空を映す鏡
ひだまり童話館「ピカピカな話」参加作品です。
森の中を歩いていると、ピカピカ光る物がありました。
「おや、なんだろう?」
ウサギが近づいて行くと、土の上に何かピカピカしたものがあるのです。池や水たまりのようにも見えますが、水ではないようです。
ふんふんと鼻を動かして近づいて行くと、そのピカピカは空でした。
「こんな土の中に空が見えるとは」
そこは小さくても、澄んでいて、青い空と白い雲、そしてお日様が見えます。
ウサギはひどく感心して、これはきっと何かすごいところへ通じている門ではないかと考えました。
ウサギはこのすごい発見を知らせようと、森に住む魔法使いのところへ駆けて行きました。
「魔法使いさん!土の上にすごいものがありますよ」
魔法使いに会うと、ウサギは興奮して言いました。
「すごいもの?」
「そうなんです。土がピカピカ光っていて、近づいてみたら空が見えるんですよ。きっとアレは、異世界への門ではないでしょうか!」
魔法使いはウサギの興奮ぶりを微笑ましく見ていました。
そんなにすごいものが、森の中にあるとは考えにくいものです。きっと何かを見間違えたのだと、魔法使いにはわかっていました。
だけど、ウサギが伝えに来てくれたことを否定したりせず、
「それじゃあ、見に行ってみるか」
と言って、ウサギに案内してもらいながら、その“異世界の門”のところまで歩いて行きました。
ウサギが案内したのは、魔法使いの家からすぐ近くでした。
森の中にぽっかりと木が生えていないところがあって、そこにピカピカと空を写している鏡が落ちていました。
「ああ、これだね?」
「はい、魔法使いさん!土の中に空があるでしょう?ほら、ほら」
ウサギはピョンピョンと飛び跳ねながら、とても嬉しそうに言いました。
魔法使いがその鏡を覗き込んでみると、空も見えましたが、他にも木や葉っぱが見えました。魔法使いは背が高いですから、そんなふうに見えたのです。だけど、ウサギは背が低いので、空しか見えなかったのでしょう。だから、土の中に空が見えて、まるでそれが異世界への門のように見えたのだと魔法使いは分かりました。
「ははあ。なるほど」
魔法使いはその鏡を拾い上げ、そしてその鏡を覗き込みました。
ふと見ると、鏡の中の自分の他に、何か動くものが見えます。
「ん?」
魔法使いの背後には森しかありませんが、そこには小さな池がありました。その池のほとりに見える小さな黒い影・・・
「カエル、か」
魔法使いがそう言った時、鏡がピカピカと輝きました。
「ああっ、魔法使いさん!」
その瞬間、魔法使いの身体はみるみるウチに小さくなって、まるで消えたように見えました。ウサギは、魔法使いが異世界へ行ってしまったのだと思いました。
鏡が落ちたところには、小さな黒いカエルが呆然と空を見ていました。
「ゲコ、ゲコゲコ!」(異世界への門じゃなくて、変身の鏡だったとは!)
魔法使いは、それが魔法の鏡だと気づかずに「カエル」と言ってしまったために、カエルの姿になってしまったのでした。
それは変身の鏡。
森の中でピカピカしたものが落ちていたら、気を付けて触らなければいけませんよ。というお話し。