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4.神代家の事情『その壱』 魔法使いの家と祖母からの贈り物

流哉の視点となります。

楽しんで頂ければ幸です。


大幅な加筆修正を行いました(2024/11/26)

 玄関をくぐり抜けると日光の差し込むロビーが出迎える。

 この月読館を建てた“魔女(曾祖母)”の趣向で、『その日の天気がその日のエントランスのあり方を決める』という仕様になっている。

 天窓から入り込む日光がこの場所の明かりとなると祖母から聞いた。

 良く晴れた日、雲一つない満点の星空の夜、満月の夜はロビーに光が満ちる。

 自然の光とはここまで綺麗で明るいものなのだと認識させられたのは良い思い出だ。

 反対に曇天の日、雨の日、新月の夜、ロビーは暗闇に包まれ静寂が訪れる。


 最も、今はそれ以外の明かりとして電灯が着いている。最近流行のLEDライトってやつである。

 

 ロビーの先、左側の扉の先は居間だ。

 流哉がロビーに荷物を置くと同時に居間へと続く扉が開いた。


「ただいま」

「お帰り、流哉(りゅうや)。早かったね」


 声をかけてきたのは流哉の父、神代流我(かみしろりゅうが)

 街で一番大きなビルの所持者にして、魔法使いであった神代月夜(祖母)の一人息子、表向きの神代家代表である。


「珍しいね。父さんがこんな時間から家に居るなんて」

「冬城の御二方が来られるからね。仕事をしている場合ではないし、御二方が来るまでは休みを貰っているよ。

 今回の件は流哉に迷惑をかけたから、直接謝りたかったのもあるし」

「気にしないでいいよ。こっちで受け入れてくれる大学を探してくれたの、父さんだろ?

 それで貸し借りはチャラにするよ」


 流哉は父との会話を切り上げると自分の部屋に向かう。

 父の後に続き居間へ入ると壁には沿うように階段が二階へ続いている。

 トランクを担ぎ階段を上り二階へ上がる。

 階段は二階で終わっており、三階より上へ行くには一階の居間とは逆側の扉の先、別の階段を進まなくてはならないが、今日の所は用がない。


 二階のホールに着くと三つの扉が流哉を出迎える。

 その中の中央の扉を開き、中へトランクを担ぎ直して進む。

 中央の扉を潜り抜けたその先は廊下、それ以外に部屋への入り口を示すドアが二つ。そして突き当たりの行き止まりだけ。

 その場所には窓すらなく、蛍光灯もないのに何故か不自然に明るい。

 流哉は扉を開かず、突き当たりの行き止まりまで進み立ち止まる。


「誰も、入っていない、みたいだな」


 突き当たりの壁を念入りに確かめ、壁に触れる。その瞬間、壁に模様が浮かぶ。

 形を持つ模様でもなく、円が描かれている訳でもなく、不可解で歪な模様が回る。

 魔法陣が円でないこともあるが、この模様は意味を悟らせないよう歪んでいる。


「さあ、主の帰還だ」


 歪な模様は流哉の言葉に反応するように、模様は複雑に絡まり合い、別の模様へと変貌する。

 紋様は円へと変化し、歪な線は意味を持つ線へと変貌(へんぼう)していく。

 円は正しい位置へ、文字は正しい列へ、線は星へ。

 歪な模様は意味を持つ魔法陣へと変わる。

 完成した魔方陣には文字が刻まれ、光輝き弾ける。

 光が治まると壁だったところはパズルのように組み変わると重厚な扉へと変わる。

 重そうな音を立てて扉は開き、主を招き入れる。

 流哉が部屋に入るなり、待ちわびていたと言わんばかりに自然と明かりが灯り、部屋全体を照らす。


 二階ホールの中央扉の奥、行き止まりの壁の向こう側。魔術で隠された扉の先こそ流哉が受け継いだ祖母の部屋だ。


 室内に入るとまず目に付くのは取って付けたように置かれているベッド。この部屋の中の時代に合わない最新式の寝具。

 ベッド脇にサイドボードが一つ。これもこの部屋に溶け込まない最新のインテリア。


 祖母が使っていた年季の入った机。名のある文豪や貴族が愛用したような書斎机はマホガニー製、机の上に置いてあるケースの中には祖母が使っていた万年筆が整然と並べられている。


