十二月三十日――――夕暮れ~リビング~
――あの日の喧嘩の原因は、咲紀さんだった?
咲紀さんが俺の事について話題を振った……から?
ポロポロと涙を流す咲紀さんを見て、驚きを隠し切れない。だって喧嘩の発端が咲紀さんだった……なんて、信じたくない。
「本当に……ごめんなさい」
そんな俺を他所に話は進む。咲紀さんはもう一度深く腰を折って謝罪をし、誠意を見せてくれている。
本当に心の底から「ごめんなさい」と思う気持ちが、その姿からも見て取れた。が――、
「――咲紀さんの言いたい事は分かりました。……ですが、結論に変わりは無いと思いますよ? 圭兎君が四人に増えない限りは、仕方の無い事です」
そう言って稟香が、腕を組んで俺を睨むように見る。……話の内容が全部分かった訳では無いが……俺が四人に増えたら相当ミステリーだという事は確実だな。
「っでも……!」
それでも咲紀さんは、食い下がる。決して諦めようとはしないで立ち向かおうとする。そんな姿が――素直に格好良かった。
屈しない心が、真っ直ぐで綺麗で。
「咲紀、仕方無いんだ。アタシ達が悩んでどうこう出来る問題じゃないだろう」
必死に自分の思いを伝えようとする咲紀さんを、飛鳥さんが言葉で押し付ける。だが、ここで黙っていなかったのは――
「やっぱりおかしいよ……」
――千春だった。
きっと咲紀さんが……とかではなく、本人もそう思っているのだろう。その声には強い想いが感じられる。
………………ってちょっと待て。
「ストップストップ! 俺にも、あの日の事を教えて下さい! 何が何だか……」
明らかに俺だけが、浮いていた……。
状況を把握出来ていないでこの場に居るのは、俺だけだからな。まずはあの日の喧嘩の事を話してもらおう……。
「「「「………………」」」」
……と思ったが、誰も何も言おうとしない。
「あ、あの……」
助けの意を込めて四人の顔を見回すが、目が合った瞬間に逸らされてしまう。……このままじゃあ埒が明かないな……とは言っても強要するのも気が引ける。
――そして、待つ事五分。
「……………………………………はぁ」
咲紀さんが重たい溜め息を吐いてから「私が原因だから話すね……」と前置きをし、あの日の事についてを話してくれた。
――要約すると、
あの日――十二月十五日――、数日前に俺と喧嘩をしていた咲紀さんは、その事が気にかかっていたらしい。
仲直りは出来たものの、現状に変わりは無い。……つまり、俺とは進展が無い事に不安を覚えたと。
それでリビングに集まっていた飛鳥さん達に「圭君の事どう思う?」と訊いた。――それが事の始まりだと言う。
唐突な質問に飛鳥さん達は戸惑ったものの、自分の思っている事を伝えた。……俺の事が好きだと。
しかしここで問題が発生する。先にも稟香が言った通り、俺は一人しかいない。
つまり、誰かが譲るかをしないといけないという事。
そこで咲紀さんの「圭君は渡さない」という発言が飛び出た……と。
――全てはそういう事だった。
恋をするうえで避けては通れない道。譲るか譲らないかの話。
「……そうだったんですか」
なるほど……それで「譲る譲らない」と「そんなのはおかしい」の二つに別れてしまった、と。
「うん……それで揉めちゃって……」
苦しそうに俯く咲紀さんは、俺と同じで喧嘩なんてしたくないといった様子で。……それはここに居る全員が同じだった。
――だから、戻そう。橋﨑家をいつもの橋﨑家に。
「皆さん、俺は――――」
伝えよう。俺の考えを、たとえ受け入れられなくても、納得してもらえるまで。
俺は……ここに居る誰とも付き合う気は無い、と。




