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6.童話を喰い破った竜 『その陸』 迷いの森の案内人

流哉の視点となります。

楽しんで頂けたら幸いです。


タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/04/29)

 鈍い頭痛と共に、神代(かみしろ)流哉(りゅうや)の意識は、深淵から浮上した。


 部屋のガラス張りの天井からは、既に遠慮のない朝日が差し込んでいる。

 昨夜は、よほど深く眠って――否、意識を失っていた、と言うべきか。

 天井の景色を映し出す機能を夜空に固定することすら忘れていたらしい。


 いつ以来の失態だろうか。


 疲労感は、まだ粘りつくように全身に纏わりついている。

 だが、それだけではない。

 思考の隅に、昨夜から続く微かな違和感が残っていた。

 自身の魔力の流れに感じる、ささくれのような引っかかり。

 まるで、調律の狂った楽器のような不協和音。

 日常的な自己観測チューニングを行わなければ見逃していたかもしれない、(わず)かな綻び。


 ……ビンゴ、単なる疲れではないな。


 昨夜感じた、他者の意思の介在。

 神々の気まぐれ、という曾祖母レヴェリーの示唆が、現実味を帯びてくる。

 結論の出ない思考は一旦脇に置き、流哉は重い身体を起こした。

 まずは、この違和感の正体について、心当たりのある唯一の存在に問い質す必要がある。


 寝る前にサイドテーブルの黒檀の箱に仕舞い込んだ『黄金の鍵』を取り出し、再び壁の『扉』を開錠する。

 揺らぐ空間の向こう側、宝物庫の入り口へと意識を向けた。


 果たして、というべきか。目的の人物は、すぐに見つかった。


 宝物庫の入り口付近、二つの巨大な扉が並ぶ広間の中央に、先々代の魔法使い――『神代(かみしろ)S(ステイン)・レヴェリー』の半透明な姿が、待ち構えていたかのように漂っていた。


