11.大学からの帰り道で 「その拾壱」
レクスウェルの視点となります。
楽しんで頂ければ幸いです。
更新、遅くなり申し訳ありません。
仕事は終えた、そう思っていた。
切り裂いた個体を見ると、狙っていた獲物より小さい個体であることに気付く。
その場をすぐに離れ、セレイネたちの方へ飛ぶ。
足元から迫る気配と、上空から近づいてくる強大な気配。
セレイネの結界を信頼していない訳でないが、最悪の事態に備えるべきだろう。
「レクス殿!」
「すまない、失敗したようだ。
空から何か来ているようだし、少し様子見をしたい」
レクスウェルの居た場所に、一匹の砂鮫が大口開けて飛び出した。
下から感じていた気配はどうやらアレらしい。
何も喰いつけなかった事に不服そうな表情を浮かべている。
あんな丸出しの殺気に気付かない奴はいない。
「不服そうにしているのは構わんが、上の注意した方が良い」
一言、『もう手遅れだが』と言う暇もなく、空から膨大な力を纏った何かが飛来する。
口を広げたままの砂鮫に突き刺さる飛来物。
衝撃が押し寄せる前に、同等の強さの波をぶつける。
少々強すぎた気もするが、コチラに来る衝撃波を減らせるのなら問題はない。
砂煙を巻き上げ、その風も一瞬で消える。
砂煙が晴れた時、跡形もなく消えた砂鮫と突き刺さる禍々しい何か。
このようなモノをレクスウェルは生前でさえ見たことが無い。
「オレも外したようだな。
たかが的当てを外すなんて、少し勘が鈍ったか?」
普通に歩くことなんてまず不可能な砂漠の中を、普通に歩いているだけだと言わんばかりに進んでくるのは……
「主よ、持ち場を勝手に離れて申し訳ない」
この場所の絶対的な強者。
この場所を治める所有者。
神代流哉が服についた砂を払い落としながら話しかけてきた。
何か言われるよりも前に、自身が持ち場を勝手に離れた事実を誤っておくべきだろう。
「そんなことは気にしなくていい。
由紀子さんは……セレイネが守ってくれているのか。
ミスティも一緒に居るのは少し驚いたが、お前の得物と砂鮫共の様子を見ればだいたい把握できる。
まぁ、そのことは後回しだ」
流哉はそう言うと突き刺さった得物を引き抜き、セレイネの方へと歩みを進める。
「由紀子さん、もう少し待てていてくれる?
セレイネ、そのまま結界の維持と強度にだけ力を割け。
ミスティはそのまま大人しくしていろ」
流哉は手に持っている得物をかかげ、魔力を込めている。
本人にとっては取るに足らない程度なのであろうが、十分過ぎる程の力が込められている。
「原初の罪を宿し魔天の鍵よ。
我が力を糧に、罪の在処を示せ。
時よ、怠惰に染まれ」
流哉の手にあったのは、『魔天の鍵』と呼ばれるモノらしい。
それは槍かと思っていたが、その正体は鍵。
流哉らしい得物だ。
レクスウェルの主は『鍵』と名が付くものを多用する。
わざわざ愛剣を持ち出さない所を見る限り、本気ではないのか、周りへの配慮なのか。
鍵と呼ばれたソレは、セレイネの結界を黒く染め、その上で自己を顕示する。
アレを破壊しろというのは、レクスウェルであっても困難だろう。
「レクス、アレを切るのはお前に任せる。
アレを陸に上げるのはオレが何とかする」
流哉は砂の中を泳ぐ獲物を見定めている。
主がそう言った以上、レクスウェルがやるべきことは切る事に専念することだ。
ただ、その瞬間が来るのを待てばいい。
「我に連なりし血の盟友よ、汝の力をここに」
流哉の周りを赤い鎖が顕現して巡り始める。
金属が擦れる音を立て、流哉の力を巡らせている。
「我が声に応え、力を示せ。
さぁ、目覚めろ。一族の不始末、晴らす機会を与えてやる」
鎖に引き上げられるように流哉の前に姿を現したのは、今生きる砂鮫達よりも二回りは大きな体躯。
鮫よりかは竜のような姿、古き時代に地に住む竜族をレクスウェルに彷彿させた。
ただ、どこか懐かしい感じもある。
姿形が変われども、その力の波長には覚えがある。
「レクス殿、我が一族が迷惑をかけてスマヌ。
主より今一度の機会を得た身、アヤツを砂の上に引きずり出しますので、後のことは頼みます」
話し方で納得がいった。
死してなお、主の呼びかけに応じる。
我々のようなモノにとって、この在り方は理想的ともいえる。
仕えた主が、死後も必要としてくれているのは、臣下冥利に尽きるというものだ。
「ああ、止めは任せてくれ。
二度も仕留めそこなうようなヘマはしない」
自身の得物と切るべき対象にのみ全神経を注ぐ。
ココからはもう失敗は許されない。
主の目の前で、二度目の失敗など許されない。
誰が許そうと、主が気にするなと言おうと、他の誰でもない自分自身が許せない。
砂鮫の先代長老が砂の中に潜っていく。
やると言った以上、仕損じることはまずありえない。
どんな瞬間であろうと、その一瞬を見逃すな。
今回の話し、どうでしたか。
流哉の槍も結局は対象に刺さりませんでした。
流哉の魔導器、正しい使い方は槍のように投げることではありません。
今回の使い方が若干ですが、正しい使い方です。
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