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モルモット学園  作者: 立花優月(ゆっきん)
5/8

PC人間があらわれた!

彼女の名前は草原野菊くさはらのぎくという。さばさばした性格と天性の運動神経と男っぽい身なりからアウトドア系のスポーツ女子と思われがちだが、実際中学や中退した高校での部活はコンピュータ部という地味かつオタク感が半端ないインドア女子である。好きなことは新アプリの開発と様々なジャンルのゲーム攻略で、教育委員会の所有物であるパソコン全台の壁紙をお気に入りのキャラの壁紙に一瞬で変えてしまったという伝説を持っている。嫌いなものはガールズトークである。

あっけらかんとした性格であまり悩むことが少なかった野菊は今日、初めてベッドの前で頭を悩ませた。この掛け布団のふくらみは何だ。そしてなぜ小刻みに震えているのだ。何回か揺さぶったり「おーい」と呼びかけたりしたのだが、全く反応がない。

「寝ているにしては不自然だし…………、んん。どーしたものかね」

小声のぼやきに、布団がびくりとはねる。起きてるな、と口角を上げ、布団の端っこに手をかけた。

彼女はあっけらかんでさばさばしていて、それでいて「待つ」ということが何より嫌いな少女である。じれったいものには容赦なく攻撃を仕掛けるのだ。


「ていやっ」


掛け布団が宙を舞い、埃をまき散らしながらカーペットに落ちた。野菊は宇宙人が乗っていた宇宙船を興味本位で覗きに来た野次馬のような顔をして、ベッドを覗いた。

お察しのように、そこには茜が頭を抱えてうずくまっていた。どことも知らない、いや写真で見た少女が布団をがんがん揺らし、大声で呼びかけてくる恐怖を必死に耐えていたのだ。すがすがしい朝だというのに彼女の背中は汗でびっしょりぬれ、額には前髪が張り付いていた。

一方野菊には、布団に潜んでいたのが新生物ではないのが残念という気持ちが半分、この子が鱒浦のおっちゃんが言ってた茜ちゃんって子じゃないかという期待の気持ちが半分という、微妙な気持ちがあった。ただそんな気持ちを土俵際に追い込むほど強く野菊の心を締め付けていたのは、

(この子何で泣いてるの)

という正体不明の罪悪感だった。私何かやりましたっけ、と警察に訴えたくなる。


「…………」

「…………」

痛いほどの沈黙が茜の心をいっそう焦らせる。

思い返せば一瞬の出来事だった。鱒浦さんの部屋に行った次の日の朝ベッドが増え、その次の日には機械がやってきた。あの特に何もない殺風景な部屋は思い出の彼方に消えてしまった。

そして極めつきはこの少女だ。なにやら薄型の機械をいじりながら楽しそうにしている野菊をじっと見た。ボタンを押したり、画面をなぞったり謎の動作を繰り返している。

茜にとっては彼女が宇宙人である。

「ええと」

突如日本語を発した宇宙人に驚き、茜はびくりと肩を揺らした。彼女の中では野菊は立派な宇宙人と解釈され、今やグレイトバンバー星雲から日本という名の国の偵察任務のためやってきた下っ端グレイトバンバー星人という架空の設定すらついているのだ。そして現在、茜ワールドの中にグレイトバンバー星人は日本語を話す、という新しい情報が追加された。

「君、日野茜ちゃんだよね。私は草原野菊。よろしく」

とこちらを見ないでいきなりの自己紹介をした。

「…………草原さん、よろしくお願いします。えぇと……」

聞きたいことがありすぎて、彼女の頭はパンク状態だった。そして混乱した脳内が、一つの答えを導き出す。


「草原さんの主食は何ですか」


単純に宇宙人の生態に興味があったのである。

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