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お嬢様と執事の優雅なティータイム

作者: 木元さな

「お嬢様。紅茶が入りました」


「えっ、もうそんな時間?」


「そうですよ~。気付きませんでした? お菓子大好きお嬢様にしては珍しいですね、甘いものはこの時間しか食べられないのに。で、さっきから真剣に何をしてたんですか」


「見てよこれ」


「うわあ……」


「ね? そうなるでしょ? お父様ったら全くもう」


「1、2、3、……次はこの5人の方とお見合いするんですね」


「そうなの」


「で、どうせ全てあちらの方から断りの手紙が届く、と」


「そうなの。あっ、貴方もここに座って。長くなるわ」


「承知しました。では向かい側に失礼して……あっと、ウバですどうぞ」


「ありがとう。貴方のそれは何?」


「アセロラのジュースです」


「そう。今は一応勤務中なんだからお酒は駄目よ」


「早速ばれましたかー」


「逆に毎日やっていてどうしてばれないと思うの? 同じネタはもう飽きたわ、17点。ネタの構成を練り直してまた明日出直すことね」


「手厳しい! いやはやさすがお嬢様。しかし酒でも飲まないとやってられないんですよお嬢様の話し相手」


「……そんなに?」


「そんなにです。お嬢様のお話、とくに婚約や結婚についてのものは俺の今後に関わります。俺は愛のある結婚を望みますし、するつもりですから」


「うん、貴方はそうね。何度も聞いたから知ってる」


「はい。なのでお嬢様のお話相手になるときは酒を呷り次の日には記憶を忘却の彼方へ葬り去ろうかと」


「そうなの。まあいつか訪れる未来の結婚云々より、自分の雇い主の娘の前で不躾なことを言う貴方はまず明日の心配をしたほうがいいのかも」


「と言いますと」


「明日私に紅茶を運んでくるのは誰かしら」


「もちろん俺に決まってますお嬢様。お嬢様のその日の気分を敏感に察知し茶葉を選ぶことが出来るのは俺だけですよ」


「そうね。それは言えてる」


「だから俺をクビにしないでくださいね」


「65点。いいわ、わかった。それじゃあ冷めないうちにいただきます……うん、美味しい。貴方って本当に紅茶淹れるの上手よね」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「あれ? どうかした?」


「いいえ何も。お嬢様はいつも俺の淹れた紅茶を褒めてくれるなあって」


「だって本当のことだもの」


「俺ってばひょっとして愛されてます?」


「まあ、そうなのかも」


「俺もお嬢様を愛してますよ! 相思相愛とはまさにこのことですね……ってお嬢様聞いてます?」


「……うーん」


「聞いてない」


「愛、ねぇ」


「見てもいない。お嬢様~俺はここですよーそれは俺じゃなく俺が淹れた美味しい紅茶ですよー」


「うーん、でもとりあえずこの愛を少しでもお見合い相手に向けてあげればいいのよね」


「…………。この悪女め!」


「何よ」


「いえ。それよりお嬢様。とんでも発言してますけど本当にそんなことが可能だと思っているんですか?」


「まず無理ね。私は愛のある結婚よりもお金のある結婚を望んでるもの」


「ほらー! それですよそれ! 俺がまだお酒飲まないうちからやめてくださいよ、聞きたくないです。うら若き結婚適齢期の女性が愛と金を天秤にかけるだなんて」


「そんな子なんてどこにでもいるじゃない」


「聞きたくないってば!お嬢様みたいな考えの女性があちこちにいるなんて俺はこの先どうやって将来に希望を持てばいいんですか!? 溢れんばかりの愛で俺を包んでくれる奥さんは何処に!?」


「5人の中だと、この公爵様が一番かしら」


「…………」


「ねえ、貴方はどう思う?」


「……はあ、どの方ですか。そうですね、ってかすご! めちゃめちゃお金持ちじゃないですか!」


「当然。お金を持っている人を選んだんだから」


「でもどうせ断られるんですよ。お嬢様は金しか見てないから」


「なんで怒ってるの?」


「そりゃあ怒りたくもなりますよ。俺より3歳も下の女の子が金の亡者になってるんですからね。もう今更気を使って遠回しに言う必要もないので言いますけど。だいたいお金持ちと結婚しなくても、お嬢様の家には十分お金があるじゃないですか」


「当たり前でしょ。うちをなんだと思ってるの? 貴族界きってのお金持ちよ」


「あえてお金持ちという子供っぽい言葉を選ぶお嬢様ってなんかもう……。お見合いだってかなりの数をこなしてるのに未だ伴侶どころか婚約者さえいないなんて。なんでそんなにこだわるんですか」


「私はお金が好きなのよ。結婚に興味はないけどお金が絡むならまた別の話だわ」


「そうでしょうね。見ていればわかります」


「お金で買えないものはないし。お金は嘘を吐かないし」


「………」


「………」


「………アセロラジュースが不味くなります」


「不満そうね」


「お言葉ですがお嬢様。愛は金で買えませんよ」


「そうね。それは認める」


「この世で一番大事な愛が買えないなら、お嬢様が執着するその金に何の意味があるんですか?」


「貴方、少しばかり愛に生き急ぎすぎてるんじゃないの? まあ確かにね。でも私、いつか夫となる人に愛は求めていないもの。愛はお金で買えないけど、そもそも愛なんて欲しくもなんともないんだから。よってお金で買えないものはないわ」


「あんなに旦那様と奥様に愛されて育ったはずなのにお嬢様は一体何処で何を拗らせたんだ!」


「怒ってるわね」


「そりゃあもう! 誰かぁ! お嬢様に真実の愛を教えてあげてくださーい!」


「馬鹿にしないで。私だって愛くらい持ってるわ。私、貴方が淹れる紅茶がとても好きなの」


「悪女!」


「貴方が淹れた紅茶を、貴方の向かい側に座って飲むこの時間がいつも楽しみなんだから」


「よくもまあいけしゃあしゃあと。忘れたとは言わせませんよ。俺がそれ運んだときにお嬢様が悩ましそうかつ楽しそうに見てたのはあの5人の写真でしたからね」


「私はお金が好きなのよ」


「なんというゲス顔……! わかりました、お嬢様が俺の淹れた紅茶に向けるその愛、買いましょう。お嬢様は大好きなお金が手に入る、俺は大好きなお嬢様の愛が手に入る。双方悪くない話です」


「それは無理な相談ね。愛はお金で買えないもの」


「結局そうなりますか。……まあいいです、ただの戯言なので忘れてください。明日淹れる紅茶の希望はありますか?」


「特にないから明日の私を見てから貴方が決めてね。……うん、やっぱり私、この時間がすごく好きだわ」


「そうですか。愛に生きる俺としては酒で記憶を飛ばしたい程度に苦痛な時間ですけど」


「つれない態度ね。あっ、そうだ。お父様の計らいで、今回も今くらいの時間にお見合いをするらしいの。だからそのときはお願いね」


「当然です。お嬢様が愛する俺の紅茶は俺にしか淹れられませんから」


「せいぜい相手方に自慢してあげるわ」


「100点満点ですよお嬢様。その勢いで今回も破談にしてくださいね」


「何か言った?」


「いえ何も」

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