西旅011.緊張のご対面なのれすか?
暫し待つと女性秘書と副官のような中年を引き連れたダンディな老人が現れた。
パリッとした白いワイシャツと薄いグレーのスラックス。
背広はスラックスと同様の生地だと思われる。
薄い青色無柄のネクタイを締め、茶色の革靴をカッカと鳴らしながらの登場だ。
う~むぅ、矍鑠と言うよりは現役?
シェーラちゃんのお爺さんと言うのだから50歳位では済まないだろう。
まぁ、後ろへ流した白髪でスラリとした体型と少し扱けた頬からは壮年と言うよりは年齢を感じられる風貌だとは言えるかな。
アイスブルーの瞳は切れそうな輝きを秘め、片方の目はモノクルと言われる片眼鏡を嵌めているぞ。
そのモノクルがキラリと光るとな、得も言えぬ威圧感を。
ううむぅ、出来る大人ってヤツの代名詞みたいな人が出て来たんだが、どう言う人だ?
女性秘書さんは赤髪ボアヘアの美人さん。
茶色って言うか金目に見える瞳に見られるとゾクッてなりそうだね。
ビジネススーツを身に纏い、ブリーフィングケースを小脇へと抱えつつ老人の後ろへ控えるように付き従っている。
うん、典型的なキャリアウーマン。
しかも、超出来るタイプの、だね。
この組合せだけだったらさぁ、何処かの企業会長とか思うんだけど…
副官ってしか言いようがない男性が追随してからさ、それが老人の正体を不明にな。
いやさぁ、明らかに軍人さんでしょ、アナタ。
軍服に軍帽を纏い軍靴を鳴らしつつ付き従う姿はエリート軍人のソレだ。
下士官レベルではなく上級仕官ではないかと思うんだけどさ、あの若さでは考えられぬ階位では?
いや、シュパングとは階級制度が異なるかもしんないかんな、もしかしたら俺が思っている階位よりも低いかもしんないけどさ。
俺は警官や軍人の階位には少しばかり詳しかったりする。
いや、シュパングのだけどな。
爺ちゃんに師事している者にはな、警察関連や軍関連の方々が多いんだよ。
その関連で要らん知識をね。
そして俺が知る知識で鑑みるに軍人さんの階級は高いと思うんだ。
そんな軍人さんを引き連れてる爺さんが民間企業の役員レベルだとはなぁ。
どう言う人なんだろね?
姿を現した老人が階段を降りて来るな。
うん、背筋も伸びて動きに無駄がない。
皺も目立たないから少し痩せ過ぎで白髪って言う以外に老人の特徴が見当たらないんですけれどね。
その老人達が俺が待つフロアへと降りて来て告げる。
「ふむ、孫娘が世話を掛けたようだね。
しかも溺れ掛けた所を救ってくれたのだとか?」
「いえ、偶々居合わせただけですので、お気になさらずに。
あの景観は必見の価値はありますが…なにせ潜水して観ることになりますから危険もありますね。
それに潜ると言うのは思った以上に体力を消耗しますから…」
そう告げてね抱えているシェーラちゃんへ視線を落とす。
「ふむ、シェーラは眠っておるのか…
おお、そう言えば名乗ってなかったな、失礼。
儂はネクロイド・フォン・ロインカーナと言う。
休暇にて当船を用いて旅行などをしておる途中なのだよ。
まぁ…旅行に託けて視察などを押し付けられたりしておるがな。
年寄りを扱き使いよるで、困ったものよ。
折角のシェーラとの旅だと言うに、仕事で構って遣れぬでな。
船内なれば危険はないと思っておったのだが…本当に助かったわい」
現れた時は険しく険しい表情だったロインカーナ老人は、シェーラちゃんの寝顔を見て緩んでいるな。
うん、孫娘は可愛いんだろう。
何処にでもいる孫馬鹿老人と化してしまっているんだけれど…最初の威厳は何処行った?
「いえ、先程も言いましたけど、偶々居合わせただけですから大したことはしていませんよ。
そうそう、僕も名乗ってませんでしたね。
僕の名は矢鷹 龍秀と申します。
藤乃宮学院大学の2回生で、夏休みを利用した旅行の最中なんです。
最下層のプールへ潜ってましたらねぇ…
まぁ、そのお陰でシャーラちゃんと知り合った訳ですけど。
ああっと、それよりもシェーラちゃんをお返ししたいのですけれど…
見知らぬ若造が大事なお孫さんを抱えているのは不快でしょうから。」
いや、別に抱えているのがキツいとかではないぞ。
シェーラちゃん位の体重を支えるなら1週間でも1ヶ月でも楽勝だかんね。
けどさ…乙女の柔肌って感触と、おんにゃの子の馨しい香りがががががっ!
俺の様子を伺っていたような秘書さんが老人に耳打ちしてんだけどさ…えっ?もしかして…ギルティ?
『完全に善意と思われますわ。
思春期の男の子が感じる戸惑いを感じますから…初々しいですわねぇ』っと。
いやいやお姉さん?俺っち耳が良いかんな、聞こえてんよ。
いやね、龍覇剣士たる者、その五感も龍力制御にて鍛え上げてんからさ。
こっ恥かしいから止めてけろっ!
「ふむ、シェーラも気を許してスヤスヤと眠っておるようじゃ。
なれば迷惑であろうが部屋までシェーラを運んで貰えぬだろうか?」ってさ。
って、い゛っ?
「いや…そのですね。
俺は一般船室の乗船客なんで、この先に行く権利は有してないんですけれど?」
何を言ってんだよ、爺さんっ!
「いやいや、儂が借り受けておる部屋へと招くのじゃて問題はあるまい。
のぅ?」
いやさぁ、ギロンヌって階段を見張る船員へ視線を。
「ハッ!閣下の賓客として申し送ります!」って敬礼をな。
っか…爺さん、アンタさぁ、何者?
船員が応えると爺さんがニコリとしてな。
「よろしい、では、そのように。
それではリュシュ君、行こうか」
機嫌良く告げられた提案には拒否権って物が存在していないような…
さいですか?
行きますかねぇ…




