十二月三十日――――夕暮れ~帰り道・リビング~
みんなでちゃんと話をする。それは俺が望んでいた最終ゴールだった……けれど、まさかこんな形で迎えるとは思っても見なくて。
事実上、四人はまだ喧嘩をしたままで、そこに俺も加わっている。それはつまり仲介役の存在しない話し合いとなる。
「……ねぇ圭君」
「はい……」
家へと帰る道すがら、咲紀さんが呟くようにして俺の名前を呼ぶ。その声には『怒り』が滲み出ていて……。
自分がどれだけ愚かだったのかが分かり、悔しくなる。
「私は…………喧嘩がしたい訳じゃないからね……」
「……分かってます」
そう――誰もこんな喧嘩なんて望んでいない。
「……私は…………みんなと笑って過ごしたいんだよ…………」
「それも……分かってます」
全員が全員『家族の為に』と思って動いた事が、裏目に出てしまっただけだ。想うところは、きっと変わらない。
少しだけ『想い』が強かっただけなんだ……。ちゃんと話し合えば、俺達は大丈夫――――。
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ガチャッと音を立てて扉を開き、玄関に足を踏み入れる。扉越しに、リビングに明かりが灯っている事が分かる。
……飛鳥さんだろうか? それとも……稟香?
部屋に居るものだとばかり思っていた予想が外れて、少しだけ驚いてしまう。
――ガチャッ。
千春がリビングの扉を開き、小さく「ただいま」と呟く。こういう礼儀は忘れない……それが千春だ。凄く優しくて、常に「礼儀」を心掛けている。
「お帰りなさい」
「お帰り」
――リビングからは、聞き慣れた声が二つ。
どうして二人で一緒に居るのか――――って……そういえばあの日の喧嘩は「飛鳥さん・稟香」と、「咲紀さん・千春」で分かれていたじゃないか。
「……そういう事か」
小さく呟いて、リビングへと続く道を歩く。たったの一メートル程の距離なのに、足取りが重く感じる……。
飛鳥さんと稟香がリビングに居た理由。それは薄々気がついていたが、リビングに入って顔を見た瞬間に分かった。
――もうこっちは準備が出来ている。
そう言いたげな表情でソファに座っている。まるでRPGのラスボスのように。
「ただいま」
「……ただいま帰りました」
咲紀さんに続いて挨拶をし、上着を脱ぎ、ゆっくりとソファに座る。そういう話し合いの空気が嫌いな俺にとって、今のこの場は地獄でしかない。
――まずは何と切り出そうか?
こんな状況にしてしまった身として、話の切り出しくらいはしておこう。……と、余計なお世話かもしれないが考える。
だけどなかなか相応しい言葉が見つからなくて、頭をガシガシと掻き毟った時だった――――。
「――――みんな、ごめんなさい」
千春の隣に腰掛けていた咲紀さんが、急に立ち上がり頭を深く下げた。
その行動に目を疑った俺は、何も言えないでその姿をジッと見つめる。……どうして……咲紀さんが謝るんだ?
疑問が疑問を呼び、頭が働かない。
そして、次に咲紀さんが発した言葉は――
「あの日……喧嘩する破目になったのは……私が悪いから。私が「圭君の事どう思う?」なんて聞かなかったら……」
咲紀さんはそこで一度言葉を切り、続けた。
「私が……「圭君は渡さない」って意地になったから………………ごめんなさい」
――その事実は、俺の頭を一瞬で頭を真っ白にさせる力を持っていた。




