西旅008.船底よ、俺は帰って来たぞっ!
現代シュパングにて過去の龍覇武士が乱世時代に成したことを正確に伝える物は存在しない。
単純に剣や槍などで戦ったと言う戦乱時代の記録が残るだけだな。
それは天帝様を長とする方々が決められ龍覇術にて人々の記憶から消し去った結果だ。
そらなぁ、簡単に都市1つを消滅できるような存在が彷徨いているって知っていたら安心して生活できんわな。
海外ではシュパング・サムライとして伝わっているみたいなんだが…
尾ひれ端ひれ付いた感じで大袈裟に伝わったことになっている。
うん、実体を捕らえた近い内容だったりするんだけれども、そんな化け物染みた存在が実在するとは信じられてはいないそうな。
これはシュパングから離れ、特に龍脈からも離れた場所へ行った者で龍覇武士のことを朧気ながらも思い出した者が伝えたらしい。
全く、迷惑な。
それでな、シュパングと言えばサムライと、な。
まぁ、芸者、須弥山、サムライって言われていて…なんで最後やねん。
とにかく、シュパングには鬼のように強いサムライが住んでいるっと外人達は信じているんだってよ。
いや、実際に一般人に紛れて存在するけどな。
だからな、剣士だと名乗った俺をサムライ扱いし始めた監視員達の目には畏怖の感情が見え隠れ。
いや俺、こんな若造よ、恐くない、恐くなぁ~い。
彼らの態度に戸惑っているとな、少女が告げる。
「あの~、よろしかったらですけれど…
先程の場所まで着いて来ていただけないかと…」
そうモジモジしながらな。
うや、なに、この可愛い子。
うむうむ、お兄さんに、まぁ~かせなさぁ~いっ!
「そうか…1人じゃ危ないかもしれないからね。
良いよ、一緒に行こう」
そう承諾してからだが、ふと気付く。
「あ、そう言えば名乗ってなかったね。
俺は矢鷹 龍秀。
藤乃宮学院大学の2回生で龍覇術 玖籐流系統の剣士さ。
夏休みを利用してシュリンプ旅行へ向かっている最中なんだ。
よろしく」
そう俺が名乗ると、彼女がワタワタして慌てたようにな。
「ご、ごめんなさいっ!
私はシェーラ・フォン・ロインカーナと申します。
シュランプ国立学校の1つフェリシアーナ学院の1年生です。
よろしくお願いします!」ってさ。
そしてな、一度離した手を再度繋いで握手、握手。
う~むぅ、若い子のお手手を握るのは結構緊張すんぞ、これ。
特にシェーラちゃんは美人系の可愛い子ちゃんでな。
幼さが残って愛らしくはあるんだが…絶対に将来は美人さん決定って感じだね。
互いの自己紹介が済んだ後、揃ってプールへと。
一応は準備運動を再度行ってから入水って感じでの移動となる訳だが、今度は監視員の1人が付き添いで同行ってな。
まぁ、同じミスを2回もしたら救われないだろーしぃ、仕方ねぇだろうよ。
監視員付き添いにて再びプールを潜って行く。
むろんシェーラちゃんを気遣いエスコートするのを忘れずにな。
まぁ俺は先程まで堪能していたし、だいたいシュランプの公園で浮遊しての空中遊泳にも慣れてっかんな。
だからシェーラちゃんを気遣っての移動っとなった訳だが…
秘かに龍覇術にて潜水補助を行ってたりな。
内緒よ、内緒。
水中を進んで船底から景色が伺える場所へと辿り着いた訳なんだが…エスコートとして握っていたシェーラちゃんの手がギュっと俺の手をね。
だから優しく握り返してあげた訳なのだが…
しかし、これ、凄ぇのな。
いや、何がってさぁ、船底から見える景色だよ、景色ぃっ!
ちょうど高山山脈の上空を飛行中だったみたいでな、険しく連なる山脈景色が眼下へと広がっている。
雪をいただく山々の連なりが日の光を反射してキラキラと輝き美しい。
その光が更にプールの水でキラキラって。
うん、こりゃ流石にシュパング公園での遊泳では体験できんことだわ。
水中に浮かび漂いつつ大パノラマを堪能する…こりゃ目玉と言える施設だと胸を張って言う訳だな。
俺が感動して景色を見ているとな、シェーラちゃんの限界が来たみたいなんだ。
彼女も感動していて、もっと見たかったみたいなんだけど、流石に息がねぇ。
監視員は既に耐えられずに浮上し、息継ぎして戻って来ているんだけれどもさ。
それについてシェーラちゃんが気付いた様子はない。
まぁ、それだけ魅せられる景色だってことなんだけれども…そろそろ浮上しないとな。
俺はシェーラちゃんを促して浮上する。
水面から顔を出した途端、シェーラちゃんは荒く息継ぎを始めたよ。
余程我慢してたんだろ~ねぇ。
「お2人とも凄いですね!
水泳の選手だったり?」っと。
監視員に問われ、キョトンっとするシェーラちゃんは潜っていた時間を教えられ仰天していたり。
ま、俺は素知らぬ顔で2人を見ているけどな。
さて、名残惜しいが、そろそろ上がるかね。
いやな、俺はまだ大丈夫なんだが、シェーラちゃんは体力的に限界だろう。
この侭で別れても文句は言われないだろうし、言われる筋合いはない。
だけどな、知り合った女の子、っと言うか弱き者を放置したなんてぇのは俺の矜持が許さん!
嘘です、格好付けました。
爺ちゃんに知れたら折檻案件なんです。
いや、折檻が恐いからじゃないぞっ!俺が送りたいと思ったからだかんなっ!
そこは間違えんなよな。
まぁ…折檻恐いのは否定せんけどさ、ぐすん。