12.大学からの帰り道で 「その拾弐」
流哉の視点となります。
楽しんで頂ければ幸いです。
更新、遅くなり申し訳ありません。
砂鮫の先代族長を呼び出し、命令を与える。
ただ一言、『自身の不始末のケリをつけろ』と。
血の契約で結ばれた使者に命令を与える際に言葉を必要としない。
何よりも忠実な、流哉の為だけにある僕。
「流哉君は何をしているの?」
「オレか?
オレはただ見届けるだけ、何もしないし何かをする必要もない。
コイツらの不始末にケリがつくのを見るだけ。
由紀子さん、変な事に巻き込んだね。
まぁ、直ぐに決着が着くと思うから、もう少しそこで大人しくしてて」
由紀子をしっかり結界の中に入れ、視線は今も砂の中を我が物顔で駆け回るモノを見る。
能力を制限したままでも良いが、客人が居る中では万全を期すべきだろう。
怪我でもさせたらそれこそ問題だ。
普段は閉じている魔眼を開く。
砂の中で隠れている半端者の姿や、魔力の流れ、いつもはカットしているモノが見える。
「珍しいですね、主が眼を開くのは」
「客人にケガをさせる訳にはいかないからな。
ただ、魔術や魔法は使わない。
そこまでする必要は無いし、アイツ等の仕事はアイツ等にやらせないとな」
レクスウェルは既に切る為の準備を整えている。
砂鮫の先代族長が徐々に距離を詰めて行くのを眼でとらえる。
後は誘い出すだけだが、そのタイミングを流哉は先代族長に委ねた。
なら、ただ見守るのが出来る事だ。
「万が一なんていうことはあり得ない。
そんな事を言い訳にする気もないだろう。
だが、オレが見ている前で半端だけは許さんぞ」
ほんの少しだけ発破をかける。
僅かばかりの殺気を込めて、きっかけを無理やり作る。
レクスウェルの肩がほんの少しだけ跳ねるが、直ぐに元の姿勢に戻っている。
流石は武人。
そう簡単に取り乱したりはしない。
砂鮫の先代族長も、流哉の意図に気付いただろう。
きっかけを作ってやれば後は勝手に動き出す。
流哉の飛ばした殺気に真っ先に反応を示したのは、反乱を起こした半端者。
純粋な殺気というのをぶつけられたのが初めてだったのだろう。
随分と面白く、また懐かしい反応をする。
分からない感覚には素直に従えばいい。
コレが恐怖だと素直に認めて逃げ出せば、もう少しはマシな結果が待っていたのかも知れない。
気に入らないと、無謀にも歯向かってこなければ。
『ソレは許さぬ!』
砂鮫の先代族長、唯一の先祖返りを果した砂竜。
砂という場に置いて、最速であり最強である。
その牙が深く突き刺さり、砂の上に引きずり出した。
直ぐに砂へ潜ることは叶わず、そのまま宙へ投げ出される。
宙へ投げ出された先に待っているのは無惨な結果だけだ。
「後の仕事は任された」
抜き身の剣を構えたレクスウェルの構えを見て、先の結果は見えた。
由紀子の視界に僅かでも映らないように身体で隠す。
普段であれば『魔天の鍵』を使ってまでの結界の強化や、魔眼を開くこともしない。
全てはここへ新山由紀子という客人を招いた流哉の責任。
ここまでする必要は無く、レクスウェル達を信頼していない訳でもない。
ただ、確実な結果のみを求めた結果だ。
「遅すぎだ」
レクスウェルの太刀筋など魔眼なしでは流哉も見切ることなどできない。
得物を振りぬいたという行動の先に、対象を切り捨てたという結果がある。
その過程を目視することはほぼ不可能だ。
剣を振る速度と技量は、神の領域。
神が居た時代を駆け抜けた戦士は、全てにおいて神の時代以降とは隔絶した差がある。
コレほどの戦士を信頼していない訳がない。
そこまで信頼に値すると分かっていても、何もしない訳ではない。
信頼していようがいまいが、流哉は一定の準備をする。
常に身にまとう絶対的な防御があろうとも次元を遮断する結界を張る。
どのような名刀を手にしていても、必ず仕留める手段を別に用意する。
相手が死に絶えていたとしても、その亡骸を完全に抹消する為に魂すら焼却する地獄の業火を呼び出す。
何においても、完全なる結果を持って必然とする。
「求め過ぎなのかも知れないが、ソレに応えるのがオレの僕としての覚悟だ」
誰に向けた訳ではない一言。
ただ、この場に居る由紀子以外の耳には届いているだろう。
言葉に意味はない。
弁明を求めている訳でもない。
流哉が求めるのは結果のみだ。
「討伐完了しました」
「レクス、今回の件は貸しだ……と、言いたいところだが、今回は面倒を押し付けていたからソレで相殺。
腕がなまっている訳じゃないとオレは信じている。
オレの期待に結果で応えろ」
「相変わらず無理難題を押し付けてくれる……求められた以上は応える。
代わりに、たまには鍛錬に付き合ってくれ。
少し勘が鈍っている」
「良いだろう」
レクスウェルの鍛錬に付き合うのは疲れるが、それでコイツがやる気を出してくれるのであれば何も言うまい。
鈍った感を取り戻すと言った以上、少しキツメの訓練になるだろうが、ソレは流哉にも益をもたらす。
一流の武人と生死のギリギリで行う手合わせは、経験などそうそう出来る物ではない。
今回の話し、どうでしたか。
流哉が自身の僕に求めるのは結果のみ。
その過程はあまり重視しません。
宝物庫たちの住人たちは承知していて、ソレで良いと互いに思っています。
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