 深みのある赤褐色のワードローブと古めかしい大きな箪笥(たんす)がそれぞれ一つづつ。

 深みのある赤褐色のワードローブは書斎机と同様にマホガニー製で、中にはロンドンへ行く以前の流哉の私服や私物が収納されている。

 古めかしい箪笥は桐製のもので、豪華な金具使いに錠前も付いており、一目では見抜けないが巧妙な絡繰(カラクリ)が詰まっている。


 本来は一部屋というにはおかしなほどに広い一室をそう感じさせない原因は、壁に並んだ威圧感のある本棚とそれに入りきらず乱雑に積まれた大量の本だ。


  キャビネットとサイドボード。共にマホガニー製で、ガラスの扉が取り付けられている全く同じ作りの物。

 サイドボードの中には重厚な辞書のような本がギッシリと詰まっている。本の背表紙に書かれているタイトルは、『レシピ本』、『美味しい紅茶の淹れ方入門』、『ソロモン王の鍵』、『レメゲトン』などで、背表紙のない羊皮紙らしきものでできた本も乱雑に突っ込まれている。

 グリモワールと呼ばれる魔術書の写しや希少な書物の写しが収められているが、これらは魔術に関わりのあるものではなく一般社会に出回った物。

 おそらく祖母が趣味で集めたものだろう。

 流哉の背丈ほどか、それよりも大きいくらいのキャビネットの中には紅茶を飲む際に使用するティーセットやカップが収められた棚、コーヒー豆を挽くためのミルとマグカップが収まららた棚、何も入っていない棚。

 祖母の持ち物ではなく、貰い物や流哉が適当にしまったものが入っている。ロンドンで集めた紅茶の茶葉やコレクションを並べるのに丁度良さそうだ。


 そして、自己主張を激しくする不自然な扉。


「オレが出て行った時のままだな。

 さてと、早速祖母さんの手紙に書かれていた事を試すとしますか。今の内にやれるだけの事を済ませるとしよう」


 ロンドンを出るときに葛城重実(かつらぎしげざね)から渡された筒に入っていたのは亡き祖母から自分へ宛てられた古い手紙だった。

 見た目は古いが、特殊な魔法がかけられており、見た目ほど中の物は古くなく、封をしてある蠟(シーリングワックス)に血液をたらす事で封印が解ける仕掛けになっている。

 それは血族意外には封を開く事も文字を認識する事も出来ない。

 血の繋がりこそが鍵となる祖母から自分へ宛てられた特別な魔法。

 

 手紙を大切に携え、不自然なまでに自己主張をする扉に手をかざす。

 鍵が外れる音とともに扉は開く。その先は本当の意味で祖母から譲り受けた部屋だ。

 扉一枚を隔てた部屋は“魔法使い”の部屋。

 円状の室内にはまたも扉が三つ。

 開け放たれた三つの扉の其々(それぞれ)から覗く景色は、図書館のような場所、宝物庫のような場所、薬草畑のような場所。

 現実に存在する場所でない事を物語っている。

 流也が部屋の中心に立ち、右手で宙を払うと、彼を中心に魔方陣が広がった。


「さてと、一応手紙の通りに進んでいるから間違えてはいないのか。

 あとは所有者の登録変更のキーワードを読み上げるだけみたいだ」


 亡き祖母が残した手紙には部屋の使い方が事細かに記されていた。

 そこには部屋全体の支配の仕方から、全ての魔導器、設備の所有者の登録変更の仕方へ及んでいた。


「キーワードは、“月の下に全ての魔は平伏す”っと」


 室内を目映い光が満たし、光が晴れると開け放たれていた全ての扉は閉まる。

 流哉はそれを見届けると入って来た扉を閉めて、自身のベッドへと向かう。

 ベッド脇のサイドボードの上に手紙を投げおき、そのままベッドへと倒れこんだ。


お読み頂き、ありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いします。

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