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23.燈華の覚悟『その拾』歪な聖剣、蒐集家の憂鬱

流哉の視点となります。

楽しんで頂けたら幸いです。


ブックマークありがとうございます。

とても嬉しいですし、励みになっております。


タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/04/15)

 大津秋姫おおつあきからの質問に答えている内に、話しの本筋から逸れ始めていることに、神代流哉は気づいた。

 霧の中、幽霊に誘われるかのように、自然と、違和感を感じさせることなく迷わせる。


 ここまでの話術があるというのは、流哉にはとって意外であった。

 錬金術に携わるものの多くは無口であり、秋姫もその例から漏れないと思い込んでいたことに気づいた。


 肝心の冬城燈華とうじょうとうかに至っては、話しの理解に時間がかかっているのか、流哉が言った話しの中から単語のようなものを抜き出して呟いている。

 彼女の瞳は、懸命に書き留めたノートの上を、書き留めた流哉の言葉を追いかけていた。


 このままでは、燈華の為にならない。

 流哉はそう判断し、話を切り上げることにした。


「さてと、オレの剣に関してはもういいかな?」


 流哉は、秋姫に問いかける。

 その言葉の意図に、話を終わらせたいという意志はわずかながらも込めて。


「はい。貴重なものを見せて頂き、ありがとうございます」


 秋姫は、礼儀正しく、お辞儀を交えながら答えた。

 その瞳から、まだ名残惜しいという意思は、ハッキリと感じ取れた。


「じゃあ、コレはしまうとしよう」


 流哉は、そう呟くと、鍵の力を使い、倉庫へと繋がる門を開いた。

 空間に波紋が広がり、その歪みの中へ愛剣を収める。

 剣を飲み込むと、波紋は自然と治まった。


「あ、流哉君。私もさっきの剣に関して質問してもいい?」


 我を取り戻した燈華が、慌てて声を上げた。

 既にしまってしまった剣に関しての質問となると、断っても良いはず……だが、燈華は駆け出しの半人前だ。


 もう一度出して欲しいってこと以外なら、応じるとしよう。


「何を聞きたいんだ?

 もう一度出して、見せて欲しいってお願いなら却下だ」


 流哉は、燈華に釘を刺した。


「そういうのじゃなくて、単純な疑問だよ。

 流哉君はさっきの魔導器を剣って言っていたけど、見た目は剣よりも棍棒とかに近いよね?」


 燈華は、素朴な疑問を口にした。


「ああ、そのことか。

 アレの中身は竜の牙を加工して作り上げた剣なんだが、切れ味が鋭すぎて鞘を選ぶんだ。

 詳しい説明は省くが、結果として、同じ竜の骨を加工したものが鞘の位置に収まったんだ。

 だけどな……あんな見てくれでも限界まで削ったんだ。あれ以上削り出すのは、人の領分では不可能だってほどまで。

 それで、出来上がった見た目が、アレだったわけだ。

 歪な見た目だが、あのまま振り下ろして叩き潰すっていう使い方もできる」


 流哉は、剣の特殊な構造を説明した。

 そこには歪な形である必然性も、そうデザインしたという理由もない。

 完成したら見た目が悪かったという、どうしようもなくくだらない理由を。


「そんな話し、聞きたくなかったよ……そ、それにしても、流哉君の魔導器は珍しいものだよね。

 コレは残りも期待して良いのかな?」


 燈華は、少しばかり顔をしかめ、言葉に詰まりながら言葉を返した。

 そういうものである、確かな理由が欲しかったのだろう。

 しかし、残りの魔導器への期待だけは失わなかったようだ。


「期待をするのは自由だから、まあ、勝手にしてくれ」


 流哉は、燈華の言葉を適当に受け流した。


 さて、次に選択してくるものは何か。

 秋姫の選択を待つ。


「流哉さん、決めました。

 次は、一見何でも無さそうな、この『ナイフ』について教えてください」


 秋姫が二品目に説明して欲しいと選択したのは、「未解決殺人事件の犯人が使っていたナイフ」だ。

 特別な品ではない為、特に説明をするようなものではない。


 まあ、流哉にとっては何でもないものでも、燈華たちにとっては意味のあるものかもしれない。


「これは連盟の倉庫から持ち出したものだな。

 連盟からの依頼の対価として受け取った物だが、まあまあ面白いものだよ。

 連盟のリストによるとこのナイフは、『未解決殺人事件の犯人が使っていたナイフ』という名称で登録されていた。

 いちいち名称を言うのは面倒だから、以降はナイフとしか言わないからな」


 流哉は、ナイフの由来を説明した。

 未解決となった殺人事件で使われた凶器。

 魔術の効果を高めるような効能があるわけではない。

 錬金術によって生み出されたわけでもない。

 魔術という神秘の側面だけを切り取るのであれば、このナイフはそこら辺にある大量生産品と同じだ。


「殺人犯の使っていたナイフですか?

