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1.地獄の門 『その壱』

流哉の視点となります

楽しんで頂けたら幸いです。


前話の予告通り、サブタイが変わりました。


 流哉(オレ)は一人、祖母の墓の前に来ていた。

 紡の家に行くと燈華達に伝えたのが昨日の事。

 夜が明けてから数時間後、流哉の準備は終わっている。

 家を出る前に墓参りでもとかって考えていた訳じゃない。

 単純に燈華(とうか)達の出発準備が終わってなかっただけ。


 雪美(ゆきみ)に『女の子の準備は時間がかかる』と言われて、燈華達は慌しく荷物をまとめている。

 流哉はその間に『墓参りをしてくる』と言ってここへ来た。

 一緒に居れば急かされていると燈華達が感じるかもしれないと考えたから。

 流哉のことなど気にせず、準備をすれば良いと思わなくもないが……


 相変わらず綺麗にされている墓を見て、流哉は内心ホッとした。

 (おけ)から水を救い出し、墓にかける。

 流哉が墓参りに来るのは実に五年ぶりのことであった。

 線香を取り出し、魔力を使って火を灯す。

 墓の前で手を合わせ、空へと昇って行く煙を見つめる。


「祖母さん、墓参りに来られなくてごめん。

 なかなか日本へ帰れなかった。

 ロンドンは相変わらず騒がしい町だったよ。

 見習い共が学ぶには良い所かも知れないけど、オレの魔法はそいつらには刺激が強すぎたみたいだよ。

 まあ、なんだかんだけっこう楽しめたよ。

 祖母さんとの契約、何とか果たせそうだ。

 しっかりと断言できないのが(なさ)けないけど」


 墓には遺灰(いはい)しか眠っていないが、それでも流哉は墓に語りかけていた。

 意味のない事だと分かってはいる。

 それでも話しかけてしまうのは、人としての(さが)なのかもしれない。


「連盟とは一部を除いて上手くやっているつもりだよ。

 フォンや重実(しげざね)、マリアやシェニッツァーは気にかけてくれている。

 レザリウスは……上手くやれていると思う。

 ただ、ガウルン家とはダメそうだ。

 アルバートは再起不能にしたし、ロバートは身の程知らずだ。

 本格的に潰す日が来るかもしれないけど……祖母さんなら歯牙(しが)にもかけないよな?

 でも、オレは……オレの逆鱗(げきりん)に触れた奴を許す気は無いよ。

 長くなってしまったけど、近況報告はこんなところにしておくよ。

 なんだかオレを呼んでいるみたいだし……

 これからは日本にいる予定だから、また来るよ」


 家の方から燈華達が流哉を探す声が聞えてくる。

 どうやら用意が終わったらしい。

 桶を持ち、家へと歩き出す。

 墓の前では線香が完全に灰になり、最後の煙が空へと昇って行く。


 家の前に戻って来ると燈華達がカバンを抱えて待っていた。

 雪美や流我(りゅうが)良祐(りょうすけ)までもが玄関の外へと見送りに出ていた。


「兄貴、また祖母さんのところに行っていたの?」

「ああ、五年振りだからな、挨拶に行ってきたよ。

 それより珍しいな、お前まで見送りに出てくるなんて」

「これからオレも出かけるの。見送りにはそのついでに出てきただけ。

 兄貴、たまには帰って来いよ。

 母さんが心配するからさ」

「考えとく。お前も母さんと父さんに心配かけるなよ。

 じゃあ、オレ達も行くよ。母さん、父さん元気で。

 祖母さんの墓、綺麗にしてくれていてありがとう」


 良祐は流哉に一声かけると自転車に跨り、町へと漕ぎ出して行った。

 アイツはアイツで、何かと忙しそうだ。

 ただ、流哉はあまり弟のことを知らない。


 独白になるが、流哉は良祐とあまり関係を築いてこなかった。

 幼少の終わりの頃から魔法を継ぐために、祖母と過ごす時間が長くなった。

 弟とは家の中でもあまり顔を合わせることも無かったと記憶している。

 不思議に思った弟は、父と母に聞いたらしい。

 何故兄は遊んでくれないのかと。

 家業を継ぐためと言っても理解はできる訳もなく、良祐は神秘には関わらせないと両親は決めていた。


 この頃から魔法を得るまでの間、流哉は学校も行かなくなった。

 表向きには転校したことにして、祖母の部屋の中で修業を積んだ。

 その後、学校へ行くようになったのは中学の途中、二年の終わり頃だったか。

 中学三年の終わりの頃、流哉はロンドンへ旅立った。

 思い返せば一緒に過ごした時間というのは短かったと思う。

 交流するのは手紙か電話というのが多かったのも一因だ。


 とにもかくにも、普通の兄弟とは程遠い。


(りゅう)ちゃん、持って行く物ってそれだけでいいの?」


 燈華の呼びかけで我に返る。

 二人に背を向けたところで燈華が流哉(オレ)のキーリングを指差し言う。

 流哉は燈華へとふり向き、歩き出そうとした足を止める。


「ああ、オレの持ち物はこれで全部だよ。

 言っただろ、『部屋を持って行く』って。

 これ以上にオレの持ち物なんて、この家には食器ぐらいしか残ってないよ」

「その『部屋を持って行く』ってのが、まだ分からないんだけど」

「まあ、説明するのも面倒だし、何より見た方が早い。

 よく言うだろう『百聞は一見にしかず』って、こういうことわざもあるくらいだ。

 オレの持ち物はこれだけでいいんだ」

「ふーん。よく分からないけど、流ちゃんが良いって言うならいいか。

 雪美さん、お世話になりました」

「いいのよ、燈華ちゃんに久々に会えて嬉しかったわ。

 燈華ちゃん、お願いがあるんだけど、いい?」

「なんですか?」


 何やら雪美が燈華に耳打ちし、燈華は頷く。

 流哉に聞えないように、読まれないように口元を隠し、燈華にだけ聞えるボリュームで話している。

 燈華と雪美のナイショ話しが終わるのを見計らって、流哉は歩き出す。

 あわてて後を追ってくる燈華達。

 視線の隅に映る雪美は、姿が見えなくなるまで手を振っている気のようだ。

 燈華達は振り返しているが、流哉だけは振り返さない。

 歩く速度を落とし、燈華達を先に行かせる。

 姿が見えなくなる直前に片手を軽く挙げて合図を返すだけにとどめておく。


今回の話し、どうでしたか。


神代邸の敷地内に神代月夜の墓はあります。

そして流哉と良祐の関係性について少し触れてみました。

普通とは程遠い所に居るのが魔法使いの宿命なのかもしれません。


お読み頂き、ありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」等、思って頂けましたら、ブクマ・評価頂けると大変励みになります。

評価は下の方にあります、『☆☆☆☆☆』を押して頂ければできますので、どうぞよろしくお願い致します。

今後ともよろしくお願いします。

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