いていた相手の言う事は無条件に信じるよ」
「月夜様はいつも流哉くんと一緒だったわね」
魔法を受け継ぐと決めるよりも前から、祖母は流哉の事を気にかけてくれていた。
魔法を受け継ぐ素質があると考えていたのか、魔眼を受け継いでしまったが故に気にかけてくれたのか。
真相を確かめる術は、もうない。
時間旅行をしようにも、ほぼ昔の流哉が近くにいる為に出来ない。
同じ時間、同じ場所に、同じ人間が存在することは出来ない。
魔法使いであっても覆すことが出来ない世界の理に阻まれている。
「メンテナンスをしていたと聞いたけど、魔眼を持って生まれた人はみんなすることなの?」
あまり答えたくない質問が来た。
詳しく語ると長いし、何とか誤魔化してしまうか、そもそも答えないか。
どちらにせよ面倒な質問だ。
詳しく話す事は論外。質問をしないことを条件にして話すにしても、話しの内容的に記憶を封印しても危険が残る。
由紀子は誤魔化しが効くような性格じゃない。答えなかったとして、知的好奇心で踏み込んでくることは間違いないだろう。
どう選択しても、詰みの未来が見えている。
「答えられませんか?」
先手を打たれてしまった。
答えないという選択をすれば、由紀子が自力で調べるか、立花から聞き出すのかは分からないが、連盟の人間に捕獲されるか、流哉に恨みを持っている連中の実験材料になる未来を幻視する。
本当に『宝物庫』へ連れて来るべきではなかったと後悔しても既に遅い。
「いや、魔眼のメンテナンスなんてするのはオレくらいかな。
生まれ持ったモノを調整する必要は無い。
オレの場合は……魔眼が変異しているから、レルに言われて定期的にメンテナンスをしている。
わざわざメンテナンスをしなくても問題はないけれど、心配してくれるのを無碍にするのも悪いからね」
左眼の魔眼は変異したものだと同業にはバレバレの嘘をつくが、由紀子がその事実を知るわけがない。
バレなければ嘘ではないと言うが、確実に騙し切るという自信がある。
記憶は確実に封じるし、流哉の左側の魔眼が数少ない天然モノでないことを、同業の連中は知っていて黙っている。
知られたところで流哉にとっては痛くも痒くもない。
ただ、痛くもない腹を探られるのは不愉快だ。
仮に由紀子の記憶を覗けたとしても、まったくの無駄に終わる罠を仕掛けるとしよう。
覗くことに成功したとして、それを流哉が捉えるように反撃の術式を仕掛ける。術式には覗いた者を見つける術式と死なない程度の傷を負わせるモノを採用しよう。
覗いた瞬間に発動する罠をしかけ、それを流哉はゆっくり捉えるだけ。
由紀子は高いリスクを支払い、ただ罠にかかるだけという結果をもたらす。彼女を守ることができ、流哉は待っているだけで獲物が勝手に舞い込んでくるトラップの出来上がりだ。
蛇足だが、左眼の魔眼、『煉獄の業火』は誰でも入手することが出来る。
概念世界と呼ばれる場所へ赴き、課せられる試練を突破するだけでいい。
生まれ持ってなければならないという絶対の条件を無視する。
それが可能であるならば、生死を問わない程度など簡単な条件だろう。
「そういうことですか。変異したと言いましたが、メンテナンスをサボったりすると大変だったりするんですか?
頻度も多かったりするのでしょうか」
何が気になるのか分からないが、答えないという選択をすれば先ほどのように『答えられないのか』と聞かれるのが落ちだ。
分かり切っている未来が確定している以上、選択肢は決まっている。
「そこまで大袈裟n……」
「メンテナンスはしっかりと受けて頂かないと困ります。
頻度は主様……次第ですが」
流哉の答えを遮り、由紀子の疑問に答えたのはレルだった。
主の言葉を遮るのはどうかと思うが、レルが答える事で真実味が増す。
メンテナンスは思い出した時で良いと思っているし、頻度なんてそれこそ思いついた時としか言いようがない。
レルは勘付いているのか、冷ややかな目で流哉を見つめている。
ああ、コレはこの後に小言を貰うことになるのだろう。
今回の話し、どうでしたか。
流哉は紅茶党であり、珈琲党です。
魔眼は常時発動し続ける神秘であり、魔眼持ちは魔力のコントロールを磨いて魔眼を疑似封印するか、眼帯等で物理的に封印するかの二択です。
魔眼のコントロールを編み出したのは、月夜の祖母、流哉からすると祖母の祖母です。
流哉は新山由紀子をトラップに用いることを決めました。
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