11.地獄の門『その拾壱』異端の術、最後の光
流哉の視点となります。
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タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/07/15)
クリストフが支払った犠牲は、無に帰した。
若さゆえの特権、というには、あまりにも愚かしい。
だが、残念ながら、神代流哉の精神は、そのような感傷を抱く前に魔法へと至ってしまっている。
神との契約は、彼から多くのものを奪い、代わりに、人間らしい無鉄砲さを経験する機会さえも与えなかった。
「……まだ、何か用か。
クリストフの支払った代償を、無価値にするのはやめておけ」
「魔法使いだか何だか知らん!
貴様のような奴が『プロヴィデンス』を持つに相応しくない!
それは、この僕にこそ相応しいモノだ!
それに、『地獄の門』!
その魔導器は最優先回収品目だ!
今すぐ両方を差し出せ!」
もはや、救いようがない。
クリストフが差し出した最後の機会を、この男は自ら踏み潰した。
流哉は、確認のためにクリストフへと視線を送る。
だが、彼の瞳に、もはやこの若い警察官の姿は映っていなかった。
それは「無関心」という名の、最も冷たい死刑宣告だ。
面倒だ。だが、ここで見逃せば、後々もっと面倒なことになる。
ならば、後顧の憂いは、今ここで断つのが最適解だ。
「無駄だと分かっていて聞くが、引く気はあるか?
今なら、何も聞かなかったことにしてやる」
興奮に肩を上下させる男へ、気怠げに声をかける。
「僕が常に正しい!
僕の言葉こそが、この世で唯一の真実だ!」
真実、か。
その言葉の、途方もない重みを知らずに、よくもまあ、口にできるものだ。
「魔法使いでもないお前が、真実を語るな。その言葉が、ひどく安っぽく聞こえる。
神と契約も交わさず、神秘の最奥にも触れず、何を以て自らを真実だと言い切れる?
その言葉は、協会の使徒ですら禁句のはずだが」
「神に仕えぬ魔術師風情が、神の御業を騙る方がよほど不敬だ!」
神に仕え、信仰を捧げる者よりも、神の理そのものに触れた魔法使いの方が、よほど神に近い。
世界の構造とは、いつだって皮肉に満ちている。
「―─―なら、見せてみろ。その意地とやらを。
オレに蹂躙されるようでは、お前の正義は何一つ成し遂げられない」
「思い上がった魔術師風情が!
身の程を分からせてやる!」
まだ、こちらのことを魔術師と呼ぶか。
この場に満ちる、神代流哉と西園寺紡、二人の魔法使いの魔力の質。
その違いにすら気付けない時点で、才能など欠片もない。
大方、どこぞの地方で没落した魔術師の家系、それも傍流の血筋が、最後の最後に生み出してしまった、僅かな才能の持ち主。
まぁ、そんなところだろう。
本来ならば、そのまま静かに潰えるべきだった血が、欲を出した結果、協会という袋小路へ迷い込んだ。
ここで一つの歴史に、終止符を打つのも悪くない。
「さっさと来い。時間の無駄だ」
「協会の祝福を受けた僕に、魔術師風情が勝てる道理などない!」
男が聖言を紡ぎ始める。
神聖術。魔術と対をなす協会における神秘のあり方。
待ってやる義理など、どこにもない。
本来であれば、相手が何かを認識する前に、全てを終わらせるのが流儀だ。
だが、今日は特別だ。
真正面から、その自信の拠り所を叩き潰し、自尊心を粉々に砕いてやる。
己が何者でもなかったと、身の程を悟った瞬間に、神秘に関わる全ての資格を剥奪してやる。
それこそが、この男に与えるべき、最大の罰だ。
「聖言を用いた神聖術か。毎度毎度、芸のないことだ」
協会の人間に命を狙われることなど、一度や二度ではない。
幾度となく繰り返した無益なやり取り。
魔術に対して絶対の効果を発揮する神聖術の『魔術無効化の術』。
普通は『プロヴィデンス』を合わせて使うのが協会の執行者達の定石。
この男は『執行者』ですらないようだ。
流哉が呟いた、その時だった。
「――魔術と神聖術の融合、その異端の術を、貴様に見せてやる!」
男の周囲に、神聖術の証である聖言の輝きと、魔術の証である幾何学的な魔法陣が、同時に現れた。
ほう。これは、少しだけ、興味を引かれた。
相反するはずの二つの理が、反発することなく、男の手元で一つの術として形を成しつつある。
もし、これが完成すれば、それは世界の記録に、歴史に新たな一頁を刻む、未知数の術となるだろう。
流哉という、観測者《魔法使い》の元へ届く、可能性がある。
「いいだろう。その術が完成するまで待ってやる。
せいぜい、オレに届かせてみろ」
「その余裕が命取りだ!
僕の術が、貴様の歴史に終止符を打つ!」
術が、完成した。
綻びなく、驚くほど美しく、二つの理が調和している。
もう少し研鑽を積む時間があれば。あるいは、彼が魔法という奇蹟へ至っていたのなら。
その一撃は、あるいは此処に立つ自分を脅かしたのかもしれない。
―─―無駄な感傷は、そこまでだ。
「無駄だ!
この術に、貴様ら魔術師が得意とする反魔術など意味をなさない!
それを冥土の土産にしろ!」
対抗札の一つを封じただけで、絶対の自信を得たか。
ならば、その僅かな希望に、付き合ってやるのも一興か。
流哉は、無詠唱で反魔術の魔法陣を展開する。
男の術が、それに衝突した瞬間、反魔術の陣は、まるで脆いガラス細工のように、派手に砕け散った。
男の顔に、歓喜の表情が浮かぶ。
勝利を確信した、人生で最も輝かしい瞬間。
ああ、存分に味わうがいい。
これから始まる、終わらない絶望の前に。
今回の話し、どうでしたか。
流哉は僅かに期待したモノの、残念ながらそれは叶いません。
期待をして、ソレが叶わないのは常の事なので何も思っていません。
次回は、決着まで行くと思います。
※三上堂司からのお願い※
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