表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/98

十二月三十日――――夜~リビング~④

 ――このままずっと、一緒に暮らして下さい。


 その言葉がどんな意味を持っているのか。

 つまりは、もしも俺の事をずっと好きでいてくれるなら、死ぬまで傍にいてほしい。どこにも行かずに近くにいてほしい。

 俺が彼氏になる事は出来ないが、口契約だけの結婚……とでも言うか……生涯を共にしたい。


「えっと……それって?」


 予想外の提案だったのか、千春が目を丸くしてこちらを見る。俺はその目をしっかりと見つめ返し、


「俺はこの中の誰か一人を選ぶなんて出来ないです。誰か一人と幸せになるなんて選択肢は、無いんです」


 ――俺が誰か一人を選んで、他の三人が悲しむ……そんなのは嫌だ。だから俺の頭には、最初からそんな選択肢は無かった。


「だから……もしも皆さんがこれから先、ずっと俺と一緒にいてくれるのなら――二度と離しません」


 この提案がどれだけ酷いものかは分かっている。選べないから全部欲しい――そんな我侭(わがまま)なのだから。だから俺のこの提案は、稟香と咲紀さんに笑われた。

 子供っぽいと。――だけど、子供っぽくても良い。我侭でも良い……俺は誰かの笑顔を奪いたくなんてない。


「私は前にも言ったよね……圭君の事、大好き。――だからずっと一緒にいるよ?」


 咲紀さんは俺の大好きな笑顔を見せて、そう言ってくれる。次いで稟香も――


「相変わらずの無謀な挑戦ですよ? ――だけど、私も咲紀さんと気持ちは変わりません。圭兎君が大好きなので」


 慈愛じあいに満ちた笑顔で、背中を押してくれる。どうやら稟香も咲紀さんも、前と想いは変わっていないみたいだ。……となると、問題は今初めてこの提案を聞いた飛鳥さんと千春だが……。


「「………………」」


 二人共、無言のまま俯いていて。――でも、俺にはそれが嬉しかった。

 ちゃんと真剣に考えてくれている。それだけでも十分、満足だ。


「………………分かった。あたしもずっとアンタの傍にいる」


 先に口を開いたのは、千春。俺と一緒にいてくれる――つまりは、提案を呑んでくれた事になる。

 俺は安堵の溜め息を吐いて、ゆっくりと飛鳥さんの方を見る。それに釣られて全員の視線が飛鳥さんに集中したところで――


「そうだな。好きな人とずっと一緒っていうのは、幸せだよな……♥」


 ――乙女モード突入。


「圭兎ぉ~……アタシも永遠に大好きだぞ♥」


 ――そう言って飛鳥さんは、正面から抱きついて来る。………………って――はああぁぁああぁ!?

 何で!? 今、皆で平和に過ごしましょうって空気だっただろ!


「ちょ、ちょっと飛鳥! 抜け駆けはずるいよ!」


 そんな飛鳥さんの突然の行動に叫びを上げたのは、咲紀さんで。


「――私の方が圭君の事、好きだもん!」


 何と張り合っているのか分からない台詞と共に、俺の右腕にぎゅうぅぅっと力いっぱいしがみ付いて来て。


「待って下さいよ! 俺は――」


 ――今まで通りの生活をしたいだけです! そう反論しようとして、千春に遮られる。


「そっか……結局は全員と付き合うっていうのと同じだよね……。じゃあ独り占めとかは関係無いよね……」


 人差し指を唇に当てていた千春は、結論が出た! みたいな顔になって、俺の左腕に控えめに飛びつく。

 どんどん悪化して行く現状で、頼れるのはこの中で唯一冷静……と言うか俺の今の状況を楽しんでいる稟香だけ。


「り、稟香っ……助け――」


「――なるほど。圭兎君はこうなる事を分かっていてあんな提案を?」


 小悪魔みたいにイヤラシイ笑顔を浮かべる稟香。

 ……くっそ……! 俺が困るのを見て楽しんでやがる!


「そんな訳無いだ――」


「――なるほどなるほど。圭兎君は、ハーレムを望んでいたと!」


 わざとらしく「ビックリだわぁ」なんて呟きながら、稟香は更に最悪の道を切り開いている。……何がしたいんだよ!


「私も加わりたいわぁ。……でも圭兎君は人気者なので、もう抱きつくスペースもありませんね。――そうだ、キスでもしましょうか」


 限りなく棒読みに近い台詞を、俺だけでは無くこの場にいる全員に聞かせている。――そして、そんな言葉が耳に入った三人は――


「「「駄目ッ!!」」」


 ――口を揃えて、そう叫んだ。


「あらあら残念……っ!」


 爆弾発言を投下した本人は、グリグリという音が聞こえてきそうな程強く、俺の足の甲を踏んでいた。……って何でだよ……!


「だから! 俺はいつも通りに――!」



「――あっ、稟香ちゃん! 圭君の足踏んじゃだめだよ!」


「そういう咲紀さんこそ、ちょっと圭兎君に密着し過ぎです」


「圭兎ぉ~! ハネムーンはどこに行く?♥」


「なっ! あ、飛鳥! 気が早いって!!」



 ――って聞いちゃいねぇ!

 違う……! 俺はこんな事を望んでいた訳じゃない! 俺は……俺はいつも通りの生活に戻したかっただけで!

 朝寝ていたら誰かが起こしに来てくれて、皆で朝食を食べて。一緒に登校して! 帰りは咲紀さんと一緒に買い物とかしてご飯作って! 皆で一緒に食べて……!!!

 そんな普通の生活を取り戻したかっただけだ――!


 ――だから!!



「ねぇ圭君! 圭君は足なんて踏まない子が好きだよね!?」


「圭兎君はお姉さん系が好きなんです!」


「むっ……圭兎はアタシみたいなお姉さん系が好きなのか!」


「あ、あたしだって三ヶ月お姉さんだもん!!」



 好き勝手言いやがって……! 止まる事を知らない四人を前に、お腹の辺りから沸々と何かが沸いて来る。

 ――目いっぱい息を吸い込んで、力の限り叫ぶ。

 俺は『平和な家族』を望んでいただけで、ハーレムなんて要らないんだ!


 だから! と思う気持ちが強い――だけど……!


「こんな……!」


 ――こんなハーレムはいらない?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