旅の終わり、あるいは現実の始まり
民衆の歓声に包まれ、大通りを進んでいく。普段より高い視点から、騒がしい王都を見回した。ようやくここまで来たか、という安堵が9割方、残りは満足感とか今後への期待とか、ごちゃごちゃしたもので心が埋まっている。とはいえ、俺よりも、俺以外の皆の方がそういった想いは強いのだろう。
だからこそ今日この日だけでも、俺は胸を張っていないといけないのだ。アンダルタ王国における魔王討伐記念パレードの主役、勇者カナタ・ミズグチとして。
空が無数の星で満たされる頃に、ようやく解放された俺は、王宮の客室に戻った。パレードが終わってからも、宴やら挨拶やらで精神的に疲弊していて、睡眠欲が膨らんでいる。
部屋の扉を開けると、先客がいた。窓際に座っていた彼女に声をかけられ、眠気が吹き飛ぶ。
「お疲れ様でした、カナタ様。」
彼女はアンダルタ王国第二王女マルカ。俺がこの異世界に来て最初に見た人間で、それ以降、彼女ほど美しい女性を見る事は無かった。
この国の人々の願いによって、俺は召喚された、そう彼女は言った。初めは何の事だが訳が分からなかったし、正直混乱していた。それでもこの国の為に、人々の為に勇者として立ち上がった理由は、一目惚れ、ただそれだけ。
悪しき魔王が現れ世界を滅ぼさんとする時、それを打ち破るのが勇者の存在である。その伝承に則り魔王討伐の旅に出た俺は、数多の魔族を倒して回り、遂には魔王の討伐を果たした。
旅に出てからは彼女と会う機会は無かった。電話なんて便利な物もないし、個人的な手紙も王族相手には禁止されている。魔族から救った村で、村長の娘から迫られる事もあった。宿で寝ている時、旅の仲間がベッドへ潜り込んできた事もあった。そんな誘惑を全て撥ね退けてきたのも、偏に彼女がいたからだ。
「カナタ様、どうか今宵こそは、私を貴方様だけの物に。」
そう言って彼女はベッドに腰掛ける。さっきから、胸の鼓動が鳴りやまない。待ち望んでいた事だけど、急すぎるんじゃないかとも思う。言い訳がぐるぐると頭を揺らす。結局心の天秤は、流れに身を任せる方に傾いた。
「マルカ、俺も君の事が。」
感情のまま、彼女の胸に手を伸ばす。
その瞬間、障壁の様なものに手を拒まれる。そこには日本語でこう記されていた。
【プレイエリアの外です】
俺はさっとVRゴーグルを外し、ふて寝した。
という訳でVRモノ。
本文中の言葉は、本来の意味とは違うけど、そういう意味でネタとして使われがちなのでそのままです。