8.大学からの帰り道で 「その捌」
レクスウェルの視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
更新が当面の間、週一となります。
自身の中にある最古の記憶は、光と炎が渦巻く空。
父である勝利と黄金、輝ける太陽の神『ザフィイル』の竜と戦う姿が、焼き付いている記憶。
神々ですら手を焼く存在である竜種というモノを、滅ぼし尽くせと願われて産み落とされた存在。
父ザフィイルが人間の少女、竜族を称える一族の聖女とまぐわい生まれたのが、レクスウェルだ。
どんな思惑が当時の人や母にあったのかは知るすべのないこと。
流哉であれば知るすべを持っているかもしれないが、ソレをレクスウェルが望むことは無い。
過ぎ去ってしまった過去など、どうしようもない事。
興味など微塵もない。
母が居て、レクスウェルには成し得るだけの力があって、結果として父たちとは道を違えた。
ソレだけが純然たる事実だ。
目の前の少女は、レクスウェルやミスティのことを知らない。
現代というレクスウェルが生きた時代から遥か未来で、今を生きている。
時の狭間に取り残されたモノと、未来へと歩んでいくモノ。
価値観が違うのは仕方のない事だ。
「なんで、か……その点に関しては互いの理解なんて得られないだろう。
オレ達にとっては、主の為と言うのは皆が共有するただ一つの共通の認識だ。
かつてのオレが生きた時代は強者からの命令を絶対とする時代だった」
神という絶対的強者に対して反旗を翻し、結果として敗北したレクスウェルが言うのもおかしな話だ。
ソレで良いという時代にレクスウェルはただの異物だったのかも知れない。
レクスウェルに着いてきた奴等も、王に着いてきた臣下だ。
そこに個人の意思などほぼなかっただろう、王に着いて行けば理想とする時代になると、王の理想こそが良い世界なのだと信じていた。
その期待に、レクスウェルは応えられなかった。
「べつにオレの認識を誰かに強制する気はない。
オレたちの時代と現代では、価値観も何もかも違うのだろう。
お前達にはお前たちの、オレ達にはオレたちの、絶対に譲れない一線がある。
ただ、それだけの話しだよ。
互いに譲れないのなら、それ以上は踏み込むべきではないだろう」
おそらく、目の前の少女は自身の価値観が崩れる前に否定するだけの根拠が欲しいのだ。
そんなことをしても意味がないと言うのは、分かり切っている事。
それでもと求めてしまうのは、人という生き物の性なのだろう。
「誰かの為にと言ったが、誰でもいい訳じゃない。
オレ達は主が流哉だから従っているんだ。
他者には絶対に理解出来ないだろが、理解されたいとは思っていない。
だから、オレたちを無理に理解する必要は無い」
コレ以上この話しを続ける気はない。
遠回しではなく、確実に拒絶の意思をこめて言う。
互いに平行線のままならば、そのまま交わることは無い。
この場にこの少女が居ることこそが異常であり、この場にいる客人がこの場所を訪れることはもうない。
主の気まぐれが起きない限りは。
未だに何かを言おうとしている少女から顔をそむける。
レクスウェルが主から頼まれたことはこの少女の安全を確保する事であって、問いかけに答える事じゃない。
そろそろ主の用事は済んだだろうか。
少女のお守が終われば、次は砂鮫狩り。
今日は面倒事が立て込む日のようだ。
数年に一度、このように面倒な日が来る。
まったく、主殿といると退屈しないな。
少しの時間が経過した頃、客人が現れた。
待ち人来る、ならばよかったのだが……
「レクス殿、頼んでいた鮫狩りは終わりましたか?」
額に青筋を浮かべている、どう見ても怒り心頭のセレイネ殿だ。
言い訳をする余地などないことは明白。
さて、どうしたモノか。
「セレイネ殿、レクス殿を叱らないで上げて欲しい」
助言をミスティ殿が出してくれた。
自分で何か言うよりは、遥かに効果的なはずだ。
「ミスティ殿、コチラに居られるということは武器の整備は出来ているのですね」
「問題なく終わっている」
「でしたら、なぜ仕事が済んでいないのか。明確な答えを頂けるのでしょうね?」
ダメだ。
どう見ても話しを聞いて貰えるような雰囲気じゃない。
「セレイネ殿。レクス殿は主から仕事を頼まれたそうだ」
「主殿に?」
一切の話しを聞く余地も無しの状態だったセレイネに変化が起きる。
主という単語をきっかっけに、喧噪な雰囲気は消える。
「主殿がここに来ているのですか?」
「ああ、彼女の保護を直接頼まれたから嘘ではない」
「宝物庫の中で主の魔力を感じる、この中に居ることはたしかであろう」
何一つ変わらない世界だが、ただ一つだけ異なることがある。
主が中に居るか居ないかで、この宝物庫と呼ばれる世界に満ちる力の波動が変わる。
主が中にいる状態、すなわちそれは中の住人にとってこれ以上に無いほどに過ごしやすい状態となる。
大気中に満ちる魔力は、レクスウェルに生前を彷彿させる。
神秘が薄くなった現代では毒とされるほどに濃い魔力が満ちた風。
かつて肌身で感じ、仲間たちと語り合う時も傍にあった。
忌々しい神々に対して、唯一感謝を捧げた。
魔力が濃く、神秘も濃い。
我々が駆け抜けた熱砂の大地と同じ風が吹いている。
今回の話し、どうでしたか。
主にレクスウェルの過去を覗く回です。
レクスウェルの生前が少し、明かされました。
まだまだ何かを抱えていますが、今はこの程度で。
セレイネが出てきました。
鮫退治もそろそろ始まります。
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