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24.燈華の覚悟『その拾壱』月光と魔法使いの蒐集譚《コレクション》

流哉の視点となります。

楽しんで頂けたら幸いです。


一週間連続投稿チャレンジ五日目。


シェニッツァーの表記が間違っていましたので訂正いたしました(22/9/7)

タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/04/15)

 薄暗い屋敷の一室。

 神代流哉は、重い溜息をついた。


 彼の目の前には、自身の宝物庫から持ち出してきた魔導器(まどうき)が、異様な輝きを放っていた。

 卓上に鎮座するのは、月光を宿すかのような耳飾り、星の輝きを閉じ込めた指輪、そして、深淵を織り込んだかのような織布。

 それらは、この世ならざる力を秘めた異物。


 流哉は、この招かれざる訪問者たち、冬城とうじょう燈華(とうか)たちを、一刻も早くこの場から立ち去らせ、日常へと回帰することを切に願っていた。

 

「さて、説明するのも折り返し地点か。

 次は何について話せば良いんだ?」


 卓上に広がる魔導器たち。

 それらが放つ異様な輝きは、この世ならざる光。


 流哉は、それらを見つめながら、次に何を語るべきかを思案する。

 下に引いている織布を選ぶ可能性は低いと思うが、それも確約ではない。

 残るは指輪か耳飾り、そのどちらを選ぶにせよ、その次はもう一方となるのは必然。

 そして、最後に残るは、最も説明が厄介な織布。

 流哉は、そうなることを、心の内で強く願っていた。


「決めました。

 次は、その耳飾りについて教えて下さい」


 大津おおつ秋姫あきが三番目に説明を求めたのは『月女神アルテミスの耳飾り』。

 能力と起源のどちらをとっても、先程のナイフとは比較にならない程の、圧倒的な格を持つ魔導器。

 そして、ほんの少しだけ流哉に縁のある品だが、そこまで詳しく説明する必要はないだろう。


「コレは何年か前、オレと友人が未発見の遺跡を探索し、その内部に形成されたダンジョンから発掘してきたものだ。

 月の女神を祭る廃神殿で発見したことから、『月女神の耳飾り』と名付けた」


 流哉にとって、遺跡探索は珍しいことではなかった。

 探検好きの友人に付き合い、幾度となく遺跡へと足を運んだ。


 遺跡とは、過去の神秘が眠る場所。

 その内部には、しばしばダンジョンが形成される。

 特殊な魔術を用いる必要はあるが、ダンジョンへの入り口を開き、流哉たちは中から希少な物を持ち帰る。

 魔法連盟の魔術師たちからは、探索者シーカーと呼ばれる者たちの特権である。


流哉(りゅうや)さんが、直接遺跡へ行って、発掘してきたってことですか?」


「意外か?

 友人にそういう場所を巡るのが好きな奴が居てな。ソレによく付き合っていたんだ」


流哉(りゅうや)さんの交友関係は広いんですね」


 秋姫(あき)燈華(とうか)にとって、流哉が遺跡へ赴くという話しは意外だったらしい。


 発掘と言えば聞こえは良いが、要するにあらゆる場所に忍び込んでは、所有者の許可を得ることなく持ち出すこと。


 墓荒らしだのなんだのと(ののし)られた回数も一回や二回ではない。

 偽りの所有権を主張する貴族に、魔導器を供出しろと脅されたことも珍しくはない。


 もっとも、そのようなことを口にするのは、実力を伴わない者たち。

 口先だけが達者な皮肉屋スピーカーか、血筋以外に何の取り柄もない貴族の出涸らしか。


「私にとっては、意外だったかな。

 流哉(りゅうや)君が、トレジャーハンターみたいなことをするなんて」


 燈華の言葉は飾らないもので、本当に意外だったという感情が、その声音から伝わってくる。


「そうだね。こういうことをする魔法使いは珍しいはず……もしかして、流哉(りゅうや)さんの言っていた『そういうのが好きな奴』って!」


 秋姫は、どうやら自力で真実こたえへ辿り着いたらしい。

 説明の過程で、ヒントを与え過ぎたかもしれない。


 それに反して、燈華は全く気付いていない。

 こんな様子で本当に流哉のいる側へ、魔術師や魔法使いが力を振るう世界に、裏側の世界に踏み込む気なのか?


「魔法へ至った実力者のクセに、墓荒らしの真似事を好んでやる変り者。

 私たち、魔法使いの中でも特に異端(いたん)とされる魔法使い。

 名前は……『ジョルト・ガレオン』だったかしら?

 魔導器(まどうき)を好んで使うことから付いた異名の『魔導器使い』の方が有名だけど」


 西園寺さいおんじ(つむぎ)は、当然のように知っていたらしい。

 もしかしたら流哉の交友関係もある程度は知っているのかもしれない。


 恐ろしい想像なんて、わざわざするモノじゃない。

 

「やっぱり、流哉(りゅうや)さんは『魔導器使い』と交友があったんですね!」


 もしかしたら、今までで一番、秋姫のテンションが高いかもしれない。

 魔導器を制作する錬金術師たちからすると、一番関わる可能性の高い魔法使いだからなのだろうか。

 ただ、それに答える必要はない。


「確かにジョルトとオレは友人だ。

 だが、アイツに関して、オレは何も答えるつもりはないぞ。

 ジョルトのことを知りたかったら、ジョルト自身へ直接問うべきだ。

 会える保証も、答えてくれる保証もないが」


「今回は諦めます」


「何度聞かれても、オレの答えは同じだよ。

 ジョルトのことを知りたければ、それはやはり、ジョルトへ直接問うべきだろう。

 あの捉えどころのない風のようなアイツを捕まえることができたら、な」


 秋姫(あき)から残念だという意思を感じるが、それはそれだ。

 魔法使いは契約でのみ行動する。

 ジョルトの事を知りたければ、流哉に頼むよりも、直接本人に問うた方が早い。


 流哉と契約を結んでまで情報を引き出すくらいなら、ジョルトを自力で見つけ出す方が、よほど効率的だ。

 

