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十二月二十九日――――朝~登校中~


 それからと言うものの、四人の間に亀裂が入ったままの日々が続いた。


 毎日顔を合わせている姉妹なのに、その関係はどこか他人染みていて、他所他所しい。

 まるで俺と咲紀さんが喧嘩をしていたあの一週間のよう。

 ――だが、今回のものは『喧嘩』なんてものでは済まされないような雰囲気がただよっていた。そう……まさに「家族の崩壊」。

 そんな四人を前に、俺はどうすれば良いのかも分からず……。


 登校中、飛鳥さんと稟香。咲紀さんと千春に別れて家を出て行き、俺は取り残された。いつも四人が出て行ってから、一人寂しく家を出て……。

 下校も……咲紀さんとはしなくなった。あの『喧嘩』を見てしまった日、下駄箱に「先に帰ってて 咲紀」と手紙が入っていた。


 そして、料理も咲紀さん一人でやるようになり……。俺が「手伝います」と言っても「大丈夫」の一点張り。


 四人から始まった亀裂は、俺にまで届いていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 寒さで身を震わせる朝、俺はまた一人で通学路を歩く。


「はぁ……」


 口から出た溜め息が、白い吐息となる。

 ――もう……二週間になるだろうか。


「早いな……」


 年に一度きりのクリスマスパーティーを何もせずに過ごし、あっという間に十二月二十九日。……ちなみに俺達の通う学校は本日が終業式。

 他の学校よりも数日遅い事になる。


「はぁ……」


 終業式で浮かれている生徒から外れて、一人で何度も溜め息を吐く。……今の俺には、それくらいしか出来ない。



 どうして喧嘩なんてしているのだろう?

 原因は? もしかして、俺にも関係ある事なのか?

 そうだとしたら、俺は何かしただろうか?

 ……思い出せ……あの日の会話を。


『じゃあ……! 飛鳥と稟香ちゃんは諦められるの!?』


 咲紀さんの、感情のこもった声……。そういえば、あの会話の中で「諦める」とか「諦めない」とか……そんな話だったよな。

 ……一体何を諦めろと言っていたんだ?



 頭をブンブンと振り、思考をリセットさせる。


「……よし」


 考える事は不要だ。このままじゃ……駄目なんだ。


 橋﨑家は笑っていなければいけない。それが橋﨑家であるから。


「……どうする?」


 いつも通りの橋﨑家の四姉妹にする為に俺が出来る事は? 俺にしか――出来ない事を探すんだ。

 四人だけだと出来ないけど、俺が居れば出来る事……。

 何だ? 探せ、探せ……。


『そんなの間違ってるよ!』


『だからってどうする訳にも行かないだろう』


『じゃあ咲紀さんが諦めてくれますか?』


『……どうして誰かが諦めるとか、そんな話になるのさ』


 あの日の会話の中に、きっと何かヒントが在るはずなんだ……。

 間違ってる……どうする訳にも行かない……諦めてくれるか……そんな話じゃない?

 せめて何の事でもめているのかさえ分かれば……。


 そう思った俺の頭に――――


『『『『っ――!』』』』


 ――――あの時、俺がリビングに顔を出した時に浮かんだ、四人分の驚きの表情が浮かんだ。


 俺が現れたから、四人は話を止めた?

 ……俺には聞かれてはいけない内容だった?

 その話は――――。


 パズルのピースを組み合わせて行く要領で、どんどんと頭の中に可能性が浮かぶ。それがたった一つの、俺の中の答えに辿り着いた時――。


「おいおい……」


 ――顔が真っ青になった。


「本当かよ……」


 それじゃあ今までの喧嘩は……全部……、


 ――俺の所為なのか?


「っ……!」


 そう思うと、急に居心地が悪くなる。多分、俺の辿り着いた『答え』は……当たっているんじゃないか……?

 ……じゃあ……俺が出来る役なんて――


 ――汚れ役しか、ないじゃないか。


 橋﨑家をいつも通りに戻す為には、俺が動くしかない。それはもう分かっていた。

 そして、俺がやらなければいけないのは、『汚れ役』。


「……やってやる」


 そんな嫌な役を被らなければいけないのに、俺の心は晴れている。……自分でもおかしいと思う。

 けれど――おかしくない。


 家族の為に、俺は自ら汚れ役になってやろう。

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