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モルモット学園  作者: 立花優月(ゆっきん)
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目覚めの朝。

深い眠りから目覚めたのは、朝の七時のことだった。

小鳥の鳴き声が響く小さな小部屋の片隅の白いベッドから少女____ここに来て付けられた『名前』で言うと日村茜がむくりと起き上がる。目覚めのよい朝だな、と寝ぼけたままの目をこすりながら思った。

この学園に来て、一週間。初めて尽くしの日常に頭はもちろん体もついていっていなかった。初めてパンの耳以外のものを食べ、初めて水道水以外の飲み物を飲み、初めて風呂に入り………もしかしたら生後間もない頃にやっていたかもしれないが、茜には覚えのないことである。

伸び放題だった髪の毛はショートボブに整えられ、見違えるような姿になった。


「着替えよっかな…………」


どことなく独り言を呟いて寂しさをまぎらわす。

殺風景な部屋のシンプルイズベストの象徴のような木製のクローゼットにはまだ服はそれほど入っていない。真新しいセーラー服だけだ。

他の家具も必要最低限なものばかりで、普通の人からみれば簡素な部屋だが、茜にとっては十分だった。

着なれないスカートをはきながら、茜は鱒浦のことを思い浮かべていた。

思えば私は正しい選択をしたんだな、と思った。あそこで手を振り払っていたら、あの人も諦めて、貧しい生活を続けていたのかも。あの優しそうな目は本物だったんだな、と茜は目を細めた。


「日村さん、おはよう。着替えられましたか?」


唐突に聞こえた女性の声に、止まっていた手がびくんと跳ねた。着替えられていない。靴下すらはいていない。

彼女は生活指導の先生(学校など初めてであった茜は何のことやら分からなかった)の花木幸江である。鱒浦の知人であり、今回のプロジェクトの重要人物であった。28歳、彼氏募集中である。

初日、対面したとき茜は温和そうな表情のなかに、厳しそうな一面や男に対する熱情を感じた。それ以後、先生の機嫌と言動に注意しながら接していることを、花木は当然知らず婚活にいそしんでいる。

「すみません、もう少しでできます」

「ゆっくりでいいのよ。朝食の後、鱒浦さんから呼び出しがあるから、行ってちょうだい」

「はい」

離れていく足音を聞きながら、ほうっとため息をついた。

やっぱりまだ話慣れていないのだろうか、ほんの数秒の対話でも茜は苦痛だった。こういうのを……えっとコミュ障っていうんだっけ。先生が仕入れてきてくれた若者向けの小説にあった気がする。

先程も描写した通り、彼女は学校に行っておらず教養もまるでない。が、さまざまな人が捨てていくチラシや会話を聞き、ある程度までは読み書きができるようになっていた。そして今の便利なご時世、小説にはご丁寧にふりがながふってあることが多く、茜でも容易く読むことができるのである。最近は教科書を読むことが多い。


「ぐうぅ」と空腹を訴えるお腹をさすり、セーラー服のスカートを揺らしながら、木製のドアを開けた。

おいしい朝食を得るために。

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