西旅001.そうだ、旅に出よう!
キャスター付きのキャリーバッグを引きつつ自動ドアの前へと。
その明度の高いガラス板製ドアが左右に別れ外界へと戸口を開くと…途端にムワァッと襲い来る熱気。
思わず眉を潜めつつ自動ドアを潜り建物の外へと向かう。
自国であるシュパングより此処フィリフィーナとは転移ゲートなる物にて繋がっている。
いや、碧海中央に存在するシュパングと碧海に隔たられ存在する国々は、っと言った方が正しいか。
そして此処フィリフィーナへと赴くためにシュパング転移ゲートを用いてフィリフィーナ転移ゲートが設置されたフィリフィーナ転移ターミナルへと転移。
そして、その転移ターミナルビルより手続きを経てフィリフィーナの地へと出た訳だが…
碧海中央とは言え緯度的には赤道よりは北に位置するシュパングに比べ赤道に近い場所へと存在するフィリフィーナはシュパングより遥かに暑い。
その熱気は湿度を伴う蒸し暑さであり同じく夏を迎えたシュパングに比べて過ごし易いとは言えないであろう。
そんな過ごし難い時期に此処へ赴いたのは…此処が西の国へと向かう飛空ターミナルが存在するためである。
シュパングから碧海を隔てて存在する周辺諸国に於いては転移ターミナルにて移動が可能であり、その使用料はシュパング人に限っては免除されている。
なにせ転移の元となる龍脈は碧海海底を這うように存在するが、全てがシュパングを経由して繋がっていると言う経緯が存在するからな。
この龍脈と言うのは海底にしか存在しない代物であり、その力を導き出して扱う術に長けた国はシュパングだけだと言えるんだ。
本来は龍脈を使用した転移や結界などの技術を精密に扱えるのはシュパングのみであり、龍脈を使用した転移が可能なのは碧海周辺諸国のみなのだよ。
真似をした劣化転移を西洋の紅海にて運用されているとは聞いてはいるが、無機物を数日に1度転移可能かどうかレベルらしい。
そして東洋の碧海での管理と維持はシュパング政府にて行われているのが現状であり、他国は、そのサービスを使用しているに過ぎないのだから…
そして紅海に黄海や翠海に面する国々から転移ターミナル設置の要望がシュパングへも都度なされているそうな
まぁ、シュパング政府が要望に応じて転移ターミナルの設置を行う様子はないみたいだけどな。
そんな龍脈の集積地であるシュパングは龍脈の力を得て発達した独自の文化を持つのだが…まぁ、今は関係ない話なので割愛としよう。
そして、そのようなシュパングから転移ターミナルを使用して隣国に赴くシュパング人は多いが、転移ターミナルが使用できない他国へと赴く者は少ないと言える。
なにせ転移ターミナルにて訪れることができる国は多く、それらの旅費は只と言う環境なのだから…
そんなシュパングに生まれた俺だが、大学2年の夏である今、夏休みを利用して西洋諸国が存在するユーロッパへと旅行する事を思い立ち実行に。
そう、俺が現在転移してフィリフィーナ転移ターミナルよりフィリフィーナへと出でた経緯っうヤツだ。
この度はシュランプと言う国がターゲットなんだが…まぁ、料理が有名で美術館や史跡も多く観光に良いと思ってのチョイスなんだよ。
そしてシュランプへと向かう飛空挺の発着ターミナルが存在する国は複数存在するが…ブッチャケ飛空チケットが一番安いのが此処だったって訳だ。
バイトなどで旅費を稼いではいたが…正直学生の貧乏旅行に過ぎない。
そんな俺が西洋諸国へと赴くには格安チケットが使用できる事が前提となる訳さ。
何故だか…そんな解説めいたことを思いつつ飛空ターミナルへと続く陸橋をキャリーバッグを引きつつ移動。
転移ターミナルビルと飛空ターミナルは道路を挟んで隣接している。
その建物同士は2階から陸橋により繋がっているのだが…屋根は存在するが屋外となっており、モロに外気に晒されることと。
いや…此処も密閉して空調を…って思う俺は間違いではない筈だ。
幾らシュパング人が龍力を扱うてぇのに長けていて、そん中でも龍覇剣術に属する流派で玖籐流を学んだ俺なんざ特に龍力てぇのを操るのに長けてはいるさ。
だがなっ!暑ぃもんは暑ぃんだよっ!
