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俺と子猫の不思議な物語

作者: 朝山高安

 夢にまで見た花園。

 その人間離れした力、スピード、そして体力でここまでチームを導いた俺。

 ここ花園は、いわば甲子園のラグビー番。

 日本中のラガーマンが目指す場所。

 俺らのチームは、俺を筆頭とした力強いプレーで……ついに優勝。

 俺はそのままプロデビューする。


 ―――幸せだ。


 これまでにないくらい、幸せだ。

 大好きなラグビーを続け、活躍もし、そして何より―――愛すべき家族ができる。

 とても、とても―――幸せだ。

 

 ―――だが幸せなど、長く続くものじゃない。

 

 事故だった。

 愛すべき家族は、失われた。同時に、ラグビーも奪われてしまった。

 俺の右腕は、切り落とされてしまっ―――





「あああああああああああああああああああ!はぁ……はぁ……」


 目覚めは最悪だった。荒い呼吸を少しずつ落ち着け、そして自分自身も落ち着ける。 

 落ち着いた俺は、右腕を、確認する。


―――大丈夫。ちゃんとある。


 ここでやっと一安心する。

 ほっとすることができたところで、俺はようやくおかしなところに気がつく。

 ここは、俺の部屋じゃない。ここは―――


「びょう、い、ん……?」


 わからない。自分が何故ここで寝ていたのか、何故このようなところにいるのかすらも、何もかもがわからない。

 必死に自分の身に何があったのかを考える。

 しかし、記憶を遡ろうとするほどに孤独の空間に浮かんでいる感覚と―――


「が、くはっ……!」


 激しい、頭痛。思わず声も漏れてしまうほどの、強い痛み。

 そのまま長くうめき続ける。

 ―――どれ程の時間がたっただろうか。

 次第に意識も薄れてきた。

 落ち着こうと思い、水をとろうとする。だが、

 

 右腕が、動かない。


 必死に動かそうと努力をする。

 それでも動かない。

 どのスポーツでも、腕が動かなくては、もうプレーはできない。

 大好きなラグビーが、できなくなる。

 努力するが、それでも動かなかった。


 ―――もう、死んでしまいたい


 そうさえも、思えってしまった。

 自分にとってラグビーは、命の次に大切なものだから。

 ラグビーができない人生なんて、いきる意味がない。

 そう思った。


 ―――その時、ガラリと扉が開く。

 

 入ってきたのは、女の子だった。

 白色の、シンプルなワンピース姿。 

 髪も体もまるで雪のような白色。

 ただ、裾から見える足だけが、黒い。

 その少女は、放心して人形のような俺を見て、少し驚く。だがゆっくりと、俺に近づく。

 そして、ベッドに腰を掛けた少女は俺を―――抱き締めた。

 俺は急に起こった出来事に、思わず驚いてしまう。

 ……しばらくして


「落ち着いた?」


 そういいながら彼女は俺を優しく撫でる。

 その手は何処か懐かしく、フニフニと気持ちのいいものだった。


「あのね君、さっき『もう死んでしまいたい』って思ってたでしょ」


 その言葉に思わず瞠若してしまう。

 何で、この少女は―――


「フフッ。何でわかったかって?それは秘密だよー」


 そうイタズラをした子供のように笑う。


「あのね、私は君が死ぬのはとても悲しい。君は―――自分が思っているよりもずっっとつよくて、命を守ろ

うとしてくれる、すごいこだよ。だからそんな簡単に、死にたいなんて思わないで……」


 そう言って彼女は、俺をもう一度強く抱き締めた。

 俺を慰めようと、元気付けようとして……。

 でも、それでも俺は―――


「俺には、さ。記憶がないんだ。思い出そうとすると、激しい頭痛がするんだ。右腕も、動かない。もうこれで、ラグビーはできない。……もうこんな、さんざんな思いをするのは、嫌なんだよ!それともなんだ!?俺にこのまま苦しみに耐えながら生きろって言うのか!?」

