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こちらは、第4話です。
それではお楽しみください。
GOODLUCK。
僕は、しばらくその小さい紙を見つめたままだった。
この紙に書かれてある中本町駅は、たしか、この町の駅から10駅ほど離れたところにある。
しかし、僕は父親が働いている場所は、その駅ではないことを知っていた。一度、父親から働いている所の話を、聞いたことがあるが、そもそも、中本町駅とは方向が逆のはずだ。
また、富山文江という人も気になった。もちろん、僕はそんな名前は聞いたこともない。さらに、この人は老人ホームに居るようだということが、なおさら謎を深める。
父親に、そんな知り合いがいたのだろうか。
一体どういう関係なのだろう。
もし、老人ホームなどではなく、どこか別の住所と女性の名前が書いてあったなら、僕は、なるほど。と納得していたのかもしれない。
しかし、どうやらそういうわけではないらしい。
普段、寡黙で外出していることが多い父親が、一体何をしているのか。
考えれば考えるほど、興味がわいてきてしまう。
やがて、僕は今度、時間があるときに確認しにいくことに決めた。
この小さい紙を自分の部屋の机にしまうと、父親の上着を洗濯機へと突っ込んだ。
「ピピピッピピピッ」
僕は目を覚ました後も、すぐには起き上がらなかった。昨日のことを思い出して、気が重くなっていたからだ。
やがて、僕はゆっくりと動き出して、からだを起こした。
だらだらと、朝の日課をすませる。家を出たのは、いつもよりかなり遅かった。
通学路を歩きながら、今日、葉月と話せることができるだろうか。と考えていた。
僕のなかではやはり、昨日の帰り、話さずに帰ってしまったことがかなり大きかった気がした。
一度逃げてしまうと、どうしても次に挑戦するのが難しくなる。
正直、あまり期待できないな。と僕は思った。
僕は教室に入ると、多くのクラスメイトがすでに登校していた。
僕はぼんやりとして、人混みを避けながら自分の席にむかった。
「……おい……川……」
「……おい!川上!」
僕はバシッと肩を叩かれて、はっと気がついた。
ふと見ると、下村が側に立っていた。
「何ぼーっとしてんだよ。」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた。」
「そうか。」
すると、下村は顔に笑みを浮かべた。
「おまえ、月曜日、例の転校生の子と相合い傘をして帰ったそうじゃないか。」
その瞬間、僕は一気に目が覚めたような気がした。
「な、なんでおまえがそれ、知ってるんだよ!」
「うわ、それほんとだったのか!」
「・・・うっ。・・その話、だれから聞いたんだよ。」
「ははは。俺の情報網なめてもらっちゃ困るよ。」
すると僕は、クラスメイト達の目線が、少なからずこちらをむいていることに気づいた。
・・ちっ、もうそんなに広まっていたのか。
僕はとても面倒くさくなった。
ただ、もう次はない。それだけははっきりしてる。と心の内で思うと、さっさと自分の席にむかった。
「おい、川上。どうして俺に教えてくれなかったんだよ。もしかして付き合ってるのか?」
「・・傘にいれてあげただけだ。」
僕はそれだけいって席につくと、机に頭を伏せた。
「おい………………。」
下村がまだ何か話しかけてきたが、僕はもう聞こうとはしていなかった。
「キーンコーンカーンコーン」
そのとき、ちょうど始業のチャイムがなった。
今日も体育大会の練習をしていた。
今回は、開会式の時の整列などの確認が主な内容だった。
「選手入場!」
合図と共に、全生徒が行進をしながら移動する。
僕も、列に入って行進していた。やがて、歩くのをやめると、縦・横との列を合わせる。
すると、隣の列に並んでいた女子数人がニヤニヤして、話しかけてきた。
「ねぇ、川上くんって葉月さんと付き合ってるの?」
普段は大して話してもいないのに、こういう話になると平然と喋りかけてくる。
僕は心のなかで、ため息をついた。どれだけ話が広がっているんだ・・。
「付き合ってない。」