「ジョルトに関しては答えないが、耳飾りに関しては一度だけ質問に答えよう。

 今まで通り何かを聞くつもりではいるんだろう?」


 今回、流哉のコレクションを見せているのは特例だ。

 燈華に魔導器というモノを知るきっかけを作ることで、周り巡って冬城(とうじょう)の魔法使いの二人に借りを返すことになる。


 それに……魔導器を甘く見ているといつか痛い目を見る。

 前もって強力な能力を持ったモノがあると知っていれば、よほど自信過剰な馬鹿でもなければ、油断する可能性は低くなるはずだ。


「そうですね……これもランクと能力を教えてもらえますか?」


 ランクはしっかりと伝えるとして、能力を教えるとなると……それは宝物庫にしまってからでも遅くはない。

 宝物庫へ続く扉、波紋を生み出し、その中へ耳飾りを入れて閉じる。


「ランクはもう勘付いていると思うが、『神代(レイジ・)(オブ・)幻想(ファンタズマル)』だ。

 能力は、この装飾品を身に着けている女性が『月の女神アルテミス』の加護を得られる。

 簡単に言えばこんなところだ」


 簡単に、そして簡潔に説明を終える。

 この魔導器に関して、深く話しても意味がない……と、言うより、流哉ではこの魔導器の本質を語ることはできないということだ。


 男である流哉が、女性しか加護を得られない能力を説明するのは、無理がある。

 真偽を確かめる為、実際に身に着けたことはあるが、結果として、加護は得られなかった。


「あれが本物の『神代(レイジ・)(オブ・)幻想(ファンタズマル)』なんですね。

 ナイフ以外は、絶対にそうだと思っていただけに、実物を見ることが出来て嬉しいです。

 能力に関しては……流哉(りゅうや)さんに聞いてもダメですよね?」


 秋姫の瞳は、本物の秘宝を目にしたことで、輝いている。

 魔術師が、太古に失われた魔術や魔法を求めるように、錬金術師にとって、『神代レイジ(オブ)幻想ファンタズマル』に位置付けられる魔導器は到達すべき目標を、実際に目にしたのだ。

 それで火がつかなければ、才能以前の問題を抱えているだろう。


「そうだな。一応、身に着けて真偽を確かめたが、オレには何の加護も与えられなかった。

 まあ、元々はアルテミスへ捧げられたモノらしいから、男に効果がないのは、仕方ないことだろう」


 魔導器をただの道具としかみていないのであれば、それは大きな間違いだ。

 ランクの低い魔導器であれば、使用に対する制限はないだろうが、上位のランクに位置付けられる魔導器は、魔導器が自身を扱うのに相応しい担い手を選ぶ。


「いえ、実物を見ることが出来ただけでも、錬金術師冥利(みょうり)に尽きると言いますか。

 まだまだ未発見の魔導器はあるものなんですね」


 秋姫(あき)はおおむね満足げだ。

 効果の有無よりも、実物の『神代(レイジ・)(オブ・)幻想(ファンタズマル)』級を見たという結果の方が、彼女の中で大きいのだろう。

 

「私も一つだけ聞きたいんだけど、良い?」


 燈華(とうか)も何かが気になるらしい。

 的外れでなければ答えようと思うが……


「内容による」


「私が気になるのは、効果を確かめられないのに、連盟はどうしてそれをランク付けできたのか。

 それだけだよ」


 至極まともで簡素な疑問だった。


「ランク付けをしたのは、連盟の代表を務めるシェニッツァーだ。

 効果の詳細を、オレはあの人にだけ教えてある。

 そして、その内容を口外しないという事を、契約で結んでいる。

 双方に相応のペナルティが科せられる契約だ」


「能力を知っているけど、教えることは出来ないってこと?」


「そういうことになる」


 燈華は、少しの間考えると、再び口を開く。

 流哉は、何を聞かれても良いように身構える。

 変な質問で、それが契約の穴をつかないとも限らない。


「じゃあ、聞き方を変えるね。

 流哉(りゅうや)君はどうやってその能力を知ることが出来たの?」


 コレは、微妙(ぜつみょう)な線だ。

 まさか、燈華の質問に答えることが、危険な綱渡りになるとは、想定していなかった。


 単純に答えないという選択肢もある。

 しかし、ソレを選択するのは流哉としてはありえない。

 逃げの一手を打つ気はない。


「効果を知ることが出来たのは……オレ自身がアルテミスとは少なからず縁があるからだ。

 これ以上は、何も言う気はないぞ」


 燈華はその言葉で納得したのかは分からないが、それ以上聞いてくることはなかった。

 とりあえず、三つ目の魔導器への質問は終わりだ。

 残すは、あと二つ。

 何事もなく終わってくれれば良いが……

今回の話し、どうでしたか。

話しの折り返し地点で新たな魔法使いの名前が出てきました。

流哉の友人でトレジャーハンターもどき。

流哉もトレジャーハンターのようなこともやっていた模様です。


※三上堂司からのお願い※


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

読者の皆様へ筆者からのお願いがございます。

本作を読んで、「面白かった」「続きが気になる」等、少しでも思って頂けましたら、

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これから物語を書き続けていく上でのモチベーションに繋がります。

今後ともよろしくお願いします。

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