そんな不満を内心でブチブチ言いつつ飛空ターミナルへと向かっているが、未だに玖籐流の当主を張っている爺ちゃんに知れたら豪いことになりかねんから面には出さないがな。
壁に耳有り障子に目有り、些細な隙にて爺ちゃん察するってなぁ、クワバラ、くわばらってね。
暑苦しい思いをしつつ漸く飛空ターミナルへと辿り着いた俺は、早速、受付カウンターへと向かう。
ちょうど人が捌けたようで受付カウンターには人が居ない状態だった。
空調が効いた飛空ターミナル内に、ほっと一息吐いた後でカウンターへ向かったのが良かったのだろうな。
ターミナル内へ入った時には数人並んでいた筈だからタイミングが良かったといえるだろうさ。
受付カウンターにてネットで購入した格安チケット番号を提示すれば、予め用意されたチケットが渡される。
そのチケットを受け取り渡航予定の国であるシュランプ行きの飛空挺が発着するエリアへと移動することにな。
っとぉ、此処で手荷物以外の荷物てぇヤツは預けての移動になるぞ。
飛空挺の貨物室へと収められて運ばれるような品は此処で預けるのさ。
そうそう、俺は転移ゲートで外人さん達が出国手続きなどを受けているのを見たことがあるが、出国手続きを受けるのは初めてなんだ。
まぁ転移ゲートを管理するシュパングの権利ってぇヤツだから良いらしいのだが、少々強引じゃないのかシュパング政府。
周辺諸国に悪感情を与えてなければ良いのだけれど…まぁ、シュパング人が周辺諸国へと働きに出て貢献していることもあるからなぁ、色々とあるんだろうさ。
出国ゲートへと辿り着いた俺は、手続きてぇヤツにてパスポートと言う物を始めて提示して通過しつつ荷物の検査なども同時に行われることにな。
まぁ大した代物は入ってないのだが…実は内緒の裏技で荷物を隠し持ってはいるが、これは内緒な、内緒。
金属探知機て言うのを潜ると…ビィーッ!ってブザーが!
いや、俺って何か持ってたっけか!?
粗方は荷物検査の方へと入れた筈なのだが、はて?
検査員に調べられ…「これは?」っと指摘され気付いたよ。
「あーっとぉ、これは翻訳機ですね。
これがないと話が通じないので外すのを忘れてました」って後ろ頭を掻く俺。
「ほぉう、シュパング産の翻訳機ですか…随分とコンパクトなんですね。
そうそう、検査エリア内は翻訳機能が適応されていますから外されても言葉は通じますよ」
へっ?マジでぇ?って検査員をマジマジ見ると頷かれてしまったよ。恥ぅ~
そして改めて翻訳機を外して金属探知機を潜れば問題ないようで無事に通過ってな。
改めて手荷物を受け取り空港内へと。
そんな感じで出国ゲートを通り空港内部へと分け入るとシュランプ行き飛空挺へと乗り込むためのゲートへと向かうことに。
っかさぁ、何でこんなに広いんだよ、此処ってさぁ。
内部に非関税店なんてのが色々と存在しているんだけど、それらに色々と目移りしそうにな。
っか、今から旅が始まるってぇのに、今荷物を増やしてどうするんだよ、俺ぇっ!
ってことで買い物はしませんでしたよ、はい。
荷物は既に預けてあるから手ぶらにて移動とは言え、結構歩くのな。
まぁ17番ゲートって言うくらいだから入口から離れているんだろうさ。
しかしなぁ、どうせなら入口付近のゲートにしてくれれば良いのにさ。
そんなことを思いながら移動して、漸く17番ゲートへと辿り着いたよ。
ゲート付近にも軽食を売っている店があったので買うことに。
朝が早かったから朝飯を食ってないんだよ、だから腹が減ってな。
簡単なサンドイッチとコーヒーをチョイスしてロビーにてプラスチックの椅子へと陣取り食すことに。
飛空挺への搭乗時間までは、まだ十分に時間はあるようなので食い終わった俺はトイレも済ましておく。
そうしている間に、いよいよ搭乗手続きが始まったようだな。
さて飛空挺へと乗り込みますかね。