四月六日――――昼食
「っつつ……」
背中の痛みに呻きながら目を明けると、自室のベッドよりも柔らかいリビングのソファの上に寝かされていた。だが、ソファは凹凸が有るので体の節々が痛い……。
「ふっ――」
ストレッチの様にソファの上で大きく伸びをする。それに伴って欠伸が出る。まだ覚醒していない俺の脳は、先程の事を思い出す。確か稟香さんに階段の途中で抱き付かれて――落下。
現在時刻は……十三時半か。じゃあ六時間半くらい前の事だな。絶対背中とか赤くなってるよな、これ。
「ん?」
ふとテーブルに目をやると、そこには二つ折りにされた紙が置いてあった。手に取って中を見ると、
『圭兎君へ
今朝はすみませんでした。調子に乗ってカラダを使って圭兎君を誘惑しようとしたところ、圭兎君の脳みそは私の魅力に気付かずに階段から落下するという選択肢を選んだ様なので……。
全く、圭兎君の脳みそは私を受け付けていないのね……。
まぁ良いです。学校には休むと連絡をしておいたので、今日は安心して寝ていて下さい。
P.S.
昼食は私達四人で作った姉弟愛たっぷりの食パンです。食べて下さい』
と、綺麗な字でそう書かれていた。どうやら、稟香さんも悪いとは思っている――のかもしれない。
とりあえず俺がここで否定しておきたいのは、俺は稟香さんの魅力に気付いているし、わざわざ自分から落下を選んだ訳じゃないし、何で稟香さんが被害者みたいになってるんだ! って事!
「はぁ……」
もう、溜め息しか出て来ない……! ソファから降りて、台所の方を見ると、テーブルの上に一枚の食パンを四等分にしたフレンチトーストと思しき物が皿に乗って置いて在った。
もうお昼時だし、ありがたく頂くとしよう。
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手を洗って席に着き、牛乳を一杯コップに入れて準備が出来た。ラップを外してレンジで二十秒くらい温める。見た目だけなら十分な出来だ。……見た目だけなら。
「……はぁ」
覚悟を決めて、手前に在った二枚の内の左側のフレンチトーストを手に取って一口、口に運んだ。
「もぐもぐ……んっコレは以外にいけ――ぐばぁ! 辛っ! はっ!? 何だコレ!? ――ゲホッゲホッ」
一瞬だけほんのりと広がる砂糖の甘み、後から攻めて来る刺激的な辛味。一体何を混ぜればこんな風になるんだろうと思って三角コーナー付近に目をやり、そこに無造作に置かれていた一瓶を見て目を疑った。
『タバスコ』
……もう、食べたくないよ。辛さか、辛さからか流れる涙。そうか、カラいとツラいは同じ字なのか。