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世界中から死を願われる人

作者: 無二エル

「あれ?・・・私、死んじゃったの?」


暗闇の中

先の見えない漆黒の海の中を2つの光が漂っている

一つは自分

もう一つの神々しい光は人間とは違う別の何かだと言う事を『エリカ』は瞬時に理解した


「・・・それが、君の願いだったんじゃないのかい?」

「で、でも、リストカットくらいじゃ、そんなに簡単に死なないって」

「・・・・・・」


私は手首を切った

別に、今に始まった事じゃない

繰り返し、繰り返し続けて来た事だ


「・・・ついに、君は見放されたんだよ。近しい人達にね」

「えっ・・・」


何時間前くらいに手首を切っただろうか

ここでは時間感覚があやふやでハッキリ思い出せない

ふと、自分の手首に目線を移す

・・・傷が無い

と言うかぼやけてハッキリ見えない

最初に自分が死んだのではないかと考えたのは、体が透けていたからだ

自分の体が幽霊のように見えたからだ

そして目の前に居る異質な存在

この存在が現実とは違う別の何かだと直感で解った


「・・・貴方は」

「神だよ」

「か、神?・・・わ、私、これからどうなるの?」

「・・・・・・」


何も言わない

ふと、自分の中にある考えが浮上して来る

殻に閉じこもりがちだった私の、唯一の拠り所だった創作物の事

媒体は様々だが、その全てに共通していることがあった


---異世界生活---


ふと、高揚感が自分の中に湧き上がって来る

私があの世界に?

現実の辛い事をリセットしてやり直せるの?

自分の顔がほころんで行くのが解る


「そんな、上手い話がある訳無いじゃないか」


私の考えを見透かしたように神が呟く


「自分の命を大切にしない『君』なんかに新しい命を与えたところで」

「え?・・・じゃ、じゃあ、私は・・・」

「それより僕は君に後悔させに来たんだ」

「え?・・・後悔?」


大きく溜息を吐き、神が話し出す


「君の被害者の人達の事を後悔させる為にやって来たんだ。本当なら死んだ者のところへわざわざ来たりはしない」

「ひ、被害者って?死んだのは私でしょ?」

「死んだのは君だね。それが今回唯一良かった事さ」

「よ、良かった?良かったって・・・え?」

「いろんな人が君から解放された訳だからね。良かったんだよ」

「・・・意味分かんない」


何を言ってるんだ?

人が一人死んだのに

目の前の訳の分からない事を言うこの存在は本当に神なのか?

神なら死を悲しむものでは無いのか


「君に、その価値観は解らないだろうね」

「そ、そんな事・・・そんな事無いよ!も、もし、親友の琴音ちゃんが死んだりしたら、私、悲しいもん!」

「その、琴音の事から話そうか。まず彼女は君の事を疎ましく思っていた」

「・・・え?」


・・・何を言ってるのだろう

親友なのにそんな訳無いじゃないか


「彼女は今まで、君に散々邪魔をされて来たんだ」

「じゃ、邪魔?」

「時には授業中、時にはデート中、君が時間を選ばず手首を切り、その度にメールなりラインなり飛ばす物だから」

「で、でも、琴音はいつだって来てくれたよ?!」

「それは、罪悪感からだよ。携帯の履歴に残ってるんだもの。君が琴音に連絡した形跡がね」

「・・・・・・」

「脅しみたいなもんさ。もし、見捨てて君が死ねば、何故連絡を受けたのに君の元へ向かわなかったのかと、琴音は周囲がどう考えるのかが怖かったのさ」

「・・・で、でも、親友」

「親友だと思っていたのは君だけさ。最初はどうだったか知らないけど、迷惑ばかりかけてくる者が徐々にうっとおしくなって行くのは当たり前だろ?」

「え?・・・でも・・・変わらないって」

「変わらない友情の約束でもしたのかい?君はそれに甘えて迷惑をかけすぎたんだよ。そもそも若い女の子の未熟な約束なんかで縛られたりしたら、人生やって行けるもんじゃない」

「・・・・・・」

「それでも琴音は頑張っていた方だよ。彼氏に振られ、授業の単位を落としたりしながらね」

「!」

「でも、それが限界に来た。今、彼女のおばあちゃんが危篤なんだ。彼女は君からの連絡に気付いたけど携帯を壊したよ」

「!・・・」

「君なんかに構っている時間は無くなったんだ」

「・・・・・・」


・・・なんで?

私よりおばあちゃんの方が大事なの?

一生親友だって言ったのに・・・


「・・・まあいい、次に君の両親の話をしようか」

「両親?そ、そうだ、私両親にも連絡したのになんで・・・」

「見捨てられたんだよ」


そ、そんな!

たった一人の子どもなのに?

何かの間違いでは無いか?

