俺の初恋の相手
門をくぐった俺の心臓はこれでもかとばかりに早くなり、時計の秒針が進む速度を遥かに超え、まるで時間よもっと早く進めと言っているようだった。
--あとは靴を履き替えて階段を上ればすぐそこだ--
「涼斗、お前最近歩くの早くなったよな」
「あぁ、確かに最近少しせっかちになったかもなぁ」
知らず知らずの間に俺の心臓が身体にも影響を及ぼしていたのか、少し歩くのが早くなっていたようだ。
俺の親友の何気ない一言に俺はどきりとし、出来るだけいつもの雰囲気を崩さぬように努めながら、その一言に対する言い訳を口にした。
その答えに納得がいったのかどうかは分からないが、彼はそっかと俺の言葉に返すとその事に対する質問をすることはなかった。
こうして少しの会話を交わすと二人とも話さなくなり、教室へただ向かうだけになった。
自分から発せられているこのうるさい音が彼に聞こえてはいないだろうかと少し不安に思うが、これは決して何か悪い事があって出来た沈黙ではない。
俺と彼は、それこそ家族を除けば一番付き合いが長い関係だが、一緒にいるときはいつでも何かをしているという訳ではなく、長い時間を共にしているからこそ会話は少なくなり、二人ともそれを黙認しているのである。
そうした少しの沈黙の後に俺はついに目的地へと到達したのである。
扉が近づくにつれて、もうこれ以上強くなる事は無いだろうと思っていた胸の支配はよりいっそう強くなっていき、鼓動はさらに早まっていく。
そして扉を越え、ある人物を目にした時、俺の胸は今までの支配など忘れてしまうほど強く飛び跳ねたのだ。
俺はこのところ学校がある日は毎日この体験をしているのである。
それはどれだけ日を重ねようと終わろうとする事は無く、むしろ日に日に強くなっているのだ。
そしてその原因となるのは、今自分の目の前に確かに存在している高木 舞という人物に他ならないだろう。