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十二月三十日――――夜~リビング~②

 久し振りに家族で笑い合って――笑顔を確かめて、凄く安心した。これが本来の橋﨑家、そのものなのだから。

 いつでも笑顔が咲いていて温かくて……。

 そんな家族でいられる事こそが、俺の「願い」だ。それ以上は何も要らない……全員がこの想いを持ってくれていれば、それだけで……。


「ふふっ……私達って馬鹿みたい……」


 咲紀さんが自嘲気味にそう言って、目尻に浮かんだ涙を拭う。

 嬉しいんだ、咲紀さんだって。――いや、咲紀さんだけじゃなくてこの場にいる全員が。


「ええ……そうですね……」


 稟香もどこか懐かしそうな表情で頷く。……稟香のこんな泣き顔なんて、初めて見たかもしれない。


「全くだな……アタシ達は何をムキになっていたんだか……」


 飛鳥さんも呆れたような表情で深い溜め息を吐く。そこには「安堵」の溜め息も混じっていて……。失くした物が自分にとってとても大切だった事に気付いたような表情だった。


「良かった…………」


 そして――今回の事で一番、橋﨑家の復活を願っていたであろう千春は片腕で両目を隠し、天井を仰いでいる。その肩は小刻みに震えていて、見ているのも辛かった。

 ……こんなになるまで俺は状況を悪化させていたのか……。

 そう考えると、千春にも皆にも申し訳無さが沸いて来る。ここまで苦しめていたのか……。


「――本当にすみませんでした」


 気が付けば俺は無意識の内に立ち上がり、頭を深く下げていた。この半月の間で迷惑をかけた事を謝りたくて。お互いの仲に溝を生んでしまった事を謝りたくて。

 精一杯の気持ちを込めた謝罪。


「大丈夫だよ、圭君。……ね?」


 優しい声に顔を上げれば、咲紀さんが目の前まで来てくれて、俺の手をそっと取ってくれる。温もりと安心感のある、小さな手。

 咲紀さんのその目は、ここにいる全員を見回している。


「ええ、もちろん――ねぇ? 飛鳥さん」


「あぁ……だよな、千春?」


「うっ、ん……」


 ――そこに在ったのは、バラバラに崩れ落ちたはずの「家族」の姿だった。

 全員が手を繋いでそこ立っているような、そんな幻覚が見える。ずっと俺が望んでいた――(かたち)


「――――っ」


 急に込み上げて来た涙がぶわっと溢れ出し、頬を伝って床を濡らして行く。ぼやけた世界に見えたのは、心配そうな声を上げて俺に近寄って来る姉達。

 ――その声の全ては頭に入らず、耳から抜けて出る。



 四月の事……稟香と玄一さんが喧嘩をしていた。と言うよりは玄一さんの一方的な意見の押し付けだったそれは、俺が介入する事で鎮火ちんかする事になった。

 そして突然告げられた、稟香からの告白には酷く驚いた。

 ――四月には飛鳥さんの誕生日もあり、特大のサプライズを用意して告白され……飛鳥さんのギャップにも驚いたんだっけ。

 後は千春の出場した試合があり、家族の大切さを知る機会になったな。

 家族の大切さと言えば……五月の出来事が一番だ。稟香の母親が急に外国へ行くと言った、あの時の事が。


 六月には咲紀さんの行きたがっていた摩周湖に行ってエレベーターに閉じ込められたり。そして七月に入ってすぐにユーカリの木の下で、改めて咲紀さんに告白されて。

 稟香の誕生日会ではハプニング(千春からの告白)もあり……咲紀さんの誕生日会でもハプニングがあったけれど、ちゃんと笑顔で終われた事を憶えている。



 本当にいろいろな事があった。まだ一年も経っていないというのに、こんなにもたくさんの事を経験した……。

 その中でもやっぱり忘れられないのは――




『圭兎君、お願いがあるの』




 ――あの時の、稟香の母親からの切実なる願いだった。

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