「……ここで、待っていたんですか?」


『待っていた? 私が、誰をかしら?』


 悪戯っぽい笑みを浮かべて、彼女はとぼけてみせる。

 こちらの思考など、全てお見通しのくせに。


「貴女が、オレを」


『あら、それは自意識過剰よ、リュウヤ。

 私には貴方に用などないもの。

 けれど……貴方・・の方には、この・・に聞きたいことがあるようね?』


 その口元に浮かぶのは、からかうような、それでいて全てを知る者の余裕。

 この亡霊との会話は、常に神経をすり減らす。

 だが、今はそれに付き合っている時間はない。


「単刀直入に聞きます。

 昨夜からオレが感じている、この違和感の正体。貴女なら、何か心当たりがあるのではないかと思ったんですが……オレの勘違いですか?」


『いいえ。その勘は正しいわ』


 彼女は、あっさりと頷いた。

 その反応の軽さが、逆に不気味だ。


『貴方が感じているものの正体について、心当たりなら(いく)つか。

 にそれを聞きに来た、という選択もまた、正しいと言えるでしょう』


 この曾祖母は、常に『正しさ』を問う。

 その行動原理は、未だに流哉にも理解しきれない。


「では、その心当たりを教えていただけますか?」


『及第点、ね。仕方ないから教えてあげるわ』


 彼女は、芝居がかった仕草で嘆息たんそくする。


『貴方の推察通り、今回の違和感には、神々の関与がある。

 それも、かなり性質の悪い類よ。

 今回、貴方にちょっかいを出しているのは……そうね、私の(いと)()、貴方の祖母と契約していた、あの月の女神。

 ここまでヒントをあげれば、後はもう、貴方自身の問題でしょう?』


―─―月の、女神。

 その言葉だけで、流哉には十分だった。

 疑惑は、確信へと変わる。


「……感謝します。十分過ぎる情報だ。

 あとは、自分で何とかします」


 返答に満足したのか、レヴェリーはふわりと宙に浮き上がり、宝物庫の奥へと再び漂い去っていく。嵐のような老婆だ。


 さて。厄介ごとの元凶は見えた。

 どのような思惑があるにせよ、早々に芽を摘んでおくべきだろう。

 流哉は、思考を切り替え、目の前にある二つの扉へと意識を集中させた。


 宝物庫の入り口に並び立つ、巨大な二つの扉。

 どちらも、常に主人を迎え入れるために開かれている。


 一つの扉の向こうには、どこまでも続くかのような白砂の砂漠と、そこに伸びる古びた石畳の道、そして陽炎の先に霞む石造りの巨大な建造物が見える。

 広大な砂漠と『魔導図書館(レア・ステイリア)』を内包する、知識のための世界。


 もう一つの扉の向こうには、深い、深い夜の森が広がっていた。

 あらゆる生命が眠りについたかのような静寂と、濃密な闇。

 降り注ぐ月明かりだけが、その入り口を神秘的に照らし出している。

 扉には、古びた金属製のプレート。『薬草畑』と、簡素な文字が刻まれている。


 流哉は、迷うことなく『薬草畑』のプレートが掛かる扉を潜り抜けた。

 途端に、空気が変わる。

 ひんやりとした、草と土の匂いが濃密に漂い、鬱蒼(うっそう)()(しげ)る木々が視界を覆う。

 足元には、蛍火(ほたるび)のように明滅する、小さな光の粒が無数に漂っていた。

 それらは、まるで意思を持っているかのように、流哉の周囲を取り囲み、森の奥へと誘うように動き出す。


 祖母から受け継いだ、この『薬草畑』。

 その実態は、森と月と畑で構成された、一つの閉じた異界だ。

 砂漠の図書館と同様に、祖母がこよなく愛し、大切にしていた場所。


 そして、この森は――神代よりもさらに古い時代から続くという、『妖精の女王』の領域テリトリーの一部が、混ざりあっている。

 深々と生い茂る木々は、踏み入る者の方向感覚を狂わせ、永遠に迷わせるという。

 この森に住まうことを許された、女王に連なる妖精たちを除いては、誰も奥にある畑まで辿り着くことはできない。


 足元で明滅する光は、その妖精たち。

 部屋の主を案内する役目を与えられた、女王の気まぐれな子供たちだ。

 彼女、あるいは彼らたちは、女王の命令以外には基本的に従わない。だが――


『───偉大なる女王様の命令だから、案内してあげるんだからねっ』


『そーだぞ! 別に、甘い蜜が欲しいからじゃないんだから!』


『『そうだそうだー! でも蜜は欲しいー!』』


 鈴を転がすような、あるいは囁きのような声が、直接、流哉の頭の中に響く。

 悪戯好きで、移り気で、そして驚くほど欲望に忠実な存在。


「分かっている。畑に着いたら、花の蜜を分けてやる」


『ほんと!? 絶対!?』


『うそついたら、森の奥に置き去りにするからね!』


『月光草の蜜がいいなー! あれ、すっごく美味しいんだ!』


 本当に、欲望に忠実な存在だ。

 そして、その要求も非常にストレートで、高いものだ。


「……ああ、特別に月光草の蜜も分けてやる。だから、さっさと案内しろ」


『『『やったー! 約束だよ! 急げ急げー!』』』


 途端に、妖精たちの灯火が速度を上げ、一直線に連なって森の奥へと進み始める。


 なんとも、まあ、現金なものだ。


 先程までの、わざとらしい回り道はどこへやら。最短距離で目的地へと導いていく。

 流哉は、苦笑しつつも、その光の帯を追って歩みを進めた。

 少し開けた場所に出ると、木々の隙間から、より強い月光が差し込んでいるのが見えた。


 迷いの森の出口は、もう近いらしい。

今回の話し、どうでしたか。

流哉の宝物庫の一部屋、『薬草畑』を開放しました。

この部屋の住人達とはどのようなモノ達か、楽しみにして頂ければと思います。


※三上堂司からのお願い※


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

読者の皆様へ筆者からのお願いがございます。

本作を読んで、「面白かった」「続きが気になる」等、少しでも思って頂けましたら、

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これから物語を書き続けていく上でのモチベーションに繋がります。

今後ともよろしくお願いします。

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