ぶっきらぼうにそう言うと、あとはもう知らんぷりをしていた。
隣で女子達がキャッキャッ騒いでるうちに、その前に並んでいた女子がふりかえって、こっちを黙って見ていた。
たしか、同じクラスの、牧田とかいうやつだった。僕以上に、あまりクラスで喋らないやつだ。
なんだよ。何でずっとみてくるんだ。
やがて、牧田は前をむいた。
すると今度は、列のすこし前にいる下村が、後ろをむいて、こちらを見ているのに気がついた。
僕は、かなりうんざりして、しばらく気がつかないふりをしていたが、あまりにこっちをむいて、アピールしてくるので、下村の方をにらんだ。
すると、下村は手で前を指差した。
僕は下村が指差す方をみた。前では、サングラスをした若い男の先生が、メガホンで何か叫んでいた。
僕は目を凝らした。朝礼台にのって叫んでいる先生の、かなり後ろの日陰になっている所に、制服を着て座っている生徒の姿が何人かみえた。
やがて、片手にギプスをはめている男子の横に座って、練習の様子を眺めている女の子に、ふと目がとまった。どことなく、葉月に似ている様に思える。
まさか。僕は思わず、下村の方を見た。
下村は、こっちにむかって頷く。
たしかに、彼女は葉月に間違いないようだった。遠くからではあるが、昨日の朝から姿をみていなかったこともあって、内心すごく嬉しかった。
どこかからだの調子でも悪いのだろうか。と心配になったが、見学者達の横にいる先生と、何か話しているのをみて、大して悪いわけでもなさそうだ。と少し安心した。
それから僕は、練習の間ほとんどを、葉月の方を見ながら過ごした。
葉月は、両膝を抱くようにして座っていた。飽きた様子もなく、ただ目の前で行われている練習をじっと見ている。
心なしか、隣に座っているギプスを巻いた男子が、葉月の方をちらちらと見て、気にしているようにみえた。
僕は、思わず心のなかで、あのやろう。と思ってしまった。
ただ、幸運なことに、葉月の方は、この男子の方を少しも見ていなかった。ずっと静かに練習の様子を見たままだ。
僕は、ホッと息をついて、今日の帰り、彼女に話しかけてみようか。と考えた。
練習が終わると、下村が僕のところへやってきた。
「あれ、葉月さんだっただろ?」
「たぶん。よくわかったな。」
「女子をみる目だけは高性能だからね。」
下村は、ニヤッと笑った。
「もしかしたら、葉月さん、昨日も休んでたのかもしれない。」
「昨日も?」
「ああ。よく似た女の子が、昨日の練習の時にも見学してたの、何となくおぼえてるんだ。」
「そうなのか。」
僕は全然知らなかった。
一体どうしたのだろうか。しかし、先ほどの様子を見るに、何らかのからだの変化はみられなかった。
「・・おまえ、葉月さんと何かあったのか?」
突然、考え込んでいた僕をみて、下村は聞いてきた。あるいは、今日の朝の様子から、何か察していたのかもしれない。さすが、僕と気が合う、数少ない友達なだけあった。
「い、いや。別になにもないよ。」
僕は紛らわすように、水筒をつかんで、ゴクゴクとお茶を飲んだ。
渇いたのどに、冷たいお茶と小さい氷の塊が流れてくるのは、とても心地よかった。
終業のチャイムがなった。
僕は下村と別れると、早足で生徒玄関の方へむかった。
自分でも、何をどうしよう。と具体的に考えていたわけでもないが、ただ、葉月に会いたいという一心だった。
靴をはきかえて、生徒玄関をでると、彼女の姿が見当たらないか、探した。
すると僕は、葉月が自分のすぐ目の前にいることに気づいて、驚いた。
彼女は、生徒玄関の前に、ひとりで立っていた。
彼女もすぐに、僕に気づいた。葉月は、ちょっと困ったような顔をしながら、少し笑って僕に近づいてきた。
「川上くん。実は、ちょっと話があって。・・一緒に帰らない?」
!?。予想外の展開に、僕は少し戸惑った。
「い、いいけど。」
話とは一体何なのか気になったが、まさか、思わぬ望み通りの展開を、むこうから運んできてくれたことに、嬉しかった。
僕らは、並んで歩きはじめた。しかし、葉月は黙ったまま、まっすぐ前をむいていた。
僕はじれったくなって、何か言おうとした、そのとき。
「・・あの、ごめんね。」
