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十二月三十日――――夕暮れ~総合体育館~

 ――――咲紀さんと千春は、俺の事を嫌いになったかもしれない。


 二人に近づく途中、そんな事を考えて足が止まった。咲紀さんと千春に嫌われる……そんなの嫌だ……嫌に決まってる。

 だけど、そうなってしまってもおかしくは無い。もしもそうなったとしても、悪いのは俺なんだから。自業自得、なんだから。


 ――でも、それでも……。


 俺は嫌われる事が怖くなって、一歩ずつ後退して行く。ゆっくりと、物音なんて立てずに。

 ……この位置で気付かれたら……もう逃げられない。


 「嫌い」だと、正面から言われてしまう気がする。


 寒さなのか、恐怖なのか……ブルブルと震え出した体にムチを打って、徐々に二人との間隔を空けて行く。

 もう少し……もう少しで体育館の陰へと隠れられる……そんな時だった――。


 ――バキッ!


 ――運命の神様は実に残酷で、俺には微笑んでくれなかった。

 足元を見れば、そこには俺の靴の下で真っ二つになってしまっている木の枝が在り……。この時期で表面が凍ってしまったのか、普通では気付かれない音でも、今ではハッキリと辺りに響き渡った。

 つまり、それが何を意味するのか……?




「………………圭、君?」




 ――当然、咲紀さんと千春も気付いてしまう訳で。


「あっ……いや……」


 終わった。――全身から血の気が引いて、その場に立っているのも辛くなってしまう。それでも、何とか持ち(こた)えて中途半端な体勢を維持し、二人と向き合う。

 俺が下がった分だけ開いた間隔でも、お互いの表情は十分過ぎるくらいに確認出来て。きっと二人からは、俺の「絶望」に染まった表情も見えるだろう。


 ――俺が二人の泣き顔を確認出来ているのと同じで。


「圭君……何しにっ…………!」


 服の袖で涙を拭き取った咲紀さんが、キッとこちらを睨みつける。その目を見て、先程叩かれた左頬がジンジンと痛み出す。

 いつもなら、どんな時にでも優しく接してくれる咲紀さんが、ここまで豹変ひょうへんしてしまっている。

 ――分かってる。全部俺の所為だって事くらい。


「…………二人が………………心配で」


 重々しく開かれた口から出て来たのは、ありえないくらい白々しいものだった。心配はしている……けれど、そんな理由で追いかけて来たなんて知ったら、きっと咲紀さんの――


「――何が……心配よ…………! ふざけないでよ! 圭君がそんな人だなんて思わなかった!!」


 ――逆鱗に触れてしまう。

 でも、俺には他に何も思い浮かばなかった。うまい言い訳も、納得させられるような理由も……何も……。

 それで結局は「自分が千春を追い出したくせに、心配になった」なんて最低最悪な理由を選んで……。


「………………」


 そして――何も言い返せなくて。


 どうしようもなく情けなくなって、手の平に爪の跡がつくくらいに、拳を握り締めた。この痛みで、心の痛みを消し去れる事を祈って。

 ――だけど、そんな事が出来るはずも無くて。


「…………ごめんなさ――――」




「――――咲紀……もう……大、丈夫だよ……」




 また謝って、事態を悪化させようとしていた俺の声を遮って、千春が弱々しく咲紀さんの服のすそをぎゅっと握った。

 そして、意を決したように顔を上げ――


「――帰ろう……。それで、みんなと一緒、にっ……ちゃんとっ、話しようよ……」


 ……と、目から大粒の涙を零しながら言った。

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