十二月二十九日――――朝~登校中~
それからと言うものの、四人の間に亀裂が入ったままの日々が続いた。
毎日顔を合わせている姉妹なのに、その関係はどこか他人染みていて、他所他所しい。
まるで俺と咲紀さんが喧嘩をしていたあの一週間のよう。
――だが、今回のものは『喧嘩』なんてものでは済まされないような雰囲気が漂っていた。そう……まさに「家族の崩壊」。
そんな四人を前に、俺はどうすれば良いのかも分からず……。
登校中、飛鳥さんと稟香。咲紀さんと千春に別れて家を出て行き、俺は取り残された。いつも四人が出て行ってから、一人寂しく家を出て……。
下校も……咲紀さんとはしなくなった。あの『喧嘩』を見てしまった日、下駄箱に「先に帰ってて 咲紀」と手紙が入っていた。
そして、料理も咲紀さん一人でやるようになり……。俺が「手伝います」と言っても「大丈夫」の一点張り。
四人から始まった亀裂は、俺にまで届いていた。
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寒さで身を震わせる朝、俺はまた一人で通学路を歩く。
「はぁ……」
口から出た溜め息が、白い吐息となる。
――もう……二週間になるだろうか。
「早いな……」
年に一度きりのクリスマスパーティーを何もせずに過ごし、あっという間に十二月二十九日。……ちなみに俺達の通う学校は本日が終業式。
他の学校よりも数日遅い事になる。
「はぁ……」
終業式で浮かれている生徒から外れて、一人で何度も溜め息を吐く。……今の俺には、それくらいしか出来ない。
どうして喧嘩なんてしているのだろう?
原因は? もしかして、俺にも関係ある事なのか?
そうだとしたら、俺は何かしただろうか?
……思い出せ……あの日の会話を。
『じゃあ……! 飛鳥と稟香ちゃんは諦められるの!?』
咲紀さんの、感情のこもった声……。そういえば、あの会話の中で「諦める」とか「諦めない」とか……そんな話だったよな。
……一体何を諦めろと言っていたんだ?
頭をブンブンと振り、思考をリセットさせる。
「……よし」
考える事は不要だ。このままじゃ……駄目なんだ。
橋﨑家は笑っていなければいけない。それが橋﨑家であるから。
「……どうする?」
いつも通りの橋﨑家の四姉妹にする為に俺が出来る事は? 俺にしか――出来ない事を探すんだ。
四人だけだと出来ないけど、俺が居れば出来る事……。
何だ? 探せ、探せ……。
『そんなの間違ってるよ!』
『だからってどうする訳にも行かないだろう』
『じゃあ咲紀さんが諦めてくれますか?』
『……どうして誰かが諦めるとか、そんな話になるのさ』
あの日の会話の中に、きっと何かヒントが在るはずなんだ……。
間違ってる……どうする訳にも行かない……諦めてくれるか……そんな話じゃない?
せめて何の事でもめているのかさえ分かれば……。
そう思った俺の頭に――――
『『『『っ――!』』』』
――――あの時、俺がリビングに顔を出した時に浮かんだ、四人分の驚きの表情が浮かんだ。
俺が現れたから、四人は話を止めた?
……俺には聞かれてはいけない内容だった?
その話は――――。
パズルのピースを組み合わせて行く要領で、どんどんと頭の中に可能性が浮かぶ。それがたった一つの、俺の中の答えに辿り着いた時――。
「おいおい……」
――顔が真っ青になった。
「本当かよ……」
それじゃあ今までの喧嘩は……全部……、
――俺の所為なのか?
「っ……!」
そう思うと、急に居心地が悪くなる。多分、俺の辿り着いた『答え』は……当たっているんじゃないか……?
……じゃあ……俺が出来る役なんて――
――汚れ役しか、ないじゃないか。
橋﨑家をいつも通りに戻す為には、俺が動くしかない。それはもう分かっていた。
そして、俺がやらなければいけないのは、『汚れ役』。
「……やってやる」
そんな嫌な役を被らなければいけないのに、俺の心は晴れている。……自分でもおかしいと思う。
けれど――おかしくない。
家族の為に、俺は自ら汚れ役になってやろう。