葉月は、ようやく口を開いた。いつもより、声が小さい気がする。
僕は、ぽかんとして、必死に理解しようとしていた。
「どうしたの?」
「私が傘借りちゃったせいで、みんなに誤解されたみたいで・・。」
ああ、そのことか。と、僕は思った。おそらくは、葉月も何か学校でいわれたにちがいない。
「いや。元々僕が誘ったんだし。こっちこそごめん。」
僕は冷やかしなどをうけるのはごめんだが、当然、話の内容自体に嫌だと思ったわけでは、全くなかった。
むしろ、葉月がそういわれて、それをどう思っていたのかが気になる。
「ううん。」
僕らは、正門をぬけて、歩いていく。
「そういえば・・。」
僕は思い出して、言った。
「今日、見学してた?」
葉月は、少しはにかみながら、黙って頷いた。
「実は私、ちょっとからだが弱くて。」
「・・そっか。」
何となく、これまでのことが納得できる気がした。
「私のこと、見つけてたんだね。私、川上くんに謝ろう。と思って、練習の間、ずっと探してたんだよ。」
「え・・。」
僕はドキリとした。僕のこと、探してくれてたんだ・・。
「そうだったのか。でもあれだけの人の中じゃ、見つけるの難しいでしょ。」
「うん。全然見つけられなかった。」
僕らは笑った。それから他愛ない話をして歩いて、やがて、二人の帰り道の分岐点がやってきた。
「じゃあ。また明日。」
葉月は、微笑みながら小さく手を振った。
「う、うん。また明日。」
僕も、手を振りかえした。
僕は、一人で家へとむかいながら、今日彼女と話せたことに、これ以上ない喜びを抱えていた。
また明日も話せるかもしれない。そう思うと、心が弾んだ。
□■□■□
男は、仕事から帰るため、駅のホームに立っていた。
男の職場は、ライン作業の工場だった。朝7時から夕方5時まで、一時間の昼休み以外は、ほぼ働いていた。
シフトは、夜・早朝・昼の3つあるどれかに、あてられる。
ただ最近は、もう何年も働いているので、上の懇意で、この日中のシフトにしてもらっていた。
駅は、男と同じシフトで働いていた者達の帰りで、少し混んでいた。
「ピリリリリリ。」
突然、ズボンのポケットのなかで、携帯がなった。
周りにいた人達が、こっちを見る。
男は、携帯を取り出すと、電話にでた。
男の携帯は、スマホではなく、いわゆるガラケーだった。それも、かなり古い機種だった。ただ男は、使えるうちは、特に変える気もなかった。
「もしもし。」
「・・・確認できたか?」
男は、電話の相手をある程度予想できていたが、それでも実際にそうだと気づいた時は、あまり気がすすまなかった。
男は、目を閉じて、昨日のことを思い出す。
やがて、目をあけて答えた。
「ああ。昨日確認したよ。」
「そうか。ご苦労。あとはこちらで対処する。」
相手は、それを聞くとさっさと電話をきろうとした。
男は、思わずたずねていた。
「おい!明美は、まだそっちには、着いていないのか?」
むこうは、しばらく黙っていた。
「・・・ああ。」
男は、半分分かっていた答えだったものの、気持ちが大きく沈んだ。
「・・そうか。」
「では、次の任務はまた連絡する。」
そういって、電話をきられた。ツーツー。という音が、どこか遠くに聞こえる。
男は、しばらくその場に突っ立っていた。
今回も、読んでいただいて、心から感謝しておりますm(。_。)m
いやー。今回は少しお待たせしてしまって、すいませんでした。前回の後書きで、投稿頻度の話をしたくせに、その次話から最低ラインギリギリだという・・・(--;)(あぶなかったぜ。)
昨日は、実は頭が痛かったりしながら、やってましたー。今日、初めて岩盤浴にいくのでゆっくりからだを癒そうと思ってます(≧∇≦)(楽しみです)
平日は学校などあるので、投稿が遅れたりしちゃうときがあると思いますが、ちょっと気長に待っていただけていると、嬉しいです。
次話は、いよいよ5話目ですね。二桁までの、ようやく半分かー( ´∀`)最近、ホント百何話とか投稿してる方の凄さが、分かったような気がしてます(´_ゝ`)
それでは、近いうちにまたお会いしたいです!
GOODLUCK。(-_-)/~~~