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僕の気持ち

アレン(旦那)視点です

 腕の中で眠ってしまった我が妻、可愛い。

 腰の辺りまで伸ばした茶色の髪と、今は閉じられた瞼の奥に深緑の瞳を持つ彼女は、その顔立ちも自分にはもったいないくらい愛らしい。誰にも譲るつもりは全くないが。


 彼女、マリアとは幼い頃からこの村でともに育ってきた。

 好奇心が旺盛で、様々なことに興味を持っては質問の嵐だった。

 その質問の標的となった人たちは呆れた様子を見せながらも、その一生懸命な姿に頬が緩むことが常だった。もちろん僕もその一人。


 むしろ他の人にその姿を見せたくなくて、自ら積極的に彼女と行動をともにしていた。

 理由はそれだけではないけれど、彼女とともにいる時間はとても幸せなものだった。

 けれども所詮彼女と同じ年数しか生きていない僕では答えられないものも多くて、結局周りの大人に聞くはめになっていたのは、今になっては少し恥ずかしい思い出だ。


 大人たちはさすがというか、当然というか、僕の彼女に対する想いには気付いており、一緒にいるところを見ると温かい目を向けてきた。

 煽ってくる面倒なやつにはとりあえず脛に蹴りを入れて黙らせておいた。

 今はちょっと反省してる。けど後悔はしていない。


 そんな彼女は僕の想いを知ってか知らずか、可愛く、美しく育った。


 「マリアとアレンって語呂がいいわよね。相性が良さそうだわ。」と、言われた時には死ぬかと思った。いわゆるキュン死。

 そしてその夜は彼女が自分のことを意識してくれているのかどうかについて悶々と考えてしまう羽目になり、結局夜が明けるまで寝付けなかった。


 その後も彼女の身の回りを手伝ったりなんだりでそれとなく付きまとっていたら、「あなた気が利くわね…いい旦那さんになれそうよ。」とか言われてしまい、そのときは赤くなってしまった顔を彼女に見られないようにと大変だった。鼻血はかろうじて出なかった。

 しかし、夜はもちろん言わずもがな。むしろこの時は一睡もできなかった。


 そんなこんなで苦節20年。いつから彼女のことが好きなのか分からないから、生まれて赤ちゃん同士で対面した時にはきっともう恋していたのだろう。いや絶対そうだ。

 そこからやっとここまでたどり着いたのだ。

 彼女のことは決して誰にも渡さない。


「君と結婚することができて、僕は本当に幸せ者だ。」






 ふと視線を下ろした先の彼女の手に小さな切り傷ができているのを見つけた。

 そこに手をかざして回復魔法を使うと、その小さな傷はすぐに消えてなくなった。

 そういえば先ほど身体を震わせていたな、ということを思い出し、さらに抵抗力を高める守りの魔術(・・)をかける。


 魔力というものは勝手に身につくものではない。

 血を分けた存在、主に両親から魔力を伝達され、自分の中の魔力を呼び覚ますことで操ることができるようになる。魔力伝達のタイミングは家庭それぞれで、生まれてすぐに行うところもあるらしいが、多くは子どもの自己判断能力に基づき、10~12歳頃が多いらしい。


 僕たちも10歳の時にそれを行った。

 家族ぐるみの付き合いをしていたため、同じ場で行ったのだ。


 マリアはそれを心待ちにしていたようで、興奮を隠し切れずに早速魔法を使いまくっていたが、すぐに落ち込んでいた。挙句の果てには、生活魔法かよ!なんて彼女らしくないセリフを吐いており、僕も思わず呆れてしまった。でも可愛かった。


 ちなみに、稀に魔力伝達をする前から魔力を操ることのできる者もいるが、そういう者たちのほとんどがいわゆる魔術を使える者たちだという。


 それが僕だった。


 どうやら魔術を使いたいらしい彼女には言い出せないし、言ったら絞め殺されてしまう気がする。

 そんな嫉妬をする彼女も見てみたい気はするが。絶対可愛い。


 僕が魔術を使えることは誰にも教えていない。

 魔術が使えることを知られれば王都に連れて行かれる。

 つまりマリア、いや、この村を離れなければならない。それは嫌だった。


 この村にいる限り、強さを極めることも知識を深めることもできない。

 でも僕はそれでもいい。

 ここで彼女さえ守ることができれば。

 この気持ちがたとえ驕りだろうがなんだろうが関係ない。

 彼女を守りながら村の片隅でひっそりと暮らせれば、それでいい。


 だからマリアが村を出る必要はない。

 彼女が村を出たいと言い始めた時や、それを実行しようとした時は本当に焦った。

 おかげで彼女の魔力の波動を感じ取ってどこにいるのかが分かるようになってしまった。

 いよいよストーカーじみている。

 こんなはずではなかった。が、まあ良しとしよう。


 それからも数度、彼女は村からの出奔を謀り、その度に僕が止めて、宥めて、諭していた。

 彼女の両親に言うぞ、と言っても同じことを繰り返すのだから始末が悪い。本人は諦めると言っているのに、それが発言と行動に伴っていない。

 しかし僕が彼女にプロポーズしてからはそんなこともなくなり、たまに村を出たいということを話に出したり態度に出したりはしてくるが、行動に移すことまではしなくなった。

 物で釣ろうが、上目遣いで見つめようが、甘えた声を出そうが、僕という鉄壁の壁を乗り越えられないことを悟った彼女は不満げながらも大人しくなったものだ。


 彼女の自由を奪ってしまっているようで心苦しい気持ちはあるが、それでも僕は平穏を望む。

 何か起きてからでは遅いのだ。

 何もせず、何も起きないことがベストなのだ。


 なぜなら。


「僕は君がいればいい。ただそれだけで…主人公になんかなりたくないんだよ」

ご読了ありがとうございました

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