25.大学からの帰り道で 『その弐拾伍』 魔眼質疑
流哉の視点となります。
楽しんで頂ければ幸です。
魔眼の話しの続きです。
レル=リューウェンの魔眼整備に関する腕は、宝物庫内において他の追随を許さない程に優秀である。
そんなレルの腕を疑っている訳では無いが、流哉は点眼薬をレルから受け取り、調整が済んだ魔眼が宿る左目に点す。
コレは一連の儀式のようなモノだ。
左目に宿る魔眼、『煉獄の業火』を制御する為に生み出した点眼薬、月光草をふんだんに使って抽出したエキスを元に、神話にも登場するような貴重な素材を合わせた薬液。
この薬液の存在は秘匿されている。
存在が知られれば、薬液の一滴に全財産を投げうってでも手に入れようとする魔術師は星の数ほどいるだろう。
そもそも、魔術師が星の数ほど存在しない。
コレは言葉の綾というやつだ。
要するに、それだけ欲する人が居るというだけの話しだ。
不死の霊薬など、人が手にするには過ぎた代物だ。
点眼薬を点している時、何をしていたのかを訊ねてきた由紀子に説明をした。
点眼薬の方に興味を持って居そうなので、人が手に居するには早すぎるモノだと説明した。
「そのような物まで生み出してしまうんですね」
「魔法使い、だからな」
もう一度、点眼薬を点す。
儀式のようなモノでも、流哉にとっては十分な意味がある。
他者に接続を許すという行為そのものが本来であればとてつもない危険行為だ。
魔眼と流哉を結んでいる道へ繋がる許可を出し、そこへ接続を許すという行為は、一歩間違えれば流哉の魔力が流れる回路を再起不能にし、接続をしたレルの魔力にすら浸食して喰い荒らす。
他者の魔力の流れに干渉するというのは、本来であれば対象を抹殺する為の手段だ。
強引に開錠した道を再び閉ざす為に、点眼薬を用いて外部から魔力を直接魔眼に流し込む。
また、点眼薬には見えない傷や、他者の侵入を受けたという概念の傷を癒す効果もある。
制御が上手くできなかった昔からの癖で点している儀式のようなモノだが、しっかりと点眼薬を点すとレルからお小言を貰わないという副次的な効果が流哉にとっての最たる理由だろう。
「それで、何か聞きたいことがあるんだろう?
今の内に答えられるモノなら答えよう。
ただし、由紀子さんには幾つかの魔術をかけて記憶の封印はさせてもらうよ。
神秘を守るモノとして、コレは決定事項だ」
由紀子は記憶を封印するという部分に少し顔色を変えていた。
消してしまった方が早いし楽なのは確かだが、ある程度は彼女の意思を尊重しようと思う。
まあ、記憶を封印するのも消してしまうのも、広義的な意味では変わらない。
この事実は由紀子本人には伝えない。
「封印するというのは私が思い出すことも出来ないという事ですか?」
「まあ、そう言うことになるかな。
由紀子さんの安全の為にも、オレが手を汚さない為にも必要な事だと受け入れて欲しい」
卑怯な言い方だと自負している。
自身の安全の為という大義名分と、知り合いに殺されるかも知れないという恐怖を同時に植え付ける。
本来であれば知らなくて良いことを知ってしまうという事は、こういう未来が待っているという事実があること、同じ機会に遭遇した時に正しい選択を出来るよう可能な限り脅しておく。
記憶を封印したとしても、経験として由紀子の中に蓄積される。
願わくは、二度と彼女が流哉達のような人外に関わらないで過ごして欲しい。
「せっかくの機会ですし、魔眼というモノに関して聞きたいです」
「魔眼に関して……か」
まずは教えても大丈夫な事かどうかを思案する。
魔眼という神秘そのものは魔法使いの中では割と知られているモノだ。
所有者は珍しいが、存在するという事実は神秘に関わるモノの中で知らないモノはいない。
それ故に判断が難しい。
流哉の常識で判断してしまえば、隠すまでもないこと。
だが、世間一般からすると非常識だ。
まぁ、記憶は封印することは決定事項で、知られても特別問題はない。
知られて困ることは教えなければ良いだけのこと。
「魔眼、魔の瞳と書いて魔眼。
自身の瞳そのものに神秘を宿したモノを示す。
また、瞳のみで神秘を行使する力を持っている事を意味する」
流哉は自分の左目を指さす。
由紀子がマジマジと流哉の瞳を覗き込んでくる。
「普段は気づかなかったけど、流哉くんの眼の色は左右で違うんですね」
「魔力で眼の色を変えているからな、違和感を持たれないようにしている。
ソレにオレの右目も魔眼でね、御覧のとおりさ」
右眼にかけてある魔眼封じの魔術を解き、右の魔眼も披露する。
金色に輝く右の魔眼。
蒼色に煌めく左の魔眼。
左右の瞳に異なる神秘を宿す、二つの魔眼をたった一人で所有する。
我ながら、稀代の化物だと思う。
「流哉くんの右眼の色って」
「そう、この瞳の色は祖母と同じ。
祖母と同じ魔眼をオレは受け継いでいる」
右の魔眼は祖母との確かな繋がり。
本来は左右で同じモノを持っていた。
ソレが今は片方が異なっている。
大切な祖母との繋がりを犠牲にしたことまで由紀子に話す気はない。
何かを聞かれてもどうとでも誤魔化せる。
「魔眼というのは珍しいモノなの?」
「魔眼は生まれもっての異能で、瞳ごとに異なる神秘を保有する。
ごく僅かだが天然の魔眼以外もある……が、ソレは天然のモノよりも珍しい。
天然モノも早々お目にかかれる代物じゃない位には珍しい」
「そうなの」
「まぁ、オレ達からすればそれほど珍しいモノじゃないけど、由紀子さん達からすれば生涯関わる事はない位に珍しいモノかな」
深く聞かれることも無かったから、あえて詳しく話す事はしない。
由紀子のような普通に生きる人は生涯関わる事の無いモノ。
故に珍しいという表現をする。
魔眼も幾つかの種類が存在し、その中でも秘めている神秘の濃度が違う。
故に、神秘の濃さに応じて格付けをしている。
流哉達の中でも高位に位置づけされる魔眼は珍しいと評価する。
無論、目撃例は非常に少なく、その中には昔話のような文献にしか存在を確認できないモノもあるが……興味を持たれても困るから何も言わない。
「聞きたいことはもう無いか」
流哉は空になったカップを見ながら問いかける。
おそらく、由紀子からの質問はまだ終わらないだろう。
コレで終わってくれれば良いが、そう上手くコトが進むわけがないことを流哉自身が一番知っている。
流哉の悪い予感は必ず当たる。
今まで外したことのない勘を、流哉は何よりも信頼している。
外れてくれた方が嬉しいのだが……
今回の話し、どうでしたか。
点眼薬の中身は霊薬と呼ばれています。
流哉自身の場合、点眼薬を点さずとも魔力を流して同調させれば問題はありません。
あくまでもレルに小言を言われないようにする為の行為です。
流哉が魔眼を珍しくないと言い切るのは、自身の周りに所有者が多いから。
連盟の中でも所有者は希少です。
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