 

 俺は、怒りをぶつけた。

 こんなにも俺を、落ち着けようと、癒そうとしてくれたこの少女に―――怒りを、ぶつけてしまった。

 記憶がなくなり、腕も動かなくなる。それはまるで―――自分の存在意義を、失ってしまったかのように思えた。

 そんな俺に、「死ぬな」と言ってくる。このときにあふれでてくる感情は『怒り』。それだけでしかなかった。

 それなのにこの少女は、こんなにも怒りをぶつけられているのに―――


「そうよ!生きなよ!何で弱気なことばっか言ってんだの!?さんざんな思い!?そんなの、耐えろよ!あなたは、強い!あなたは、命を守ろうとしてくれる、強い人!そんな人が死んでいいと思う……!?」


 まだ、生きろと言ってくれる。

 

「あなたに、救われた命がある。あなたに救われる命が、まだたくさんある。それなのに、あなたは死ぬの?これから、あなたに救われる命を道ずれに、あなたは死のうと思うの……?」


 俺に生きるように、説得してくれる。


「救われた命は、あなたが死んだらどう思うの?絶対、絶対に『自分を助けたせいで、死んでしまった』って思うよ……?それでも、死のうと思う……?救った命を、悲しませたいの……?」


 心に、俺の心に―――強く問いかける。


「まだ、まだ……!死のうって、思うの……?」


 ―――ああ、ここまで言われなきゃ、わからないなんて。


「本当に、生きれるかな……?」


 静かに、問う。


「俺は、生きれるのか……?こんな存在意義のなくなった俺が、生きれるのかな……?」


 顔をグシャグシャにして、ボロボロと涙を流して、問いかける。


「記憶がなくなって、なんにも覚えてなくって、腕も動かなくなって、死にたいと思ったこんな俺は、この先……生きていけるかな……?」


 何度も、問いかける。

 そんな俺に、彼女は―――


「―――もちろんだよ。死にたいなんて、思わないで。ね?」


 優しく笑いかけてくれた。


_________________________________________________________________________________


 どれ程の時間がたっただろう。

 

「そろそろ時間、か……」


 少女はそう言って、立ち上がる。


「もう行っちゃうの?もっと話したいのに……」


 そう俺は、小さな子供のように言う。

 それがおかしかったのだろう。彼女は小さく笑って、


「大丈夫、また会いに来る。会いに行くからそのときは―――」


 俺に何かを持たせる。それは……首輪?


「凛って、呼んで欲しいな」


 そう彼女は言って、窓際に立つ。


「待って……!」

「バイバイ」


 呼び止めたが無意味だった。彼女は窓から飛び降りた。

 ここが一階であることを、祈るだけだった。


_________________________________________________________________________________


 朝になると、家族が見舞いに来てくれた。

 だいぶ寝ていたらしく、親はもちろんのこと、あの兄嫌いの妹でさえ泣いていた。

 しばらくして、俺は全てのことを伝えられた。

 事故の日、俺は遊びにいってたらしい。帰宅の途中、一匹の子猫がトラックに引かれそうになっていたため、助けようと飛び込んだ。運の悪いことに俺は、右腕が動かなかくなってしまった。

 そうゆうことらしい。

 

「右腕は、もう動かないってお医者さんが……」

 

 そう母がためらいがちに言ってくる。

 俺を気遣ってくれたのだろう。

 でも俺は……


「大丈夫。後悔してないから。それよりも猫は?」


 父が優しく微笑んで、


「ほら」


 持ってたかごを持ち上げる。

 入っていたのは、後ろ足だけが黒の、真っ白な子猫だった。

 

「……凛」


 そう呼び掛けると、凛は ニャア と可愛らしい返事をした。

初めての作品ですが、いかがだったでしょうか。

よろしければ感想、ダメ出しお願いします。

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