 失礼ですが、ソレが魔導器として認定を受けたというのは理解できないです」


 秋姫は、率直な疑問を口にした。


「普通のナイフだったら、秋姫あきの言う通り認定はされなかったと思う。

 コレは一つだけ、面白い効果を宿している。殺された被害者の無念を吸い上げるっていう、これだけの能力を秘めている。

 簡単に言うと、殺した人の魂を吸い上げて力を増していくだけのモノだ。

 殺人鬼、御用達ごようたしって言ったところか」


 流哉は、ナイフに秘められた特殊な能力を明かす。

 殺された者の無念を宿す、端的に言えば呪いを蓄える。

 魔術師全体が求めるというよりは、呪術を扱う一部の神秘に傾倒する者たちが求める『呪われた』一品だ。


 燈華の表情から読み取るに、ドン引きしている。

 分かるよ、その気持ちは分かる。

 呪われたナイフなんて見せられても困る代物だ。


「これの良さが分からないなんて……燈火トウカ、勉強不足よ」


 真っ先に口を挟んだのは、意外なことに西園寺紡さいおんじつむぎだった。

 魔法使いでなくとも、ごく一部の『何か』を使役している魔術師ならこのナイフの持つ意味を把握するのも早いだろう。


「どういうこと?」


 燈華が、怪訝けげんそうな表情で紡に尋ねた。


「このナイフは、『魂をストックしておける』ということよ。

 私のように霊体ゴーストを使役するタイプの魔術師にとって、魂という膨大なエネルギーは喉から手が出る程欲しいわ。

 このナイフで止めを刺すだけで魂を確保できるなら、それほど簡単な手段はないもの。

 少なくとも、そのナイフは私にとって欲しいものだわ」


 紡は、「欲しい」とハッキリ言い、ナイフを見つめる視線が変わる。


 ナイフは早々に宝物庫へしまった方が良いだろう。


「「あっ」」


 燈華と秋姫はまだ見ている最中だったらしく、残念そうな声をあげる。

 誰の手も届かない所へしまい込んでおかなければ、魔法使い相手に安心はできない。


「あら、残念」


 紡が、残念そうに言った。

 その物言いとは裏腹に、表情も仕草も、何一つ残念とは思っていなさそうである。


 勇み足だったか、それとも紡の手のひらの上で踊らされたか。

 どちらにせよ、食えない相手であることに変わりはない。


「かすめ取られる訳にはいかないんでね」


 流哉は、紡に警戒心を隠さずに伝える。

 こんな言葉一つで魔法使いが揺れることなどない。

 こんなものは、単なるジャブのようなものだ。


「そんなコソ泥のような真似をするわけがないでしょう?」


 紡は、流哉の皮肉に心外だと言わんばかりに返した。

 やはりこの程度の皮肉で乱れるような精神はしていないということだ。


 しかし、流哉は魔法使いを相手にして油断はしない。

 流哉が油断をせずに相手をするのは、今まで魔法使いだけだった。

 それが結果として燈華に捕まった原因だ。


「さてと、ナイフに関して何か聞きたいことはあるのか?」


 流哉は、燈華と秋姫へ形式だけの質問をした。

 特別なものではない以上、錬金術への造詣ぞうけいが深い秋姫がそこまで興味を持つとは思えず、燈華に至っては忌避しているようにさえ感じる。


「実物をまだよく見て無かったけど、呪われそうで嫌だから私は特にないよ」


 燈華は、予想通りの反応を示し、ナイフを嫌悪するように言う。

 秋姫はというと、少し違うようだ。

 質問する内容を吟味しているのだろうか。

 残念ながらその思いに流哉は応えるつもりはない。剣の時と同じく、いくつも質問に答えるつもりはない。


「特にないなら次に進むが?」


 流哉は、秋姫に尋ねた。


「待ってください。うーん……決めました。

 そのナイフへ与えられたランクと、どういった経緯で魔導器になったのかを教えてください」


 秋姫の質問に、そのくらいなら良いかと思ったが、経緯の説明ってどこまでだ?


 一から十まで全ての説明なんて流哉はできない。


「先に言っておくが、全てを知っている訳じゃない。経緯は知っている範囲で簡単に、それが条件になるが……良いのか」


 流哉は、秋姫に確認した。


「はい。私はそれで構いません」


 秋姫はどうやら聞きわけが良いらしい。

 流哉としてはありがたいから何も言うことはないが。


「このナイフのランクは『製作物』、下から二番目だな。

 経緯だが、知っている範囲で言うと……昔、実際に人殺しで使用されたナイフらしい。

 未解決と着いていたことから、事件は人の手によって解決されなかったのだろう。

 未解決事件の被害者、その無念が怨念になり、ナイフに宿ったという話らしい。

 まあ、簡単に言えば、呪われたことによってただの道具が魔導器へ変貌した、ということだな」


 流哉は、ナイフのランクと経緯を説明した。

 わざわざ言い直したのは、秋姫の奥で味のある表情を浮かべている燈華のため。


 理解しやすいように言い直してやったというのに、肝心の燈華の表情はゲテモノでも見るかのように忌避感を隠そうとしないモノだった。


「魂のストック機能とは、どう結び着くんですか?」


 秋姫が、質問した。


「怨霊が魂を道連れにする為に蓄える……らしい。

 蓄えた魂は取り込まれて能力が強くなると連盟は判断したが、オレはその魂を横取りする方法を見つけた。

 だから、オレはあのナイフは狩った魂をストックするモノとして使っている」


 流哉は、ナイフの魂のストック機能について肝心なところははぐらかして、耳障りの良い解答こたえを交える。

 用意した結末へ誘導するのは簡単なことだ。


 ナイフの質問に答えるのはコレが最後だ。

 これ以上は何も答えない。さっさと残りの説明に映って行くとしよう。

今回の話し、どうでしたか。

『呪われたナイフ』なんていうあからさまなモノが出てきました。

流哉にとっては便利な道具程度の扱いになっています。

ナイフに関しては、今回の話しで終わりです。

次話はまた別の魔導器の話しになります。


※三上堂司からのお願い※


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

読者の皆様へ筆者からのお願いがございます。

本作を読んで、「面白かった」「続きが気になる」等、少しでも思って頂けましたら、

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今後ともよろしくお願いします。

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