きっと私の元へ来れない理由があったのでは・・・


「まず母親は言うまでもないね。君が手首を切る度にパートを抜け出し何度もクビになってるんだから」

「ぱ、パートなんて、すぐに新しいの探せば・・・」

「君は仕事を探す苦労がまったく解ってないよね。バイトもした事無ければただ親のスネをかじるばかりで」

「・・・・・・」


私は今19歳だ

高校を途中でやめ、昼は引きこもりの生活を送っていた

夜になると親の目を盗んでは外に出掛け、コンビニや公園に行ったりはしていたが


「父親は簡単に仕事を抜け出す事が出来ないから、母親に任せる他なかった。でも実際は君を心配するあまり仕事が手に着かず、ミスばかりしていたんだ」

「お、親だもの。子供の心配をするのは当たり前」

「父親の会社での立場は危うくなり、今は壁際で今後使うかどうかも解らないような資料の整理をする毎日さ」

「・・・?だったら、仕事を抜け出して、私の元に駆けつけてくれても」

「最初は心配だった。でもそのうち『またか』と思うようになったんだ」

「え・・・」

「当然でしょ?君は何度も手首を切った。死ぬならもっと確実な方法がいくらでもあるのに、あえて死ににくい方法を選んだ。それも色んな人に連絡をして助かる為の手順を踏んでいる」

「・・・・・・」

「死ぬ気なんて無いんじゃないか。次第に周りはそう思うようになっていった」

「・・・・・・」

「都合が悪くなると黙るんだね。何か反論してみたら?」

「!・・・そ、そんな、事無い」

「どういう意味?常に死のうとしてたの?だったら人に連絡するのはおかしいじゃないか。助けが来ちゃうじゃないか」

「・・・・・・」

「また黙るんだね。まあいいや、とにかく今回は君の願い通り・・・・・・、見事死ぬ事に成功した訳だ。


な、何を言ってるの?

人が死んだのに随分軽い

皮肉まで混ぜ込んでそんな言い方しなくても


「君はまるで被害者みたいな顔をしているね。加害者のクセに」

「え!?」

「だってそうでしょ?今まで散々迷惑をかけて来たんだから。君のせいで両親の夫婦関係も最悪だよ?じつはもう2人共離婚したいと思ってたんだ」

「う、うそ」

「でも、離婚するにしたって君の存在がネックだったんだよ。どっちが引き取る?あんな子を一人じゃ面倒見切れない。そうやってずるずる先延ばしになっていた」

「・・・・・・」

「ここ最近、両親は携帯を家に置いて出掛けていたのは知ってたかい?」

「え?!」

「両親は君からの連絡を受け取ってないよ。君から解放される為にあえて・・・そうしたんだけどね」

「!・・・」

「さて、君の被害者は他にも居るよ。中学時代の・・・」


神が何か言ってるけど、もう頭に何も入って来ない

私が・・・見捨てられた?

携帯を置いて?

私が手首を切ったという報告が届かない?

なんで・・・なんで・・・


「君の為に救急車の出動した回数が38回。彼らも被害者だよね。自己責任の怪我の為に出動させられるんだから」

「・・・・・・」

「お医者さんも可哀そうだ。どうせまた自分で傷つけるのに。治し甲斐が無いよ」

「・・・・・・」

「そしてそれらの負担は一部を除いて税金や健康保険で賄われている。こうなって来ると国民全体が被害者だね」


何を言ってるの?

意味が解らない

私が加害者?

いじめないでよ


「僕は神として心から思うよ。『君が死んでよかった』と」


何を言ってるの?

神様がそんな事言う訳無い

この人は違う

絶対神様なんかじゃない


「勝手な解釈をしてるのかもしれないけどさ。身勝手な人間を助けてやるほど神は甘くないんだよね」


そんなハズない

神様なら助けてくれるはず

皆が私を気に留めてくれるはず

誰か早く私を助けてよ・・・


「そうやって人に頼るばかりで自分で立とうとしなかった。君は生きてる時から死んでたんだよ」


もう何も聞きたくない

早くここから居なくなりたい

目の前の『誰か』の居ない場所へ行きたい

誰か、私を助け出して


「ふう、まあ言ってみたけど理解するのはやっぱり無理だったようだね」

「・・・・・・」

「時々生まれるんだよね。君みたいな欠陥品」

「!」

「ほら、人間も何かを製造する過程で不良品を作るでしょ?僕にとっては君はまさにそれだ」

「な、何を言って・・・」

「やっぱり解んないか。説明も全部無駄にする欠陥品には何を言っても仕方ないか」

「わ、私は・・・欠陥品なんかじゃ」

「もういいよ。忙しいのに時間を無駄にしちゃった。これから消える人間に言ってもしょうがない事なのに言わずにはいられなかったんだ」

「え?・・・・・・消える?」

「君は死んだんだよ?人間世界では色んな概念があるけど、死んだら消えるだけさ」

「・・・」

「じゃあさよなら。短い人生だったけどよくも無駄に使ってくれたね。君なんかの為に他の人の人生も狂ってしまった事が心残りだけど、君が居なくなることで少しでも修復に向かう事を神としては祈るばかりだ」


・・・・・・

そう言って、目の前の眩い光は消えた

・・・独りぼっち

え?私、こんな場所で独りぼっち?

ここはどこなの?

右も左も解らない

上か下かも解らない

だ、誰か助けて!


叫んでみても、帰って来る言葉は無い

誰にも届かない絶望感を感じる

そもそも自分が叫んでいるのかも解らない

こんな体で声が出ているのだろうか


体の色が更に薄くなった気がする

正確には自分の光が弱くなっていってるような

暗闇の中で定かではないが、自分の存在が薄くなってるような・・・

・・・・・・

・・・このまま消えてしまうのだろうか


考えるのも面倒になって来た

ああ、ここはひょっとして天国なのではないか?

想像とは違うけど

光も何も見えないけれど


もう、目の前が何も見えなくなった

自分の目が存在しているのかも解らない

ただ、身を任せ漂っているような感覚


ここがどこかも解らない

暗闇の中でエリカは消滅した

なんとなく衝動で出来上がった話

エタってるわけじゃないんだよ

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