14.大学からの帰り道で 「その拾肆」
流哉の視点となります。
楽しんで頂ければ幸いです。
更新、遅くなり申し訳ありません。
球体が光りながら展開していく。
幾つもの円環を形成し、階層を成形していく。
種が大樹へ成長していくような形で展開を終える。
流哉以外の誰も干渉することは出来ず、触れることもできない。
神代流哉という魔法使いの為だけに存在する魔導書。
「告げる真実は、金属彫金の章。
汝の罪、汝の魂を持ってその支払いとする。
死という解放は生ぬるい。
汝の魂を封緘する」
反乱者を取り囲むように流哉は魔法陣を展開。
反乱者は一切の熱を持たない火に焼かれ、言葉にならない叫びをあげる。
ついでにゴミ掃除も兼ねて、付き従っていた配下共もまとめて焼却。
その身を焼き尽くしても炎は収まらず、焼け残った灰すらも燃やし続ける。
死に絶えていた配下の魂を焼き始め、悲鳴は更に大きくなっていく。
反乱者の魂を中心に他の魂も集め、焼き尽くした身を封じ込める為、魔法銀を生成する魔法陣を展開、焼けつくした灰を魔法銀へと作り変える。
魂を魔法銀で封じ込め、その形を整えて行く。
造り終えたのは鮫の形をした疑似餌。
「まあまあの出来か。
レクス、今回の褒美だ」
製作した物をレクスウェルに投げ渡す。
適当に放り投げてもしっかりと受け取るのは……アイツの持って生まれ才能だろう。
天性の身体を操るセンスと肉体の強度は、神に由来するモノと言うのは皮肉だ。
「コレは?」
「ああ、レクスは知らないのか。
コレは魚釣りの道具だ。
疑似餌って言ってな、コレそのものが釣り針でありエサなんだ。
それで釣り上げるには少々コツがいるらしいが……まあ、“太公望の釣り針”よりかは楽だろうよ」
「なんだ? そのタイコウボウっていうのは」
「昔に居たっていう人の名前だよ。
その人の逸話にあるんだよ、真っすぐな針で大物を釣り上げたっていう話しが。
真っすぐの針よりかは、釣れるっていう意味で言ったんだよ」
「そんなもんなのかね。
そんな人物がいたとは知らなかった。」
「そんなもんだよ。
まぁ、レクス達が生きた時代よりも後の出来事だし、知らなくても仕方ないさ」
太公望の話には興味がなさそうだが、疑似餌には興味を持ったようだ。
コレと言った能力は持たせていない。
扱う人の腕次第にはなるが、リンドヴルムを釣り上げた雄牛のような役割を果たすだろう。
あくまでも扱うヤツの腕次第。
所有している道具の中に、本当の『太公望の釣り針』もある。
ソレの劣化版程度の代物だけど、褒美としてくれてやるには丁度いい。
「ところで、主よ。一つ聴いても良いか?」
「なんだ?」
「今の技は……」
誤魔化しは意味がないだろう。
レクスウェルが求めている技術とは違うが、限りなく近いモノだ。
それ故に気付いただろうし、下手な誤魔化しも通用しない。
意味のない事はしないし、流哉の主義とも反する。
客人も待たせているし、さっさと済ませてしまおう。
「レクスが思っているモノとは違う」
「コレを作り出したのは魂へ直接攻撃する、神殺しの秘法のはずだ」
「この魔法はレクスが思っているものじゃない。
確かに魂そのものへ介入するモノだし、お前が勘違いするのも頷ける。
コレはさっきも行ったけど、この魔法は金属に関するモノ。
練金や彫金っていう錬金術に近いモノなんだが……レクスにも分かりやすく言うなら、武器を生成する魔法って感じかな?」
「便利なモノがあるんだなと感心するが、オレが聞きたいのはそういうことじゃないと分かっているんだろう?」
「ああ、遠回しに言っている訳じゃない。
説明したのはお前が求めているモノじゃないと理解してもらう為だ」
「なら、」
「それで、どうする?」
「何、を……?」
レクスウェルの言葉が止まる。
そうなるように、流哉はゆっくりと言った。
レクスウェルの言葉を遮るように、『ソレを知って、お前はどうするんだ』という問いかけを。
百戦錬磨の戦士に、考える為に言葉を止めるきっかけを作った。
レクスウェルは猪突猛進の馬鹿ではない。
しっかりと考え、計略や策略を用いて勝利を手にする。
圧倒的な力を持っていながら、ソレに胡坐を書くような無能じゃない。
そんな相手に、流哉にしては分かりやすく警告している。
『知る必要の無いことを知って、お前はどうするのか』と。
遠回しに『お前も反乱を起こす気か』と聞いているとも言える。
レクスウェルの表情が徐々に険しいものに変わっていく。
本人が葛藤しているのなんて百も承知だ。
流哉に反乱する気も起こす気も無いのは分かっている。
それでも、あえて問う。
生前の未練を晴らす為に、忠義を誓った相手に歯向かうのかと。
「主に……逆らう気はない。
いつか、いつかで良い……」
レクスウェルの言葉は続かなかった。
生前に未練など無いと、言い続けた戦士の姿としては弱い。
だが、流哉はそんなレクスウェルの姿に揺らいでいる。
この男がここまでしている。
その現実が、流哉の判断を鈍らせている。
コレは、まだまだ流哉が甘いと言わざるを得ない。
今回の話し、どうでしたか。
砂鮫の反乱は、流哉の魔法によって終わりました。
流哉の魔法について少々疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
ソレに関する解答は次回とさせて頂きます。
気になる方は、振り返る際の参考として、
『魔法使いと魔法使いの依頼』の章を読み直して頂ければ幸です。
お読み頂き、ありがとうございます。
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